〜少し外の世界へ〜その12
ひとまずは自警団の人達とは違う場所から作業を始める、固まるよりも、ある程度はバラけた方が作業効率が良いような気がする。
こちらは四人に加えて、カノンとミアが手伝ってくれるらしい。
湿地の近くまで行くと、沈んだりはしないが、地面がかなりぬかるんでいる、足を取られない様に気をつけながら歩く。
早速目の前に一匹見つけた、と言うより、視界に入るだけでもかなりの数がいる。
こちらに気付いているようで、ハサミを振り上げて威嚇してきている、手鉤を使い押さえつけると、なんとか抜け出そうと暴れ始めた。
余り速くはないようだが、力は結構強いらしく、押さえつけるのにも力がいる。
逆の手に持った槍で、急所を狙い突き刺す。
あまり効果がないように見える、狙いがズレていたのだろうか。
何度か突き刺してみると、明らかに反応が違う場所に当たった、痙攣したかと思うと、振り上げていたハサミが、尻尾と共にゆっくりと下がり、動かなくなった。
一発で仕留めるのはコツが要りそうだ、すぐ近くに蠍がいない事を確認して、尻尾を掴み持ち上げる。
籠なんかを用意しておけば良かったか、いちいち湿地の外まで獲物を持っていかなくてはならないのが面倒だ。
このままもう何匹か狩って、まとめて持って行く方が良さそうだ。
探すまでもなく次の一匹が見つかる、囲まれるとまずそうなので、すぐ近くに他の蠍がいない事を確認して、同じように槍を突き刺す、今度は一発で急所に入ったらしい。
六人で黙々と作業を進めていく、蠍を狩る労力も大きいが、狩った蠍を湿地の外に運ぶ労力も馬鹿にならない、ぬかるみに足を取られて、往復するだけでも体力を削られる。
繰り返し作業をしている内に正午になっていた、湿地のすぐ外に山積みにしていた蠍を、村人達が回収しに来てくれた様だ。
素材の加工も並行すると言う事だろう、一緒に来ていた村長が昼食を持って来てくれた。
蠍の素材がどんな使われ方をするのか気になるが、ひとまずは昼食を取るために休憩を挟むとしよう。
「どんだけ居るんだよ、終わる気しねえぞ」
「もっと効率良く、一気に取れたりしないかな?何か良い方法無いのヒロ?」
「うーん、全力で雷魔法を撃ち込んで、感電させて回収するとかどうだ?」
昼食を取りながら作戦会議をする、何か良いアイデアが浮かんだりしないだろうか、全員で意見を出し合い事にした。
「それ、感電して動かないのか、死んで動かないのか分からないから、止めに失敗してた時に、急に動き出したりして危なくないかな?」
ごもっともだ、そうなると、確実に殺す事の出来る毒なんかがあれば、回収するだけで済むので、作業も捗るのでは無いだろうか。
蠍ホイホイ的な便利の良い物があったりするんじゃないか。
「毒を撒いて、一気に駆除したりとかどうだ?」
「うーん、難しいんじゃ無いでしょうか、そんな毒があるなんて、聞いた事ありません」
「まぁ、そんな物あれば、もう使ってそうなもんだしなぁ」
とは言え、そんなに強い毒なら、他の生態系にも影響が出てしまいそうだし、あった所で簡単に使える様な物でも無いだろう。
「地道に作業を進めていくしか無さそうだね、どれくらいかかりそうかな?」
「今一つ規模が把握しきれてないけど、まぁ一週間はかかりそうだな」
「頑張ろうヒロさん」
結局は地味な作業をこなして行くしかないのだろう、昼食も終わり、作業を再開させる。
押さえて突いて、拾って運んでを繰り返す、何度も何度もやっている内に、ある程度小慣れてきた。
「いってえぇえ!!」
そうなると油断して、事故が起きたりもする、カーズが刺された様だ。
何事も慣れ始めた時が一番危ないのかもしれない、カーズにヒールライトをかけながら、自分も気をつけようなんて考える。
一度誰かが失敗すると単調な作業とは言え、みんなも気が引き締まるものだ、その後は特に問題もなく、駆除を進めていった。
陽も傾いた頃、蠍の回収作業をしていた村人達に混じって、村長がやってきた、今日の駆除はここまでにしようと言う事らしい。
回収にきた村人達に着いて、シャウプ畑の倉庫まで戻って来ると、小屋の前で村人達が加工作業をしている様だった、少し見学させてもらうとしよう。
尻尾を切り落として、針の先を割って、小さな壺の中に尻尾から出てくる透明な液体を溜めている様だ、蠍の毒なのだろう。
胴体の方は、内臓なんかを抜いてぶつ切りにされた後に、鍋で茹でられている。
茹でられた蠍の身だけを上手くくり抜いて、中身に調味料か薬品の様な物を混ぜて、陰干しにしているようだ、保存食か何かだろう。
殻はハサミと一緒にこんがりと焼かれていた、あれも食べるのだろうかと思ったが、よく見るとその後に細かく砕かれて、粉状にされている。
作業を眺めていると、こちらと同じ様に蠍の駆除をしていたジークがこちらに近づいて来た、あちらの駆除も本日分は切り上げたようだ。
ジークが蠍の加工を説明してくれるらしい。
「干した身はこの村の名産だ、色々な料理に使える、少し淡白だが、良い出汁が出て美味い。あの砕かれた殻だが、あれは毒液と混ぜて加熱して薬を作るのだ」
「毒薬か何かになるのか?」
「いや、蠍の毒は弱い、毒薬としては使えない、それに加熱すると、毒が消えてしまうのでな。加熱した後は布を使って濾す、そうして出来た物があれだ」
ジークの指差している先には、小さな壺が並んでいた、中には透明感のある、少し黄色かかった液体が入っていた。
「何に使うんだ?」
「うむ、これを塗ると、家具が長持ちしたり、虫が寄って来なくなったりするのだ、木材も滑らかに美しくなる」
ニスみたいなものだろうか、工作をするタイプではなかったので、それが本当にニスの様なものかどうかは分からないが。
「後は、染料を混ぜて、陶器などに塗ったりもする、綺麗な色とツヤが出て、長持ちする様になる」
うーん、漆の方が近いのかも知れない、もちろん漆なんて生まれてこの方、使った記憶が無い、忘れているだけかも知れないが。
「戦士なのに、変な事に詳しいんだな」
「村の名産品なのでな、詳しくもなろうと言うものだ、さて、我等の仕事も済んだ、後は他の者に任せて、家に帰ろうではないか」
確かに丸一日ずっと蠍狩りをしていてクタクタだ、取り敢えずは少し休憩をしたい。
アイザック達に別れを告げて、カノンやミアと一緒に帰路につく、明日も朝から村長の家で待ち合わせる事にした。




