〜新人冒険者の日々〜その7
その夜は、ささやかながらみんなでお祝いをした、と言うか、ビッツ達がお祝いをしてくれた。
モリスさんのクラン全員で、昇級を祝う為に集まってくれたのだ。
普段から食べている夕食とは違って、今日の夕食は少し豪華で、お酒もついてきている、その上今日は奢りらしい。
隣のテーブルでは先程から、ビッツやカーズを中心に、あれこれと騒いでいる、お酒の注文が絶え間なく聞こえてくる。
「それで、ヒロ達はうちのクランに入ってくれるんだろう?」
そして、こちらのテーブルでは、アイザックと一緒にモリスさんと話をしている最中だ。
向こうのテーブルと違って、こっちは嗜む程度にお酒を飲みながら、ゆったりとしている。
「そのつもりですよ、他にあてもありませんし、6人で続けることも考えたんですが、討伐依頼なんかは殆ど10人以上のパーティを要求されますからね。その辺りを受けたいとなると、やっぱりクランに入るのが手っ取り早いかなと」
「うん、その通りだ、こちらとしても今までは人数が足りなくて、受けにくかった依頼が受けられるようになる。」
モリスさん自身が言うように、クランの規模はかなり小さいと言える、ビッツ達3人に加えて、ヤーセンさん、モリスさん、そこにモリスさんと同い年位であろう神官の男と、狩人の男。
この2人は元々モリスさんの仲間だったらしく、良く3人で行動を共にしていたようだ。
「紹介しよう、ジュンイツとクオニだ、昔からの知り合いでな、気の良い奴らだ、仲良くしてやってくれ」
神官の男がジュンイツ、狩人の方はクオニと言うらしい、アイザックと共に自己紹介と挨拶を済ませる。
「では、さっそく明日から一緒に依頼を受けようと思うのだが、うちのクランでは基本的にこの二人に依頼を取りに行って貰っている、出来る限り人数分ピッタリになるように、依頼を取ってきてもらうつもりだ。依頼を受けるメンバーは、相談して決める事になる、その際にはちゃんと意見を聞くので、遠慮なく言ってくれ」
モリスさんは自分の胸を叩き、自身ありげに任せておけと言った。
自分で依頼を選ぶ楽しみと言うのは無くなってしまうが、暫くの間はベテランに任せておいた方が良いだろう、アイザックと共に同意した。
「もし何か困ったことがあれば、いつでも言ってくれ、出来ることがあるなら最大限協力する、金が必要になれば、多少はクランの資金から貸してやることもできる」
「金の方は問題ないんですが、明日の依頼の事で1つ相談があるんですが」
モリスさんに、今日の仕事で明日貼り出される依頼の整理をしたことを伝え、その中から、いくつか良さげな依頼の内容も話しておいた。
「なるほど、ふむ、ヒロはどう思う?」
「ギルドからの依頼で出される、南に広がる森の調査依頼は外したくないですかね、募集が10人、報酬も悪くないし、何よりギルドからの依頼で、調査費用がそこそこ出る。そこを考慮すれば、他の依頼に比べれば破格だと思います」
モリスは少し考えてから答えた。
「調査依頼が出た経緯はわかるか?」
「巨大蜘蛛の討伐依頼に出た冒険者達が、帰ってきていないらしいですよ、討伐隊の規模は4名、ちょっと危ない匂いもしますけど、危なそうなら逃げて帰ってくれば良いだけですからね」
討伐依頼ではないので、無理をして巨大蜘蛛の相手をする必要も無い、軽く森を調査して、危なそうなら引き返して報告をする、それだけの仕事だ。
「ギルドの方も、念のために人数を多くしてるって感じなのかな?先に向かった冒険者達はどうなったんだろうね」
アイザックの疑問は最もだ、帰ってきていないとなると、考えられる事はそう多くはない。
討伐の対象が多すぎて時間が掛かっている場合、何かしらの問題があって足止めを食らっている場合、もしくは、既にやられてしまっている場合、精々そんなものだろう。
「なるほど、確かにリスクはあるが、美味しい話ではあるな、みんなと相談してみよう」
モリスさんは振り返って、別のテーブルを見たあと、ため息を吐いて再びこちらに振り返った。
「相談は明日の朝になりそうだな」
別のテーブルでは既に酔い潰れている者が何人かいる、ずっと騒がしかった声も、今では静かになってしまった。
「その依頼を受けるなら、もう一つ別の調査依頼もオススメですね、人数が4人で、こちらは北にあるスイラ村からの依頼です。近辺調査と言う話ですよ、最近北側からくる旅人がめっきり減ったらしく、何かあったんじゃないかって事だそうですね」
「ふむ、それも加味して相談する必要があるだろうな」
ボンに追加のお酒を注文しながら、モリスさんが言った。
そのあとは他愛の無い話をしながら、食事とお酒を楽しむ。
モリスさんはいつかこのクランを、町で一番のクランにしたいんだと夢を語り。
ジュンイツやクオニがそれに賛同している、みんな何かしらの目標があって冒険者をしているようだ。
何か自分にも目標があった方が良いのかもしれない。
この世界に来てしまった理由を知るだとか、そう言う類のものではなく、何かこの世界で成し遂げたい事。
この世界で叶えたい夢みたいなものがあれば、それが目標になって、この二度目の人生をもっと有意義な物にできるだろう。
元世界の時のように、ただ漠然と人生を生き続けるような事は、もう繰り返さないつもりだ。
宴は続き、夜は更に更けていく。




