〜エルファナ大森林〜その5
この羽音は、蜂のものに間違いないだろう。
音に気付いたミネとカーズが素早く武器を構える。
「おいおい、なんだってんだいきなり」
「ヒロ君、カーズ君、蜂だよ気を付けて」
羽音は一方からだけではなく、前方広い範囲から聞こえてくる。
比較的動きやすそうな、大きな根の上に立ち剣を抜く。
「ミネ、どの位の数がいるかわかるか?」
「ちょっと自信ないな、6匹、いや、10匹近いかな」
巨木の影から蜂が姿を現せた、2リットルのペットボトル程の大きさをした巨大な蜂だ。
足場が悪く、動き回りながら戦う事は出来ない、こちらに飛んでくる蜂には明らかに敵意があった。
剣を真っ直ぐ横に構え、近くまで来るのを待つ。
元世界の蜂に比べると、遥かに体が大きい分、攻撃を当てることは容易いだろう。
それでも速い事には変わりない、右へ左へと軌道を変えながら、こちらに向かって飛んでくる。
尾の先からは、刺されれば只ではすまない大きさの針が鈍い光を放っている。
「ここぉ!」
飛びかかられる寸前の所で身を躱し、そのまま斬りつける。
外殻はそれほど硬くなく、蜂は真っ二つになり地面に転がる。
いくら昆虫は生命力が強いと言っても、あれならば止めを考える必要はないだろう。
次の1匹に備えて、素早く剣を構え直す。
「はぁ!」
「おらっと!」
ミネとカーズも次々に蜂を倒していく、これならばさほど苦戦もしなさそうだ。
最後の蜂を切り捨てた後、まだ羽音がしないかどうかを確認する。
風が木の葉を揺らす音以外は何も聞こえては来なかった。
「終わったか」
「楽勝だったな」
剣を鞘に収め、地面に落ちた蜂を確認する、まだ少し動いてはいるものの、もう襲って来る事はないだろう。
「いきなり襲って来たね」
「なんでだろうな、さっきまでは羽音1つ聞こえて来なかったって言うのに」
地面に落としたメモ帳を広い、麻袋の中に入れようとすると、何かに気付いたミネに止められた。
「ヒロ君、そのメモ帳ちょっと貸してくれないかな?」
ミネにメモ帳を渡すと、ミネはページをペラペラとめくりながら、メモ帳に顔を近づけた。
その後麻袋の内側を確認して、顔をしかめる。
「そうか、やられたね、罠だ」
「どういう事だよ? メモ帳に何か仕込まれてたってのか?」
ミネはメモ帳を麻袋の中に入れて、口をきつく縛った。
「このメモ帳には、蜂が敵を見つけた時に出す体液が塗られてる、麻袋には、匂いを遮断する薬が内側に塗られてた。どっちもエルファナ村の猟師が狩りの時に使うものだよ」
麻袋を拾って、中のメモ帳を確認すれば、蜂が寄って来て襲ってくるような仕掛けが施されていたらしい。
「村の猟師が邪教徒だ、ってぇのか?」
「どうだろうね、僕としてはそうは思いたくないけど」
「昨日酒場で聞いた話も考慮すると、村人に邪教徒が紛れ込んでるとは考えにくいけどな。どちらにせよ、一旦戻るか」
「そうだね、報告しておいた方が良いかもしれない」
3人で来た道を帰ろうとした時、森の奥の方から激しい光が見えた、照明弾だ。
「戻るわけにはいかないみたいだな」
方角からして、アイザック達ではなくモリスさん達の方だろう。
木の根の上を出来るだけ早く移動しながら、照明弾が光った方へ向かう。
「ヒロ!」
向かっている最中で、違う方向から駆けつけてきたアイザック達と合流することが出来た。
そのままモリスさん達がいるであろう方へ、一緒に向かう。
そこではモリスさん達と、巨大蜘蛛の群れが戦闘を繰り広げていた。
巨大蜘蛛だけではない、頭上には何十匹もの蜂が飛んでいる。
幸いな事に、全員まだ無事なようだ、襲って来る蜂を蹴散らしながら、モリスさん達と合流する。
「すまない! 数が多すぎて対応しきれなくなった!」
そう言うモリスさんの側には、先程見つけた麻袋のようなものと、中に入っていたのであろうメモ帳が落ちていた。
同じような罠が仕掛けられていたのだろう、ミネに頼んで、メモ帳を麻袋の中に入れて、口を縛ってもらう。
「アイザック、アイラと一緒に蜘蛛を頼む! 俺達は蜂を処理する!」
「任されたよ」
アイザックがアイラと共に、巨大蜘蛛と戦っているモリスさん達の援護に向かう。
向かいながらも蜂を叩き落とす様は、頼りになるの一言だ。
「カーズ、ミネ、そっち側を頼めるか? 出来るだけアイザック達の方に蜂が行かないように戦ってくれ、ユチェ、火事になるといけない、魔法を使うのは出来るだけ避けてくれ」
「あぁもう! こんな事なら使える魔法の種類増やしとくんだった!」
ユチェはそう言いながら、飛びかかってくる蜂を戦杖で叩き落とした。
魔法を使えないユチェを出来るだけカバーしながら、襲いかかってくる蜂から順に斬り伏せていく。
いくら数が多いと言っても、1匹1匹の脅威はそれほどでも無い、丁寧に処理していけば、被害も出ないだろう。
少々時間は掛かったが、蜂の数ももう数える程になり、巨大蜘蛛は既に残っていない。
襲いかかって来た1匹を斬り捨てて周りを確認する。
もう側には蜂は飛んでいない、アイザック達やモリスさん達、カーズ達も残りの蜂を倒しているのが見える。
「終わったか」
ユチェと一緒にアイザック達に近づく、カーズとミネも同じように、こちらに歩いて来ている。
「終わったみたいですね」
「あぁ、すまない、4人であの数だと被害が出る可能性があったのでな、照明弾を上げさせてもらった」
怪我人もなく、全員無事なことを確認してから、麻袋とメモ帳の事について報告をする。
アイザックの方では何も見つからなかったらしい、2つの麻袋を持って、一度森から出ることになった。
森に入ってきた時とは違い、全員で揃って森を出る。
森の入り口で安全を確認した後、改めて作戦会議をする事になった。
「この麻袋が罠だったか、ヒロ達の方でも似たようなものがあったんだろう?」
「こっちも蜂に襲われましたね、数は少なかったですが」
こちらの方が、森の浅い位置にあった分、周りに居た蜂の数も少なかったのだろう。
蜘蛛に襲われたのは、偶然だったのだろうか、何か知っている事はないかとミネに聞いたが、心当たりはないようだった。
「折角だ、一度宿屋に戻って昼飯にしよう、照明弾の補充もしたい」
「そうですね、それならちょっと昼食の準備はお任せしても良いですか?」
「ふむ、何か用事でもあるのか?」
「ちょっと薬品の事について調べてみようかと、ミネとアイザックを一緒に連れて行かせてもらいます」
「わかった、邪教徒の動きには注意してくれ、まず間違いなくこの一件に絡んでいるはずだ」
全員で宿屋に向かって帰る途中で、ミネに頼み、猟師達が集まっているという話の拠点に案内してもらう事にした。




