〜少し外の世界へ〜その13
それから暫くの間、晴れの日も雨の日も、ひたすら蠍を駆除し続けた。
ある程度数が減ったかと思っても、次の日には湿地の奥から新しい蠍が湧いてくる。
目に見えて数が減ったなと思えた時には、駆除を始めてから既に二週間が経過していた。
「随分減ったんじゃないかな?」
アイザックが湿地を見渡しながら言った、今日も朝から蠍狩りに来ていたのだが、確かに蠍の数は少ない、既に探さなければ見つからない程度の量になっている。
全員で蠍を探しながら順番に駆除していく、ここまで減ればもうあと一息だろう。
二週間も同じ作業を延々と続けていると、もう慣れたものである、元々槍を使い慣れているアイザックなんかは、手鉤を使って押さえるまでもなく、正確に急所を突き抜いている。
今日の作業も順調に終わり、カノンと一緒に家まで帰ってきた。
食事までにはまだ時間があるので、外に出て剣の稽古を行う。
こちらに来て二日目から日課にしているのだが、それに影響を受けたのか、ジークを含む自警団の内の数名とアイザックにカーズ、ユチェも一緒だ。
普段とは違う相手との模擬戦も、腕を磨く上で非常に役に立つのでありがたい。
なによりも、集団戦の練習が出来るのが実に助かる、フアミ村では出来ない訓練だ。
カノンやミアも訓練に参加していて、何度か手合わせをしてみたり、仲間として一緒に戦ってみたりもした。
二人共大した腕前だった、訓練中は弓を使えないミアはナイフを使って戦っていたが、短い刀身を上手く使い、攻撃を捌いていた。
カノンはやはり戦士になるべく育てられていたのだろう、槍の腕前はアイザックに迫るものがあった。
その日の訓練に精を出していると、村長がやって来た。
「みなさんお揃いでしたか、湿地の蠍の件ですが、随分と数も減ってきてくれた様です、みなさんには大変お世話になりました、後は村の者達だけで何とかなるでしょう」
「依頼は達成されたと言う事ですか?」
どうやら蠍駆除の手伝いは、もう完了したと思って良いようだ。
エリックさん達の試験もこれで合格だろう、後はもう暫く村で資金を稼ぎながら腕を磨いて、15歳になるのを待つだけだ。
「ヒロさん達、もう帰っちゃうの?」
「残念です、もうちょっと一緒に居たかったのに」
カノンとミアが別れを惜しんでくれている、二人にも色々と世話になった、特にカノンとは村に来てからと言うもの、ずっと一緒に居た気がする。
「ヒロはお嫁さんと離れ離れになっちゃうから、寂しいね」
「仕方ないだろ?冒険者になってしっかり稼がないと、今の俺には甲斐性が無い」
アイザックと軽口を言い合う、カノンが少し顔を赤らめている。
将来の事はわからないが、自分を好いてくれると言う気持ちは嬉しいものだと思う。
「二人が冒険者になれたら、また会えるよ、村も近いから、それ以外でもまた会うこともあるかもしれないしな」
二人だけではなく、今まで一緒に蠍駆除や訓練をしてきた自警団の人達やジーク、訓練の様子をずっと見に来てくれていた、カノンの父親も別れを惜しんでくれている。
その日の訓練も終わり、カノンの家で最後の夕食を取る。
明日の朝、いつもの様に村長の家に集まって、フアミ村に帰る事になった。
今頃アイザック達やユチェも、世話になった家の人達と別れを惜しみながら、夕食を食べている頃だろう。
「またいつでもいらして下さいねヒロさん」
「うむ、気が変わって戦士になりたくなったのなら、いつでも来るが良い、我は歓迎するぞ」
「戦士になりたくはならないだろうけど、機会があったらまた来させてもらうよ」
ジークとは何度も訓練中に戦った、結局負け越してしまったが、お陰で腕も磨く事が出来た、次に会う時には勝ち越せる程の実力を身につけていたいものだ。
「ヒロよ」
カノンの父親が話しかけて来た、二週間以上お世話になっていたが、声を聞いたのは数えられる程しかない、その上通訳してくれる人が居ないと、そもそも意味がわからなかった。
「死ぬな」
今までで一番、何が言いたいのかわかった気がする。
「分かりました」
そう返すと、カノンの父親は満足そうに頷いた。
食事も終わったので、身体を拭く為の水を井戸まで汲みに行く事にした、カノンがついて来てくれる様だ。
「ヒロさん、私、冒険者になるから。そしたら、一緒に依頼を受けたり、色んなところに行ったりしようね」
「うん?うん、そうだな、じゃあ、先に冒険者になって待ってるよ」
「うん、約束」
そんなやりとりをしながら、家と井戸を往復した。
部屋に戻り、寝る準備を済ませてベッドに入る、ウリカ村での最後の夜だ、またこの村にも遊びに来たいもんだ、なんて考えながら眠りについた。
翌朝、フアミ村へ帰る準備をしてから、カノン一家と朝食を取る。
カノンは村を出るまで見送ってくれるらしい、朝食が終わり、一緒に村長の家に向かう事にした。
村長の家には既に全員集まっていた、どうやら最後になってしまったようだ。
見送りにはミアも来てくれたらしい、ミアとユチェはこの二週間で随分と友情を深めた様に見える。
全員で村の入り口まで行く、そこで別れを惜しんでいると、カーズがそろそろ出ようと切り出した、事前に用意してくれたお弁当をカノンから受け取り、村を出る。
カノンとミアは見えなくなるまでずっと手を振ってくれていた。
「愛されてるじゃないかヒロ」
「羨ましいだろ?」
四人でフアミ村へ続く道を歩いていく、これからもこんな風に四人揃って、依頼先から帰ってこられる様に頑張っていきたいもんだ、そんな事を考えていた。




