〜エルファナ大森林〜その4
宿屋のドアを開け、みんなが待っているであろうダイニングルームに入っていく。
全員揃っている様だったので、酒場で得た情報を報告しておく事にした。
「来ていないはずの冒険者か、少し気になるな」
モリスさんが考える素振りを見せながら呟く。
話し終えたのを確認して、ミネが気を利かせて飲み物を持ってきてくれた。
子供の頃から良く飲んでいた、果物の絞り汁らしい、甘さを含んだレモン水の様な味がする。
「気にはなるが、明日は予定通り全員で森の調査に向かう事にしよう。仮にそいつが邪教徒の1人だったとしても、10人で一緒に行動しておけば、おいそれと手を出しては来ないだろう」
全員で明日の予定を確認して、それぞれの部屋へ向かう、ミネは自宅に帰るのかと思ったが、どうやらみんなと一緒に宿屋で滞在するらしい。
寝室は2階にあるようなので、少し埃の溜まった階段を上がり、角部屋の寝室を使わせて貰う事にした。
部屋に入り、備え付けのテーブルに、ダイニングルームから持ってきた、火のついた燭台を置く。
エルファナ村でも、ガラスの様な物は使われていないらしく、窓は木で作られた開き窓だ。
内開きになっているそれを全開にして、部屋の換気をしつつ、ベッドに座り込む。
宿屋の部屋は全室2人部屋のようだ、同室の相手にはアイザックを選ばせてもらった。
「さて、それじゃあもう夜も遅くなってきたし、明日に備えて寝ようか、と、言いたい所だけど。どうするんだいヒロ? 交代で村の方を見張るかい?」
アイザックも同じようにベッドに腰掛けながら、窓の方を見ている。
窓の向こうには、村側への道が続いていた、村で灯されている明かりがうっすらと見える。
「いや、邪教徒の方だって、見つからないならそれに越した事は無いだろう、迂闊に手を出してきたりはしないんじゃないか」
「そりゃあ残念だね、分かりやすく動いて来てくれれば、手間も省けるんだけどね」
「手間が省けたとしても、そんな危険な目には会いたく無いもんだな」
ベッドから立ち上がり、テーブルに置いた燭台の火を決して、窓から村を眺める。
巨大な木々が村の明かりでぼんやりと光っている様は、幻想的な雰囲気を醸し出している。
一応人影は無いだろうかと辺りを見渡しては見たが、暗すぎて良くはわからない。
明かりを使わずに隠れられているとすれば、ちょっと見つけられそうにはなかった。
「それじゃ、今日はさっさと寝るか」
「一応武器は手に届く範囲に置いておいた方が良いだろうね、万が一がある」
アイザックの意見に従い、剣は手放さずに、ベッドに横になる事にした。
「それじゃおやすみアイザック」
「おやすみヒロ、寝坊しないでね」
窓から吹き込んでくる、森の香りを含んだそよ風にさらされながら、その日を終えた。
翌日、朝から森へ向かう準備を整えて、朝食を食べる。
朝食の準備はミネとアイラ、それにクオニさんがしてくれたらしい。
エルファナ村ならではの食材を使った料理は、昨日酒場で食べた料理に劣らず美味しかった。
「さて、朝食も食べたし、早速森へ調査に向かおうと思う、みんな準備を済ませて、宿屋の前に集まってくれ」
部屋から出る前に準備を済ませておいたので、アイザックと2人でそのまま宿屋の外に出る事にする。
準備運動をしながら、周りの様子を探ってはみたが、誰かがいる様な気配はなかった。
「中々手を出して来ないね」
一緒に準備運動をしているアイザックが、小声で話しかけてきた。
「まぁ実際、相手側からすればリスクが大きすぎるだろうからな」
こちらはそう言うわけにはいかないが、邪教徒側からすれば、何もおきずに終わってくれるのが一番だろう。
準備を終えたメンバーが、順番に宿屋から出てくる。
全員揃ったことを確認して、森へ向かう事にした。
前任の冒険者達が最後に向かった調査地は、村からもそれほど離れていない。
ミネから村の話を聞きながら歩いていると、いつの間にか到着してしまった。
「良し、ではこの辺りから調査を開始しよう。森は広い、調査は3グループに分ける」
モリスさん達4人、アイザック、ユチェ、アイラの3人、残りの3人でグループを分けた。
ベテラン勢は少し奥の方を担当してくれるらしい、こっちは浅い位置を広く調査する事にした。
「ヒロ、アイザック、これを渡しておく、何か問題が起きたら、これで知らせてくれ」
そう言って渡されたのは、フアミ村の魔熊調査の時にも使われていた、魔道具の照明弾だ、ウェストポーチの中に入れておく。
モリスさん達が森の中に入っていくのを見送った後、アイザックとは別の方向に森の中に入っていく。
フアミ村の森とは違い、エルファナ大森林は木の大きさが凄まじく大きい。
このサイズの木で構成された森は、元世界ではまずお目にかかれないだろう。
巨木の根の上を歩きながら、森を進んでいく、足場が不安定で歩きにくい。
「これは歩きにくいな」
「慣れればそうでも無いんだけどね、足を滑らせないように気をつけてね」
エルファナ村出身のミネは慣れたものだ、木の根の上を飛び移りながら進んでいく。
時折上を見上げて、木の上部を確認する、巨大蜘蛛の巣がないか、良く見ておく必要がある。
そして、木に耳をあて、中から羽音が聞こえて来ないかも調べておく。
蜂は木の中に巣を作るらしく、エルファナ村の人々はこうやって巣の有無を確認するらしい。
その作業を繰り返しながら、何か変わったものがないか、周辺を見渡しながら森を進んでいく。
「ヒロ君、あれ、なんだろう」
ミネが何か見つけたようだ、指差す先を確認すると、何やら麻袋の様なものが落ちているのが見えた。
「何かの袋か? 心当たりはあるか?」
「いや、村の人が残していったとは考えにくいね」
「誰かの落とし物じゃねぇの?」
「こんな森の中でか? カーズ、ミネ、ちょっと周りを見張っててくれ、俺が見てくる」
近くの木を調べた後、麻袋が落ちている場所まで移動する。
小さな麻袋はかなりボロボロになっており、中には小さなメモ帳の様なものと、冒険者証であるドッグタグが1つ入っていた。
銅級の冒険者である事を示すドッグタグには、ギルドから聞かされていた前任者の名前が刻まれている。
カーズとミネの元に戻り、メモ帳の中を確認する。
「何が書かれてんだ?」
「うーん、森の調査の事みたいだな、巨大蜘蛛の巣を1つ潰しただとか、蜂を何匹か駆除しただとか書かれてる、特に異常なし、特に異常なし、特に異常なし、だとさ。読んでみるか?」
カーズにメモ帳を渡し、他に何か入ってないだろうかと麻袋を改めて確認したが、中は空っぽだった。
「冒険者証の方は、やっぱり前任の?」
「みたいだな、名前も前もって聞かされてた名前と一致するよ」
こんなに簡単に手掛かりが見つかるのは、ちょっと不自然な気もするが、偶々だと言う可能性も否定できない。
もう少し周りを調べてみようかと動き出した矢先、かなり大きな羽音が聞こえてきた。




