~見習い冒険者へ~その5
ギルドの入り口からビッツ達が近寄って来た、リリィは一緒に居るようだが、マルクスの姿は見えない。
「ようやく町に出てきたよ、今日はマルクスは居ないんだな」
「マルクスはクランの人と一緒に仕事だよ、俺達は残念ながらあぶれちまってな」
多くの人が所属しているギルドならば、そう言う事もあるのだろう、用意した資金はそれなりにあるが、仕事にあぶれすぎて、底を尽きてしまったりしないように気を付けなくてはならない。
ひとしきり再会を喜んだ後に、ビッツが宿屋に案内すると言ってくれたので付いていくことにする、と言っても、先に教会に寄って行きたい、フロイド神父から預かった手紙を届けておかなくてはならない。
広場に着いたときに確認したが、この町の教会は広場を挟んでギルドの向かい側にある、時間もそこまで取らせないはずだ。
「先に教会に寄らせてくれ、ちょっと用事がある」
「ああ良いぜ、それじゃ教会に寄ってから宿屋に行くか」
ギルドを出てそのまま教会に向かう、村の教会と違って、ここの教会はかなり大きい、力を持っているだけあって、立地条件と良い、外観といい、かなり優遇されているようだ。
教会の方もギルドと同じように、扉は開きっぱなしになっていた、中に入ると町の人々が神官達と話をしたり、魔法をかけてもらっていたりしているのが見えた。
村の教会とは違い、町の人々に対応している神官の数も多い、その奥、祭壇のそばで立っている年配の人がこの町の神父になるのだろう、フロイド神父とよく似た服装をしている。
「あまりぞろぞろと行っても良くないだろ、アイザック達は外で待っておいてくれ」
「そうだね、じゃあ外で待ってるよ」
「私は教会のお仕事をお手伝いしながら待っておきますね」
そう言えばリリィは冒険者であり、教会の神官でもあるのだった、他の神官達に混ざって町の人達の相手を始めたリリィをしり目に、教会の奥へ進んでいく。
「すいません、この町の神父様でしょうか?私はヒロ・ラルフレンです」
「はい、ダーディル・ワイヤーと申します、ワシに何か御用ですかな?しかし、はて、ラルフレン?もしやフアミ村からいらしたのではないですかな?」
「はい、フアミ村のフロイド・ラルフレン神父様から手紙を預かってきました」
ダーディル神父に手紙を渡す、ダーディル神父は手紙を読みながら、フロイド神父とは古くからの友人であることや、共に神官として修業を送った日々のことを簡単に教えてくれた。
「なるほど、この町へは冒険者になりに来られたか、お主の事をよろしく頼むと手紙に書かれておるわ、フロイドの頼みとあっては聞かないわけにもいかんじゃろう、何か困った事があれば、ワシに相談しに来なさい。改めて、ワシはこの町で神父をやっておる、ダーディルじゃ、ダディで良いぞ」
「ありがとうございますダディ神父様、当面は特に問題もありません、仲間を待たせていますので、これで失礼します」
「うむ、ワシからもまたフロイドの奴に手紙を出しておく事にしよう、お主にも手紙を出させるように書いておるわ、ひと段落つけば忘れずに書くのじゃぞ」
ダディ神父に挨拶をして教会を出る、リリィは暫く教会の手伝いをしていくらしい、先にビッツと一緒に宿屋に行っておいてくれと言われた。
教会を出てみんなと合流する、ビッツの話によると、リリィは仕事のない日は大体教会で手伝いをしているらしい、今日も本当はその見送りに来ていたのだそうだ、ギルドに寄ったのはたまたまだったらしい。
ビッツに案内されて大通りを歩く、入ってきた門とは違う方向だ、こちらの道も真っすぐ行けば門につくらしい、そっちの門は国の中央方面への街道に出るのだそうだ。
こちらの方面の大通りには露店がないかわりに、宿屋がいくつか建っているのが見える、とは言え、大通りに面しているような立地の良い宿屋が、安い料金で借りられるはずがない、更にビッツの後ろについて歩くると、裏通りの方へ入っていた。
少し歩いただけでも大通りと違い道が一気に狭くなる、この辺りは住宅街になっているのだろうか、子供がわき道から飛び出してきたりしていた、すれ違う町の人達に軽く挨拶をしながらビッツについていく、ご近所さんになるかもしれないのだから、印象は少しでも良くしておきたい所だ。
「ついたぜ、ここが俺たちが使わせてもらってる宿屋だ、一階が飯屋になってて、二階に宿泊部屋があるんだ、飯の方も値段の割には味も良くて、量も多いからオススメだぜ、まぁ自炊も出来ねぇから、俺達もほとんどここを利用してる」
思っていたより悪くなさそうな宿屋だ、ここまで歩いてきた道も見て思っていたが、古さなんかは隠せないものの、綺麗に掃除されている。
一階の食堂では何人かの客が木製のジョッキで酒を飲んでいるようだった、何か木の実のようなものも見えるが、村では見たことがない食べ物だ。
いくつかのテーブル席の他には、カウンター席もある、カウンターの向こうでは大柄な男が料理を作っているのが見えた、ビッツがその男に話しかけに行った。
「親父、話してた見習い連中を連れてきたぜ」
「あん?おう、おめぇらがビッツの言ってた期待の新人ってやつか、俺はこの宿屋の主人で料理人もやってる、ボンってんだ、よろしくな、それで、ヒロってのはどいつだ?」
カウンター席の向こうから、大柄な男が話しかけてきた、近くに寄ってみると、熊のような風貌をしている、宿屋の主人や料理人ではなく、冒険者になった方が似合っているんじゃないだろうか。
「初めまして、俺がヒロです」
ボンさんは値踏みするようにこちらをジロジロと見ると、にやりと笑い手を差し伸べてきた。
「なるほどな、若い割にはどことなくそんな雰囲気にはみえねぇやつだ、敬語はいらねぇ、ボンだ、親父でもなんでも好きに呼んでくれや」
「ありがとう親父さん、部屋の方だけど、さっそく今日から使っても大丈夫なのか?今日町について、まだ泊まる所も何も決まってないんだ」
握手をしながら部屋の話題を振ってみた、すぐに入ることが出来ないなら、しばらくは他の宿屋を探さなくてはならない。
「おう、問題ねぇぞ、初めの何日間の料金はまけといてやるよ、ただ、飯を食うならその分の代金はちゃんと頂くがな。ビッツ達と合わせて全部で3部屋だったな、ひと月の料金は全部まとめて金貨5枚と大銀貨5枚だ、メニューはこっちに任せてもらうが、朝飯付きってのもあるぜ」
「金貨5枚!?おっさんそりゃ高ぇだろ!」
「カーズ、心配するなちゃんと安い」
まぁ、部屋を見るまでは実際のところ、なんとも言えない部分もあるが。
「先に部屋を見せてもらっても?」
「おうよもちろんだ、そこの階段上がって、奥の部屋から順番に3部屋だ」
納得いかなそうなカーズの背中を押しつつ階段を上がっていく、一番奥の部屋はビッツ達が今使っている部屋らしい、ビッツに許可を貰って扉を開ける。
部屋の中にはベッドが3つ離れて置いてあった、流石にタンスのような収納家具はないが、チェストが置いてある所をみると、この箱を収納用に使えと言う事なのだろう。
部屋の広さはまぁこんなものだろう、昔旅行で行った事のあるの安宿を彷彿とさせる、ほかの二つの部屋も内装は似たようなものだった、無難で良いんじゃないだろうか。
「なぁヒロ、金貨5枚は高ぇって」
「さっきも言ったが、ちゃんと安いよ、大通りの宿屋が一泊いくらするか知ってるか?」
「逆にどうしてヒロが知ってんの?当たり前だけど町に出てきたの初めてだよね?」
「大通りに看板が出てたぞ、一人部屋で一泊大銀貨1,2枚みたいだったな」
カーズはこういう時凄く計算が早くなる、頭の中でぱぱっと計算したのだろう、この宿の安さに納得したようだった。
「どうだ?悪くないと思うがな」
「良いと思うよ、広場からもそこまで離れてないしね」
アイザックだけではなく、カーズやユチェも同意してくれている、宿屋の件に関してはここで決まりそうだ、ビッツとも頷きあい、部屋を出て一階に戻ることにした。




