~見習い冒険者へ~その3
「ごめんね、起きられなかったよ」
「一日くらい気にするな、徹夜なんて久しくしてなかったが、慣れたもんだよ」
町への街道を四人で、時折休憩を挟みつつ、話しながら歩いていく、徹夜の疲労感も多少はあるものの、ただ歩き続けているだけなのでそこまでの悪影響はなさそうだった。
道中他の旅人とすれ違う機会もあった、盗賊の可能性は薄いだろうが全く無いわけではないので、いつでも武器を抜けるようにしておいた。
結局のところ、盗賊ではなかったわけだが、警戒しておくに越したことはない、町までの道のりや、旅人の目的地なんかを休憩しながら話して、そのまま別れた。
日も落ち始めたので野営の準備をする、無理をすれば今日中にはたどり着けたかもしれないが、ビッツ達の話によると、夜は町の入り口は閉まってしまうらしく、町の中には入れなくなってしまうらしい。
まぁ、町に近くなれば野盗なんかも出るのかもしれない、この国は比較的治安の良い方らしいが、それでも門を開きっぱなしに出来るような世界でもないのだろう。
今日は先に寝かせてもらうことにした、寝すぎるとまずいので、あらかじめアイザックに起こして貰えるように頼んでおいた、こうなると目覚ましが無いのは不便だと思う。
テントに入り横になる、疲労感も手伝ってすぐに寝入ってしまったようだ、アイザックに起こされた時には一瞬で時間が過ぎたように感じてしまった。
焚火の傍で編み物をしているユチェと交代して、鍋を火にかける、元世界ではブラックなんて苦くて飲めたものじゃないと思っていたが、こちらの世界で飲み続けているうちに、いつの間にか美味しく頂けるようになっていた。
アイザックと交代してカーズもテントから起きてきたので、カーズの分のコーヒーも入れてやる事にした。
明日の昼前には町に到着するだろう、地図を見ても今どの辺りの位置にいるのか上手く把握は出来ないが、聞いていた距離感から考えるとその位の距離な筈だ、余裕が出来たら旅の歩き方なんかもちゃんと勉強しておくべきなのかもしれない。
街道にはある程度の間隔で塚があり、表札が立てられていた、表札と言っても、特に何かが書かれているわけではないが、明らかに人工物だということが分かる、小さな石の柱だ。
おそらくは一定間隔で建てられているのだろう、旅の目安になるように設置されているに違いない。
自分が書き写して持ってきた地図には、残念ながら表札の事は書かれていなかった、もう少し旅人向けのまともな地図ならば、細かく表札の位置も書かれているのかもしれない。
「あー、やっぱ旅ってのも疲れるもんだよなぁ」
「そりゃそうだろう、徒歩で何日も掛かる旅なんて、俺だって初めてだよ」
「ヒロの世界じゃ、旅は楽に出来るんだっけか?こっちの世界にもそんな便利もんがありゃ良いのになぁ」
「そうか?俺からすれば、これはこれで悪くないと思うけどな、これぞ旅って気分を味わえる」
「そりゃ便利良いもんを知ってる奴の意見だっての」
そう言われてみるとそうなのかもしれない、何事も便利である事に越したことはないのだろう、不便さを楽しむなんていうのは、便利な事や、便利な物を知ってる奴の意見なのだろう。
「こっちの世界だって、将来的には便利になってくるさ、魔力で動く馬車なんてのも開発されてるってミークさんが言ってたしな、そもそも、空輸自体はもうあるんだろ?飛竜を使った移動手段があるって聞いたぞ?」
「飛竜なんて、上に超がいくつ付くかわかんねぇ位の金持ちしか使えねぇっての」
飛竜種はこの世界にもいるらしいのだが、未だに見た事が無い、想像しているような、ドラゴン的な生き物かどうかすら怪しいが、一度は見ておきたいもんだ。
飛竜だなんて言っておきながら、実はデカい鳥でしたなんて事も十分にありえる。
そのまま二人で話を続けていると、ゆっくりと空が明るんできた、魔石を使い、鍋に水を張り火にかけ、バックパックの中の干された食材を鍋に入れていく。
少しの調味料を放り込んだら、後はちゃんと煮立つまで待つだけだ、簡単な料理だが、こっちの旅人が良く食べている旅料理らしい、味は質素ではあるが悪くはない、カーズなんかはもっとガッツリ肉を食いたいなんて言っているが、個人的には好みの味がする。
調理が終わるくらいに、アイザックがテントから起きてきた、別の鍋を使い温めておいたコーヒーを渡す。
「おはよう、お陰でよく眠れたよ」
「おはよう、後はユチェが起きてくるのを待って、軽く朝食を済ませたら、そのまま一気に町までだな」
「町に着いてからの予定は決まってるのかい?」
「ある程度は決まってるよ、ビッツ達とも色々と話して決めた、まぁ、その辺りは町に着くまでに話すさ」
ユチェも目を覚ましてきたので、四人で朝食を取る、多少固くなってきた餅パンも旅の醍醐味だったりするんだろうか、ずっと置いておいたら鏡餅みたいになったりするのかもしれない。
ささっと食事を終わらせて、片付けを済ませる、もう後一息で町に着く、そう思うとなんだかワクワクしてくるものだ。
出発の準備が整ったので、町に向かって歩き出す。
「それでヒロ、さっきの話の続きだけと、町に入ってからはどうするんだい?」
「まずは町に入る為に町の門番と話さないといけない、これは問題ないだろう、新人冒険者になる為にフアミ村から来ましたとでも言って、ちょっと金を払うだけだしな」
「なんで町に入るのに金がいるんだろうな、ケチくせぇ」
町に入るには多少の入町料が要る、これに関しては微々たる額なので気にする必要はない、冒険者として登録されれば、依頼で町に出入りする分に関しては免除されるらしい、おそらくは税金の一部として徴収しているのだろう。
「国に聞いてくれ、町に入ったらまずはギルドを目指す、適当に場所を聞きながら行けば、すぐ見つかるだろう。ギルドに着いたらまずは新人試験の登録だ、ビッツの話によると、このタイミングなら受け付けは始まってる筈だ」
「ねぇ、試験までまだ日にちがあるでしょ?ううん、試験までじゃなくてその後もそうなんだけど、宿屋とか探さなくて良いのかな?拠点って言った方が良いかもしれないけど、冒険者になって寝泊りするところって必要だよね?」
「そこも問題ない、冒険者用の共同宿舎なんてのもあるらしいが、俺達が世話になるのは、冒険者用の宿屋の方だな、食事なんかは別料金らしいが、宿泊費はそこまで高くない、支払いは月単位になるそうだ」
共同宿舎を使う事も考えたが、宿舎の使用料の事も考えると、実はそれほど差がないらしい、ビッツ達からその辺りの事は細かく聞いている、宿舎のほうは6,7人程度で一つの平屋を使うらしいので、それならば宿屋のほうが環境が良いのではないだろうかと考えた。
「いつの間にそんなあて作ったんだよ」
「ビッツ達が同じ宿屋を使っていてな、空き部屋があるらしいんで、話をつけておいてもらった」
「それって四人で一部屋を使う事になるの?えぇー、ヒロと同じ部屋で寝ろって事?」
「なんで俺だけなんだよ、でもまぁ、絶対そう言われると思ってたから、それについても考えがある、一人部屋を使わせられるほどの余裕はないから、リリィと相部屋を頼んでおいた、宿屋の部屋の広さから言っても、基本的には三人一部屋くらいの規模らしい」
ビッツ達の方は三人で一部屋を使っていたらしいが、やはり男女混合の部屋にしてしまうと、何かと気を使う事が多くなるらしい、それならばリリィとユチェで一部屋使って、ビッツとマルクス、こっちの三人で別れたら良いのではないかと提案したところ、受け入れてもらうことが出来た。
多少余分にお金が掛かってしまうが、過ごしやすさの事を考えれば安いものだろう。
その後も色々と相談しながら町までの道を歩き続ける、全て予定通りに行くとは限らないが、こういうのは予定を立てている時が一番楽しかったりするものだ。
「ヒロ、ほら見えてきたよ」
丘を登りきると町の城門が見えた、もうあと少しの距離だ、そこまで長くない旅路ではあったが、達成感に自然と頬が緩む。
これからあの町で、冒険者としての生活が始まるのだと言う事に、静かに胸を躍らせた。




