〜新人冒険者へ〜その17
ギルド職員の合図が出て模擬戦が終わる、しかし、アイザックとは木の槍を木の剣を合わせたままだ。
「おいどうした貴殿等?」
「ヒロ君、アイザック君、もう終了の合図が出たよ」
アイザックとの睨み合いが続く、木の槍に込められた力は緩められる様子がない。
「終わりだってさヒロ、剣を下ろしなよ」
「みたいだなアイザック、お前こそ槍を引けよ」
ギルド職員が再び終了の合図を送ってくる、それでもお互いに武器を下ろそうなんて気にはならないようだ。
折角の機会なのだ、もう少し戦ってみたい、このままでは闘争心が不完全燃焼をおこしてしまう。
自分でも思うが、随分大人気のない、子供っぽい考え方をする様になってしまった、若返った体に考え方も引き寄せられているのだろうか。
「ちょっとだけ延長しても良いですか?ちょっとで良いんで」
武器を合わせたまま反応を待つ、こんな我儘が通るだろうか。
ギルド職員の代わりに、模擬戦を見ていた年配の男が答えた。
「続けてみるが良い」
誰だかは知らないが、権力者の様だ、ギルドの職員も仕方ないと言った顔をしている。
だが、ありがたい事だ、正直許可が降りるとは思っていなかった。
「ミネ、ちょっと下がっててくれ」
「アイラ、少し離れておいた方が良いよ」
侍ガールの名前はアイラと言うらしい、ミネとアイラが何歩か後ろに下がる。
「それじゃヒロ、もう試験じゃないんだ、ルールはどうする?」
「いつも通り、なんでもアリのルールで、怪我したらちゃんと治してやるよ!」
武器を弾き合い距離を取る、試合再開だ、持っていたナイフを投げつけ、そのまま集中力を高める。
“祝福よ 我が身に集い 力となれ“
「いきなり飛ばしてくるね!でも」
アイザックも槍を構え直し、意識を集中させている様だ。
“穿て 業火の 鉄槌“
「フレア・バースト!」
火球を放ち、そのまま自身もアイザックの方へ走り始める、走りながら、更に剣に意識を集中させる。
火球はアイザックの横薙ぎで打ち落とされてしまった、小規模の爆発が起きる、魔法に対して、魔力付与された木の槍をぶつけて相殺させたようだ。
木の槍がこちらに向かい伸びてくる、相変わらず立て直しが速い奴だ、だが、火球を叩き落とした事で、少しは体勢を崩していたのだろう、勢いがいつもに比べると弱い。
突きを弾いて切り掛かるが、避けられてしまう、距離が詰まった、お互い全速で武器を繰り出し続ける。
「うおおおおおお!」
「はああああぁぁ!」
木と木のぶつかり合う音が何度も響く、突き、払い、斬り、何度も攻撃を繰り返し、受け、避け、弾き、何度も攻撃をいなす。
大きく武器が弾かれあう、そのままお互いに一回転して、全力で武器を振るう、再びぶつかり合った武器は、大きな音を立てて壊れてしまった。
折れる木の剣と木の槍、素早く木の剣を手放し、意識を高める、このまま無詠唱魔法を叩き込んでこちらの勝ちだ、懐に飛び込む。
「フレア・バー」
「おっと、そこまでだよヒロ」
ずっと隠し持っていたのだろう、木製のナイフが腹元に突きつけられていた。
「お前、槍しか取ってなかったんじゃなかったのか」
「そりゃ予備武器くらい用意しておくでしょ、隠して持っておかないと警戒されるから、ヒロと違ってこっそり取っておいたけどね」
「くそっ、まいった」
「本当に危なかったよ、負けてもおかしくなかったね、次の機会に期待しておくよ」
構えを解いてアイザックから離れる、戦闘が終わると熱が冷めて冷静になる、武器を壊してしまったが、良かったのだろうか、怒られてしまうかもしれない。
壊れた武器を拾い集め、収納棚の方へ戻る。
「凄かったよヒロ君、しかし、アイザック君は本当に強いね」
「アイザックは同年代の中なら、そうそう負けないって位強いんじゃないかな、大した奴だよ」
ミネと話しながら武器を片付けていく、アイザックもアイラと話をしているみたいだ。
片付けも終わり、カーズ達と合流する。
「馬鹿、二人とも目立ちすぎだって」
ユチェに呆れられてしまった、カーズは二人らしいよと言いながら笑っている。
壊してしまった武器については、特にお咎めがないようだ、弁償しなければならない、なんて事にならなくて良かった。
試験の結果は、筆記試験を受けた部屋で発表されるらしい、他の受験者達と共に移動する。
「君達」
試合を続けても良いと許可をくれた、年配の男性が話しかけてきた。
「先程はありがとうございました」
「うむ良いのだ、なかなか将来が楽しみな少年達だったものでね、私はこの町で軍の兵士長をしている、騎士のラチナムだ、冒険者になった後も、もしかすると何度か会う機会があるかもしれない、よろしく頼むよ」
アイザックにとっては実にありがたい話だろう、いきなり将来の目標にしている、騎士の一人に声をかけてもらえた。
自己紹介を済ませて、ひとまずは部屋に向かうことにする。
「ラッキーだったなアイザック、騎士になる足掛かりになるかもしれないぞ」
「かもね、運が良かったよ、勝って良いところも見せることが出来たしね」
「俺に感謝しろよ?」
「負けてくれてありがとうヒロ」
次回の機会には、この溢れ出んばかりの感情を全てぶつけてやろう。
部屋に入り、適当な席に着き、四人で話をしていると、ミネとアイラが近づいてきた。
「ヒロ君達は4人とも知り合いなんだね」
「ああ、ユチェとカーズだ、同じ村の出身なんだ」
「ふむ、羨ましいものだな、私は一人で村から出てきたのでな、やはり仲間と言うものは良いものなのだろう?」
「そうだね、依頼を受けるにも人数を集めないといけなかったりするから、やっぱり仲間は大事だと思うよ?」
「だったら、二人も一緒に行動すりゃ良いじゃねぇか、模擬戦見てたけど、実力は申し分ないんだろ?なぁヒロ」
確かにミネもアイラも実力的には高い水準にいると思う、しかし、簡単にパーティメンバーを増やしても良いものか。
四人ならともかくとしても、果たして自分に六人も管理できるほどの能力があるかはわからない。
「はいはい!私は賛成!だって周りみんな男ばっかだもん、女の子の仲間が欲しいよ」
「リリィがいるじゃないか」
「リリィは友達だけど先輩でしょ、一緒に依頼を受ける機会ってまだまだ先の話になっちゃうもん」
ミネとアイラの表情も明るい、二人としては一緒に行動したいと思っているのだろう。
「俺も賛成だよヒロ、信頼できる仲間は多いに越したことはないよ」
「うーん、わかった、一先ずはこの後みんなで話し合ってみようか、それでどうするか決めよう」
「良いのかい?嬉しいよ、改めて、僕はミネ・ティスカヤだ」
「アイラ・リルビーだ、貴殿等に出会えた事を嬉しく思う」
お互い自己紹介をしあっていると、ギルド職員が部屋の中に入ってきた。
合格発表の時間だ、おちていることは無いとは思う。
「お待たせしました、今回の試験では不合格者は出ていません、おめでとうございます皆さん。ではギルド証をお渡ししますので、名前を呼ばれた方から順番に、受け取りにきてください。受け取った後は席に戻ってください、このままこのギルドの説明と、禁止事項、注意事項についてお話しさせて頂きます」
ビッツ達の言っていた通り、試験は簡単に通れるようだ、名前が呼ばれるのを待ち、ギルド証を受け取る。
ギルド証は、首からかけるドッグタグの様なものだった、自分の名前が彫られている。
これでようやく新人冒険者になれたわけだ、みんなドッグタグを見せ合って喜んでいる。
ここから、いよいよ冒険者としての人生が始まる、ワクワクとした気持ちを抑えながら、ギルドの説明を受ける事にした。




