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〜今日から異世界生活、日常から非日常へ〜その8

 アイザックと向かい合って構える、元世界では木の剣を使った模擬戦なんて、当然した事はない。

 当たった時にケガしたり、ケガさせたりしないだろうか、と言う不安はあるが、剣と槍のチャンバラごっこなんて心踊るじゃないか。

 しかし、アイザックも運のないやつだ、こっちは天下無双の異世界転生者である、自分が気付いてないだけで、剣術スキル∞、とかになっているのかもしれない。

 短い付き合いだった、だがアイザック、異世界で初めて出来た友人だ、お前の事は生涯の親友として忘れない。


「ヒロ」


 アイザックが、掛かって来いと言わんばかりに、手招きをして槍を構える。

 10も過ぎたばかりのくせに、なかなか肝が据わっている、良いだろう、大人気ない大人の強さを見せてやる。


「フッ!」


 走り込みからの横薙ぎ、これは槍の柄で受け止められる、木のぶつかる音が響く。

 素早く剣を戻し、斜めから斬り下ろす、バックステップで避けられた、更に踏み込み斬りつけようとするが、アイザックの引き突きが迫る。

 剣で受けながら身体を捻り避ける、そのまま距離を詰めようとするが、横薙ぎに阻止される、今度はこちらが後ろに避けた形になった。


 なるほど、ほんの数回振りあっただけなのに、既に少し疲れている、素振りとは全く違うものだ、迫ってくる槍は怖いし、手はジンジンとしている。

 アイザックの方はまだまだ余裕があるみたいだ、こちらと違い、無駄な力を使っていたりしないのだろうし、見るからに手加減してくれている。

 どうやら、剣術スキル∞なんて事はなかったらしい、魔法の才能が常人の万倍ある事を期待しよう。


 今度はアイザックの方から仕掛けてきた、突きを避けながら距離を詰めて斬りつける、しかし、受けられる。

 こっちが振るより、アイザックが引いて受ける方が速い。

 そうして何度かお互いに、斬りかかり、突き、受けて、避けてと繰り返す。

 時々外野から、おーと言う声や、拍手や、おそらく野次なのだろう、何か言っているのが聞こえる。


 アイザックの打ち下ろしを剣で受け止めて、鍔迫り合いになった、アイザックは凄く楽しそうに笑っている、こちらも笑っているのかもしれない。

 お互い力を込めて押し返しあう、同時に後ろに飛ぶが、槍を使っているアイザックは、素早く持ち方を変えて片手突きを放ってくる、それを受けながら、更に距離を取る。


 既にこちらは息切れしている、構えを解いて息を整える。

 アイザックの方は全く余裕のようだ、どうやらかなり実力差がある。

 お互い再び構え直す、アイザックが仕掛けてきた、先程より速い、捌き切るのがやっとだ、なんとか受け止め、避ける。


「このっ!」


 なんとか反撃に斬りつけてみたが、そこにアイザックの姿はなかった、気が付けば胸元に槍の先が突きつけられている、勝負ありと言う事だ。

 アイザックは不敵な笑みを浮かべ、鼻で笑った、久しく忘れていた闘争心に火がついたような気がする。

 こいつにはいつか必ず勝つ、笑い返して、カーズとユチェの見ている所に歩いて行く。


 次はカーズがアイザックの相手をするのだろう、腕をグルグルまわしながらアイザックの方へ歩いていった。

 座り込み剣を置く、完全に息切れだ、元世界でも、もっと運動しておけば良かった。

 いや、こんな事になるなんて、予想も付かなかったので無理な話か。

 ユチェが肩を叩いて何かを言ってきた、お疲れ様と言っているのだろうか、慰めてくれているのかも知れない。

 別に落ち込んだりはしていないが、気持ちは受け取っておく。


 カーズとアイザックを見ながら思う、何故この三人は戦闘訓練などしているのだろう。

 先程は、魔物や治安の都合だろうかと考えたが、大人達も居るのだから、こんな少年達が戦うなんて事あるだろうか。

 勝手なイメージだが、この歳の農村の少年なんて、親の手伝いをしながら暮らしてるんじゃないのか。

 ファンタジーな世界だし、冒険者なんかを目指したりしているのだろうか。

 冒険者と言えば、危険が付き物だと思うのだが、親が反対したりはしないのだろうか。


 言葉がわかれば、色々と本人達から話を聞く事が出来るだろう、まずは言葉だ。

 異世界の情報ももっと欲しい、現代知識の何が使えて、何が使えないのかも、もっと知っておくべきだ、とは言え、専門的な知識なんて殆ど持っていないが。

 先達の異世界転生者達みたいに、上手くはいかないものだ、だが、自分の出来る事を地道に増やしていくしかない。 


 その後も、何度かアイザックに挑んでみたが、結局一度も勝てなかった、おしい所まではいくのだが、表情をみるに、本気でやってはいないのだろう。

 カーズやユチェとも模擬戦をしてみた、カーズは力が強く、押し負ける場面が目立った。

 一方で、魔法使い志望なのであろうユチェも、器用にロッドを使い剣を捌いてくる、若干攻撃は軽いものの、防御や回避に関してはこちらより上手なのではないか。

 今現在では、一番素人なのは自分なのかもしれない。


 結構な時間が経ったのではないだろうか、既に陽は傾き始めている、言っている間に夕方だ。

 アイザックがみんなから武器を受け取り、ロープで結んでいく。

 今日はここまでと言う事なのだろう、アイザックが小屋に武器を持って行ったのを見送っていると、ユチェに声をかけられた、川の方を指差している。

 運動して喉が乾いてないか、と言う事だろうか、着いて行く事にする。


 最初に飲んだ時にも少し思ったが、川の水を直飲みして良いものなのだろうか、とは思ったが、カーズもユチェも普通に飲んでいる。

 アイザックが戻ってきて、白い綺麗な布切れを渡してきた、何に使うのかと思ったが、アイザックがそれを川に浸し、絞って身体を拭いている。

 なるほど、汗を拭いているわけか、思ったより衛生概念がしっかりして居るのかもしれない。

 ユチェが何かを言い、こちらを指差している、こっちを見るなと言いたいのだろう、誤解を解くには時間がかかりそうだ。


 身体を拭き終えたので、布切れを川で洗っておく、絞り終えたそれをアイザックに渡す。

 四人で小屋の外にある、棒に布切れをかけて、倉庫に入れていた荷物を取り出す。

 陽は更に傾いていた、村に着く頃には夕方になっているだろう。

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