〜エルファナ大森林〜その3
エルファナ村の酒場に入り、適当なテーブルにつく。
エルファナ村の酒場は木の中ではなく、宿屋と同じようにちゃんと地面の上に建てられていた。
広いスペースを使う都合上、木の中に作るわけにもいかなかったのだろう。
濃い色の木材を基調にした内観は、町のそれに比べると木の暖かさと優しさを感じる。
「すいません、町から来たんですが、取り敢えずエルファナ村の名物料理とお酒をお願いします」
酒場の店員さんに、注文を入れて、辺りを見渡す。
中々繁盛しているようだ、店の雰囲気からそう感じるのか、町の酒場に比べると落ち着いた客が多い様にも思う。
「良いのかいヒロ、お酒なんか飲んじゃって」
「酔うまでは飲まないって、酔ったふりはするかもしれないけどな」
誰かしらを捕まえて話を聞くにしろ、相手が酔っている方が警戒心も薄まるものだろう。
まさかそんなことはあり得ないだろうが、相手が邪教徒ならば、ポロッと情報を溢すかもしれない。
まずはこの場に溶け込む為にも、自然に料理とお酒を楽しむ事にする。
「お待たせしましたー」
料理とお酒が運ばれてきた、アイザック達と乾杯をして、コップの中のお酒を一口飲んでみる。
甘い、アルコールは十分に感じるが、フルーツジュースみたいな甘さだ。
元世界にあれば、女の子受けの良さそうなタイプのお酒だと言える。
「甘いね、何を素材に使ってるんだろう」
「果物だよなぁ? 何種類か混ざってねぇか?」
お酒ではなく、食べ物の方にも目を向ける。
大森林に隣接している村と言うだけあって、予想はしていたが、食材にキノコが使われている。
元世界の知識がなければ、さも美味しそうに見えるのかもしれない、そのキノコと何らかの肉を、一緒に炒めたのであろう料理。
使われているキノコの種類は豊富で、全て食用であろうことは理解できるのだが。
凄まじく攻撃的な色をしている。
「へぇ、フアミ村にいた頃には、見たことも無いようなキノコが沢山使われているね」
「なんかすげぇ色してるな、美味いのかこれ」
カーズが見るからに毒々しいキノコを口に運ぶ。
「うん、コリコリしてて美味え」
それを見たアイザックもまた、フォークを使いキノコを口に運んでいく。
「食感が良いね、ソースも良く馴染んでいて、美味しいよ」
そうは言うものの、この色には抵抗がある、元世界ならば、口に入れれば病院直行間違いないだろう。
覚悟を決めて、毒々しいキノコを口に運ぶ。
まるで干し椎茸のような甘さがある、食感としてはエリンギ辺りが近いだろうか、香りは控えめだが、確かに味は良い。
ポン酢の様な、少ししょっぱさを感じる、柑橘系の香りがするソースとも相性がいい様に思う。
「美味いな、ちょっと見た目はアレだが」
一緒に炒められた肉も、少し野生感のある臭みは感じるものの、しっかりと油の美味さを含んでいて、それがキノコの炒め汁と絶妙に絡んでいる。
「お待たせしました」
更に食事が運ばれてくる、今度は串焼きのセットの様だ。
600mlサイズのペットボトル大の大きさのキノコが、串に刺さっている、控えめに言っても大きい。
醤油の様な匂いが鼻をくすぐる、さっそく食べてみる。
モニュモニュとした食感は、まるでマシュマロの様だ、少なくともキノコっぽさは無い。
味は淡白で、それが醤油風味のタレとも良く合っている。
先程の毒々しいキノコと違い、こちらのキノコは香りが芳醇で、元世界の松茸を思い起こさせる。
「良いんじゃないか? 俺は好みだけどな」
「美味しいと思うよ、エルファナ村ならではって感じだよね」
「俺はもっと肉が食いてえなぁ、キノコも悪かないけどさぁ」
思い思いの感想を出しながら、食事を進めていく。
ある程度お腹が膨れたら、お酒の追加注文と何か軽くつまめる物を頼んでおいた。
さて、食事を楽しむためだけに酒場まで来たわけではない。
辺りのテーブルを見渡して、目的のものを見つける。
そこでは、何人かの村人がカードゲームに熱中していた。
「そんじゃあまぁ、情報収集といきますか」
小声でアイザックに伝え、テーブルを立つ。
「楽しそうですね、森の調査依頼に町から来たんですよ、ちょっと混ぜてくれませんか?」
「見ない顔だと思ったら、やっぱり冒険者さんかい? 良いぜ良いぜ、混じってけよ。ルールはもちろんわかってるよな?」
「地方ルールだけ説明してもらえれば、あっちのテーブルにも連れが居るんですよ、暇してると思うので、良かったらこの辺りならではの面白い話でも聞かせてやってくれませんかね?」
「町から来た冒険者さんの話も聞きてえなぁ、良いぜ、みんなで楽しくやろうじゃねぇか」
何人かの村人が、自分のコップを持ってアイザック達のテーブルへ向かっていった。
アイザックとアイコンタクトを取り、そちらの方は任せると合図を送る。
こちらもテーブルにつき、カードゲームをしながら情報をあつめる事にした。
「へぇ、じゃあ兄ちゃんは銅級になりたてかい」
「そうなんですよ、まだ右も左もわかってませんね」
「まぁ、この村にはそんな奴らも良く来るぜ、何てったって、森が広いからな、調査依頼がひっきりなしだ、そんな危ねぇ魔獣もいねぇしな」
「巨大蜘蛛や蜂がいると聞きましたよ」
「全く危険が無いわけじゃねぇさ、時々被害も出ちまうしなぁ」
カードゲームをしながら、会話を進めていく、酔いも進んでいるのか、良く話してくれる。
「魔物なんかはどうです? 魔獣が多ければ、魔物の被害も出そうなものですけど」
「なんだ兄ちゃん、ビビってんのか? はっはっは、まぁ、やっぱり時々は出るぜ、でもまぁ、俺達の場合は、魔物が出たら分かるもんだよ、なんか森がおかしいってな。安心しろよ、最近はそんな気配ねぇさ」
魔物が発生している可能性は低いらしい、もちろんゼロというわけではないだろう。
コップを口に運んで、唇と喉を濡らす。
時折目立たないように周りを確認しているが、こちらを気にしている者が居る様子はない。
「そうなんですね、冒険者以外にもこの村には良く人が来るんですか?」
カードに目を落としているふりをしながら、辺りの気配を探る、ひとまず変わった様子はない。
「まぁ、でかい村だからな、商人やら旅人やら、人の出入りは多いぜ、兄ちゃん達はあの宿屋に泊まってるんだろ? 実は他にもいくつか泊まれる場所があってよ、まぁ、村人の小遣い稼ぎだな、部屋を提供してる奴等もいるんだぜ」
「へぇ、そうなんですか、まぁ、あの宿屋は少人数で使うには、ちょっと広そうですしね」
「中には柄の悪そうな連中も居るがな、まぁ問題を起こしたって話はあんまり聞かねえな。最近だってちょくちょく冒険者が来たりしてるみたいだな」
来た、町で事前に調べておいた話では、前任の冒険者が調査依頼に出て以来、町からエルファナ村に向かった冒険者は居ないはずだ。
エルファナ村に一番近い冒険者ギルドのある町は、今滞在しているオザット町のみで、近辺にはそれ以外の冒険者ギルドは無い。
旅をしている冒険者の可能性はあるが、いかにも怪しい話だ。
詳しく聞いても良いだろうが、踏み入っても良いものか。
この辺りで切り上げておくのが無難な所かもしれない。
「まだ村に来たばかりですが、良い村ですからね、やっぱりこの辺りを拠点にしている冒険者が多いんでしょうね」
「へっへっへ、良い村だろう? 森で取れる食材は美味えし、酒も美味え、大いなるステラ様の御加護ってやつだな。おっとそいつだ兄ちゃん、兄ちゃんには信仰心がたりねぇみたいだな」
「熱心な信徒のつもりなのですがね、ララ・ステラ様も人が悪い」
銀貨を数枚テーブルに出し、再びカードを配り直してもらう。
不自然さを出さない為に、そのまましばらく雑談をしながら酒場に留まる。
ある程度時間が経ったことを確認して、カードゲームを切り上げる事にした。
「ありがとうございました、そろそろ夜も更けてきたので、この辺りでお開きにさせて貰います」
「おう、森の調査頑張れよ兄ちゃん、簡単に死んじまうんじゃねぇぞ」
アイザック達が待つテーブルに戻り、お会計を済ませ、酒場を出る。
後ろからつけられている様子などはない、情報収集は上手く立ち回れたと思って良いだろう。




