〜今日から異世界生活、日常から非日常へ〜その7
アイザックが茹であがったロブスターを縦に半分に切ってこちらに渡してきた、見た感じはそのまま半分に切っているロブスターだ。
匂いを嗅いでみる、うん、茹でられた海老の匂いそのままだ、これは味もロブスターに近いのではないだろうか。
尻尾の方から身を引っ張ると、綺麗に殻から剥がれた、うーん、やはり海老みたいだ。
冷めないうちに口に入れる、うーん、少し泥臭いような気がする、味は想像どおりロブスターみたいだ、しかし、食感は凄くフワフワしている、凄く柔らかい。
さて、気になるのはこちらの方だ、アイザックからカエル肉の刺さった串を受け取る。
やはり少し抵抗はあるが、意を決してかじってみる。
塩っけの効いた淡白な味わい、卵の白身だけを焼いたら、こんな味になるのではないだろうか、そこは良い。
食感がなんというか、鶏肉の様な弾力があり、しっとりしてヌメヌメしている、だがこれはこれで悪くないような気もする。
残りのカエル肉にもかじりつく、やはり食感が面白い、ねっとり感が癖になりそうだ。
いつの間に用意していたのか、アイザックが水の入った木のコップをこちらに渡して来た。
ありがたく頂戴して喉を潤す、コップを返そうとアイザックの方を見ると、なんだかわからない白い塊を持っていた。
白子か、真っ白な肝の様な物だ、カエルの肝だろうか、おそらく何かに使えるのだろう、もしかすると、あれも食べられるのかもしれない。
ユチェが鍋の水を半分ほど捨てて、塩を追加で入れた、小瓶の中の塩は使い切ってしまったようだ。
アイザックが鍋の中に、白い塊を入れている、やはり食べるのかと思ったが、周りを片付け始めた。
アイザックの片付けを手伝い、川で串やコップを軽く水洗いする、その間ユチェは鍋の様子を見ていて、カーズは森に何かを取りに行ったようだ。
「アイザック、ヒロ」
ユチェが鍋を指差して、アイザックに何かを言っている、アイザックが頷きながら返事をした。
鍋を覗き込んでみると、水が真っ白に濁っていた。
ユチェが白く濁った水を捨てると、中には黒い塊があった、先程の白い塊だろうか、大きさが半分ほどになっている。
ユチェは黒い塊を手頃な石の上に置いて、鍋をこちらに渡し、川を指差す。
洗ってこいと言いたいのだろう、鍋を受け取り再び川に向かう。
黒い塊はやはり、先程のカエルの肝なのだろうか、一体何に使うのだろう、薬になったりするのだろうか、鍋を水洗いして、ユチェの元に戻る。
ユチェは、カーズが取ってきたのであろう、大きな笹の葉のようなものに、黒い塊を包み込んでいる、器用なものだ。
処理も片付けも済んだところで、四人で小屋に戻る事になった。
「ヒロ」
小屋の前まで来るとアイザックに声をかけられた、アイザックは小屋の横の原っぱを指差している。
ここで待っていてくれと言う事だろうか、アイザックに持っていた鍋を渡し、言われた通り原っぱで待つ事にする、ユチェとカーズも一緒に着いてきた。
カーズもユチェもなにやら準備体操をしている、運動でもするのだろう、こちらも準備体操をしておく。
身体を伸ばしていると、アイザックが何やらロープで一括りにされている、色々な棒を持ってきた。
良く見ると木で作った武器だ、木の剣に木の槍、あとは木の斧に、ただ磨いただけの木の棒みたいなものもあるようだ。
剣は少し長めの物、短めの物、ナイフの様な物とバリエーションにとんでいる。
なるほど、ここは少年達の秘密基地的な遊び場所でもあり、異世界を生き抜く為の訓練所でもあると言うわけだ。
しかし、剣や槍の使い方を訓練しなくてはならないほど、この世界には危険が多いのだろうか。
やはり、魔物とかいたりするのかもしれない、もしくは、治安が物凄く悪かったりするのかもしれない。
いや、でもそこまで治安が悪かったとしたら、こんなに簡単に余所者を受け入れたりしないか。
アイザックは槍を手に取り、軽く薙いだり突いたりしている。
準備体操が終わったユチェとカーズも、各々の武器を拾う、ユチェは棒を、カーズは斧を拾っていた。
ユチェの棒は、おそらくロッドなのだろう、焚き火の時もユチェが火をつけていたし、魔法使いと言う事なのだろう。
カーズは斧なのか、武器で選ぶのは珍しい様な気がするが、そう言えば、木こり小屋ではカーズが先導していた、カーズの家は木こりをしているのかもしれない、使い慣れているのだろう。
余っているのは槍と剣だが、さて、どちらを選ぶべきか。
ゲーム的な事を言えば、アイザックとカーズが前衛、ユチェが後衛なので、弓あたりなら前2、後2でバランスが良いが、残念ながら弓はないし、これはゲームではない。
槍の方がリーチが長い分有利な気がするが、屋内なんかだと取り回しが悪そうだ、もしかしたら、ダンジョンや遺跡なんかもあるかもしれない。
どちらも使えるのが理想なのだろうが、今回は剣にしておこう。
長めの木の剣を拾い、振ったり突いたりしてみる、長さ的に両手で掴んだ方が安定する。
短めの木の剣も試してみる、片手でも楽に振れるし、両手で使っても良さそうだ、こちらの方が好みな気がする。
ナイフも試してみたが、リーチに不安を感じる、逆手持ちにして構えるとカッコ良いような気がする、少年心と厨二心をくすぐる。
順当に短めの剣にした、取り回しの良さが気に入った。
しばらく一人で素振りでもしてみる、当然ながら、今までの人生で剣など使った事はないし、剣道だってやった事がない、ただのゲーム知識だ。
払い、斬り、突き、受け、なんとなくこんな感じかと思いながら繰り返す。
他の三人はと言うと、カーズはひたすら素振りをしていた、なんだか変な安定感がある。
ユチェはロッドをブンブン振り回したり、突いたりしている、てっきり魔法の練習をするのかと思っていた。
アイザックは、明らかにレベルが違う、素人目に見てもコイツは強い、槍を振る速さ、突きの鋭さ、なにより、カーズやユチェと比べて、足を良く使っている。
二人も振り返ったり、軽く踏み込んだりはしているが、アイザックに関しては前に大きく突き進んだり、薙ぎ払いながらバックステップをしたり、打ち上げながら横に飛んだりしている。
なるほど、もっと足を使うべきなのか。
アイザックに倣い、踏み込みを強くしたり、後ろに避けたりしながら剣を振るう。
「ヒロ」
しばらく続けていると、アイザックに呼ばれた。
アイザックは原っぱの真ん中の方を親指で指差し、不敵な笑みを浮かべている。
あぁ、なるほど、言葉はわからなくても、お前の言いたい事は良く伝わった。
勝手に歳らしからぬ、大人びたリーダー気質なやつだ、なんて思っていたけど、思ったより好戦的だったらしい。
カーズとユチェも興味ありげにこちらをみている。
原っぱの真ん中に立ち、剣を構えて、アイザックに笑い返してやった。
異世界初の戦闘が始まります