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〜新人冒険者の日々〜その6

 冒険者になって、暫く経ったある日、今日の仕事はギルド内の資料整理だ。

 ユチェと二人、ギルド職員の指示に従いながら、書類の整理をしたり、支出や収入の一部を計算して書き留めたりしていた。

 この仕事を受ける事になったのには、理由がある。今日の朝、いつもと同じように依頼を受ける為に、掲示板に向かおうとしていた所を、ギルド職員に呼び止められた。


 どうやら、毎日休まずに仕事を続けた甲斐もあって、パーティ全員の昇級が決まったらしい。

 その際に手続きをしなければならなかったのだが、その手続きには思ったより時間がかかるらしく、おそらくは今日一日待たねばならないと言う話だった。


 そこで、ギルド職員から提案されたのが、ギルドで仕事をしながら待つと言う方法だった。

 ちょうど今はギルドが忙しい時期らしく、国や町に報告書を出すための資料整理に追われているそうだ。

 代表として二人ほどギルドで仕事をしながら、全員分の昇級手続きを済ませるのが良いだろうと言う事らしい。


 もちろん報酬も多少は出るので、こちらとしても願ったり叶ったりだった。

 普段から本を良く読んでいるユチェと2人で、ギルド職員に言われた依頼、と言うよりは手伝いの様なものを受ける事にした。


 「はいヒロ、出来たよ、こっちの書類の計算あってるか確かめて」


 小さなテーブルを挟んで向かい側にいるユチェが、書き上げた書類をこちらに渡してきた。

 ユチェから書類を受け取る、先週の依頼をまとめたものらしい、ギルドに入ってきた収入と、冒険者に払った支出がズラっと並んでいる。

 別のメモ用紙を使って計算しながら、書類の計算が間違ってない事を確認していく。


 「あってるよ、俺の方も頼む、これで頼まれた分は全部だな」


 「もう終わったの!?こっちの分も手伝ってよ」


 ユチェは自分のすぐ隣に積まれた書類の束を、こちらに押し出してきた。

 先程まで自分の前にも積まれていた、一週間分の依頼の資料だ、それを受け取り、別の紙に纏めながら計算をしていく。


 元の世界に比べると、こちらの世界の人々は、平均的に見て計算には強くない。

 商人を省けば、普段の生活ではそこまで大きい数字など扱わないだろう、銀行なんかはあるらしいが、それは安全にお金を預けておけるだけの場所でしかない。


 つまりは利子なんかを計算する必要もないし、当然株式会社なんて言うものも無い、小さい規模で似た様なものはあるかもしれないが、一般人には無縁の話だ。

 総じて、元世界に比べると、数字を使う機会が比較的少ないように思う、その分、数学は得意ではないという者が多いようだ。


 「まぁ、俺の場合は、元の世界で似たような仕事やってたりしたからさ、慣れてるんだよ」


 残念ながら手書きの仕事ではなかったので、当時を思うと手間のかかり様にはうんざりしてしまう、ノートパソコンでもあれば良いのだが。


 「二度目の人生なんて、ズルしすぎだよ」


 「その分苦労もしてるって、ずっと住んでた国から、いきなり他の国に送られて、一生帰れないみたいなもんだぞ、文化も言葉も全くわからないんだから」


 それだけならまだ良いが、そもそも植物から動物に至るまで、見たこともないものだらけな上に、魔法なんて言う謎技術までついてきたのだ、なれるまでには随分時間がかかってしまった様に思う。

 だがまぁ、ズルいと言う気持ちはわからなくもないし、それは多分正しい。

 デメリットなんて、言ってしまえば慣れるまでの事だ、たかが知れている、それに比べて、メリットはかなり強い様に思う。


 資料を全てまとめて書類にしたら、後はユチェの確認作業を待つだけだ、既にテーブルの上に置かれていた分は全て済ませてしまった。

 暇つぶしに、纏め終わった依頼の資料を再び読み返す、依頼の資料を見るだけでも、随分と情報を得ることが出来る。

 どんな依頼が失敗しやすいのか、どれだけのひがいが出たのかなど、割と細かく書かれている。

 この仕事を紹介して貰えたと言うことは、いつの間にかギルドからの信頼は、思ったより厚くなっていた様だ。


 「終わったよ、大丈夫、あってる、と、思う」


 「それじゃ、全部纏めて提出しにいくか」


 テーブルの上に置いてある資料や、まだ使われていない紙、ペンやインクを片付けて、ギルドの一室を出る。

 受付に向かい、資料の整理が終わったことを報告して、持ってきた資料を渡す。


 「もう終わったんですか? 昇級の方はまだ終わっていないんです、まだ時間があるのなら、もう少し手伝って頂けますか?」


 ユチェの方をチラリと確認する、別に嫌がっている様子はない、ここはもう少し頑張って、ギルドの評価を上げておいても良いだろう、心証というのは大事なものだ。


 「構いませんよ、次は何をすれば良いですか?」


 「では、明日張り出される予定の依頼の準備をお願いします、あちらの職員の方の指示に従って、準備を進めてください」


 「わかりました」


 明日の依頼の準備となると、他の冒険者よりも早く、明日張り出される依頼の内容を確認することが出来る。

 あらかじめ受けたい依頼を絞れるのは、なかなか役得というものではないだろうか。


 別の職員の指示に従いながら、依頼の整理を行う、張り出す用に清書したり、報酬額や依頼内容が間違っていないかなどを確認していく。

 そのついでに、比較的楽で難易度も低く、報酬も悪くなさそうな依頼を探す。


 「ヒロ、なんでそんな悪そうな顔してるの?」


 「え? してないよ?」


 一応は否定しておくが、実際そんな顔をしながら作業していたのだろう、一緒に作業していた職員も苦笑している。


 「役得ですね、まぁ、良くある話ですよ、存分に吟味してください」


 同じような事を考える者は多い様だ。そのまま作業を続けていると、別の職員がこちらにやってきた、どうやら昇級の手続きが準備できたらしい。

 ユチェと一緒に手続きを済ませにいく事にする、6人分の手続き用紙を埋めて、冒険者証であるドッグタグを持って、受付に行く。


 「出来ました、確認お願いします」


 「はい、お待ちしていました、暫くお待ちください」


 受付をしていた職員は、用紙と冒険者証を受け取ると、ギルドの奥の方へむかっていった。

 そのまま暫く待っていると、奥から帰ってきた職員は、新しい冒険者証をこちらに渡してくれた。

 新人冒険者証は木でつくられていたが、こちらの冒険者証は銅で出来ているらしい。

 人数分を受け取り、一つ一つ名前を確認していく、どうやら間違いはない様だ。


 「改めまして、昇級おめでとうございます」


 「ありがとうございます」


 ギルド職員にお礼を言って、ユチェに冒険者証を渡す、まるで宝物を貰ったかのようにはしゃいでいる。

 他の4人にも早く渡してやりたいが、帰ってくるのにはまだ時間がかかるだろう。

 もう暫くギルドの仕事を手伝いながら、ゆっくりと待っておくことにした。

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