〜エルファナ大森林〜その8
パーショト神父に挨拶をしながら、邪教徒の調査を頼まれたことを伝える。
すこし考える様な素振りを見せながら、パーショト神父は話し始めた。
「確かにそういった話は、私の耳にも入って来ています、しかし、エルファナ村の村人の中に邪神ドルフを信仰するものが居ると言うのは、私の目から見れば考えにくいと思います」
「やはりエルファナ村ではステラ教が根強く信仰されているからですか?」
「おっしゃる通りです、私がこの村に配属されてから既に5年、村の事は概ね熟知しているつもりです」
「外から時々冒険者が訪れるという話を聞きました、怪しいと目をつけて居るんですが、その人物について何か知っている事はありませんか?」
村人の中に邪教徒が混じっていないであろう事は、これまでの調査を振り返っても予想が出来る。
「冒険者の事をご存知でしたか」
どうやらパーショト神父は、冒険者の事を知っているようだ、話し方から察するに、パーショト神父も目をつけていたのだろう。
「その冒険者は名をルパウダと名乗っています、いつも黄色いバンダナを頭に巻いている男で、年齢は30前後、2人程部下を引き連れている所も目撃されています」
かなり具体的に知っているようだ、エルファナ村の教会でも、邪教徒の事を調査していたのかもしれない。
「最後に村に来たのはいつ頃ですか?」
「一月程前の事でしょうか、あなた方の前任の冒険者達が村から居なくなった後すぐの頃だったかと思います。地図は持っていますか?」
持っていますと答えながら、パーショト神父の前に地図を広げる。
「ルパウダ達はいつもこちらの方角からやってきて、村を出ていく時にも同じ方角へ帰っていきます。私も後を追おうかと考えたのですが、申し訳ない、立場上あまり危険な事も出来ないもので」
「わかりました、後は任せてください」
パーショト神父にお礼を言って教会を出る、レスが教会の外まで見送りに来てくれた。
「思わぬ情報が手に入ったね」
「そうだな、こんな事なら、先に教会の方を訪ねて来ておけば良かったな」
「明日の調査はこっちの方面になりそうだね」
アイザックが地図を指差しながら言った、ルパウダが村を去っていく方角だ。
「ミネ達やモリスさん達の話も聞いてから考えよう、もしかしたら有益な情報を掴んでいるかもしれない」
「じゃあひとまず宿屋に帰ろっか、みんなもう戻って来てるかもしれないよ」
ユチェの提案に同意して、一度宿屋に戻ることにする。
村の灯りに照らされながら、大木の間に作られている道を宿屋に向かい歩く。
既に辺りは暗くなっていて、灯りがあるとは言え薄暗い。
「ねぇヒロ、ヒロはエルファナ村で食べた料理だと、何が好きだった?」
アイザックが少し大きめの声で聞いてきた、そちらを見ると、ハンドサインを身体で隠しながら後を指差している。
「そうだな、キノコ焼きかな、俺は元々キノコが結構好きなんだよ、エルファナ村の料理は口に合う」
背後を振り返らないように、気配を探る。
後ろから誰かがついて来ている、おそらくは1人、多くても2人だろう。
アイザックに軽く頷いて、歩くスピードを落とし、ユチェに前を歩かせる。
相手に気付いている事を悟られないように、適当に雑談しつつ、襲いかかってくる事も警戒しながら歩き続ける。
出来る事なら今の状況で騒ぎになる様な真似は避けたい。
そのまま何事もないと言う素振りを維持しながら、宿屋まで帰ってきた。
まだ他の人達は帰って来ていないらしい、宿屋の扉を閉めて窓の隙間から外を確認する。
「まだ居るかい?」
「居るな、邪教徒かどうかは分からないが」
「え? なんの話?」
ユチェに後をつけられていた事を話しながら、背後を追いかけてきた人物を良く確認する。
暗すぎて見えないが確かにいる、手は出して来ないようだ。
「ねぇ、こっちの場所がバレるのってマズくないの?」
「俺達が村に来た時からバレてるよ、手を出してくるなら、昨日の夜にはもう襲われてるんじゃないか? 何度も言うが、村の中で手を出してくる事はないと思う」
「じゃあ、なんで背後をつけてきたんだろう?」
「調査の進み具合が気になったんじゃないか? そもそも自分達の調査に来てるなんて思ってないかもしれないしな」
暫くそのまま人影を観察していると、ゆっくりと何処かへ行ってしまった。
「行ったな」
「どうかな、怪しまれちゃったかもね」
「大丈夫だとは思うんだが、明日は森に行く前に尾行されてないか良く確認した方が良さそうだな」
「このまま入り口付近を見張っておくよ、ミネ達やモリスさん達にも、見張りがついているかもしれない」
「任せても良いのか? それじゃ先に休憩させてもらおうかな」
見張りをアイザックに任せて、テーブルがある部屋へ向かう。
椅子に座り、地図を広げ眺めながら、今日新しく手に入れた情報を整理する。
まず、ルパウダと名乗る冒険者は、邪教徒の一員と見て間違いないだろう。
村への行き来に使っている経路を考えると、拠点は南東の方角にあるのは間違いない。
もし明日そっち方面を調べに行くとしたら、本格的な戦闘になる可能性もある。
出来る事なら、相手の拠点の場所だけ調べて、その後の事はギルドに任せたい所だ。
「はいヒロ」
ユチェがコーヒーを持って来てくれた、後はモリスさん達とも相談してから決める事にしよう。
コーヒーを一口飲んで、一息つけることにした。
「ねぇヒロ、もし邪教徒が襲ってきたら、戦うんだよね?」
「そりゃあそうだろ、避けたくはあるけど」
「ヒロは戦えるの? その、人と、殺し合いになるんだよね、やっぱり」
もし襲われればそうなるだろう、当たり前の事だが、生まれてこの方、人と命を賭けて戦った事など一度もない。
相手が自分の命を狙ってくる以上、自分もそのつもりで戦わなくてはならないだろう。
「やるしかない、躊躇すれば、死ぬのは自分の方だ」
「うん、わかってはいるけどさ」
宿屋の扉が開く音が聞こえる、アイザックが何の反応もしなかったことを考えると、誰か帰って来たのだろう。
部屋の入り口を見ていると、ミネ達やモリスさん達が一緒に部屋に入ってきた。
アイザックも見張りから戻ってきた所で、明日の為の作戦会議が始まった。




