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〜少し外の世界へ〜その10

 鍋の中に入っていたのは、甲殻類らしき物の輪切りだった、熱されて白くなった身は、白身魚の鍋物の様に見える。

 この輪切りにされた甲羅の感じから察するに、もしかして蠍なんじゃないだろうか。

 カノンが鍋から食材を取り分けてくれた、付け合わせの餅パンはフアミ村の物と同じようだ。


 木で作られたフォークとスプーンを受け取り、陶器の器に入れられた蠍の身をほぐしてみる。

 簡単にほろほろと身が取れる、さてどんな味がするものなのか。

 身は程よい引き締まり方をしている、白身魚の食感に近い気がする、味はカニみたいだ、野菜と共に煮込まれ、滲み出た出汁を吸っていて実に美味しい。


 村同士があまり離れていない為か、スープの元になる味付けはフアミ村のものと近いように思う。

 離れた地方の料理は、また違った味付けになっていたりするのかもしれない。


 そう思いながら餅パンを齧ると、なんだかスッキリとしたハーブの様な香りを感じた。

 パンに関しては、各家によって多少アレンジが加えられているようだ。

 各家庭の味が主食の方に出るのは、元世界ではあまりなかった気がする。


 「凄く美味しいですね、これは蠍ですか?」


 「はい、この村の沼地に生息している、蠍の鍋です、この村でよく食べられている家庭料理なんですよ」


 カノンの母親が説明してくれた、と言う事は、これを明日から狩るわけか。


「蠍は確かに駆除すべき魔獣なのだがな、村にとっては居なくてはならない食材の一つでもあるのだ、とはいえ、どうも今年は数が増えすぎてしまったようでな、我らも出来るだけ駆除はしているのだが、いかんせん人手が足りなすぎる」


 そこで自分たちの手を借りようという話になったのか、町に依頼を出すほどの事ではないが、かといって放置しておくわけにもいかないと言う事だろう。

 詳しいことは明日また村長からも説明を受けるだろうし、今は深く考えても仕方ないのかもしれない。


 「ヒロさん、おかわり食べる?」


 返事をする前にカノンはおかわりを注ぎ始めた、あまり量を食べる方ではないが、折角のご厚意なので頂いておくことにする。

 母親の方は手を口に当ててあらあらと笑っていて、父親の方は特に何も言わずに微笑んでいる、このままいってしまうと本当に婿殿にされてしまうのではないだろうか。

 なんとなくで婿殿になってしまうのは、相手にとっても失礼だし、もっとお互いを知ってから、良く考えて決断したい。


 食事が終わったので、カノンの母親にバケツと布を借りて、井戸まで水を汲みに行く、寝る前に体を拭いておきたいし、瓜ボトルの水も補給しておきたい。

 カノンに付いて行こうかと言われたが、大丈夫だよと断っておいた、親切心を無下にするのには気が引けたが、流石にそこまで手を煩わせるのも悪いと思ったからだ。


 外は既に暗くなっている、広場にも人の姿は見えない、バケツに水を入れてカノンの家に戻る。

 家の前ではカノンが帰りを待ってくれていた、これならば着いて来てもらった方が良かったかもしれない、甲斐甲斐しさが嬉しいような、なんだか悪いような気もする。

 部屋に戻り布で体を拭く、明日は朝から村長の家に行かなくてはならない、早めに寝ておいたほうが良いだろう。

 軽く明日の準備を済ませて、今日はもう寝てしまうことにした。


 翌日、未だに何の声なのかわかっていない鳴き声と共に目を覚ます、汲み置きしていた水で顔を洗い、村長の家に向かう準備をする。

 部屋を出ると、すでにカノンの母親が食事の準備を済ませていた、もう少し早く起きて、手伝いでもしておいた方が良かったかもしれない。

 別の部屋からジークとカノンも出てきた、父親は何故か外にいた様だ、汗をかいているところをみるに、早朝トレーニングでもしていたのかもしれない、母親から布を渡されて汗をぬぐっている。


 「ヒロよ、食事が済んだら村長の元に行くのだろう?我等も同行しよう、自警団の者達も呼ばれているのだ、蠍駆除の打ち合わせでもしようと言うのだろうな」


 「うむ」


 そうであろうとは思っていたが、どうやらカノンの父親の方も自警団の一員らしい、この風格なら自警団長だったりするんじゃないだろうか。

 口下手すぎて、自警団を纏められるのかどうかはちょっと怪しくはあるところだが。

 カノンの母親に呼ばれてテーブルに着く、テーブルには陶器の皿の上に焼いた肉に卵、果物なんかが盛られていた、カノンの家は朝からちゃんと食べるタイプらしい、もしかするとウリカ村の習慣なのかもしれない。


 朝はあまり食べない方ではあるが、出されたものはちゃんと頂くのが礼儀というものだ、ナイフとフォークを使って肉や卵を口に運んでいく。

 肉はなんだかフアミ村でも食べた記憶のある味だ、何の肉かは知らないが、こちらでは一般的な肉なのだろう。

 卵の方も、フアミ村で何度か同じものを食べている、実際の話は分からないが、おそらくは牧場にいた小さいダチョウの卵なのだろう、もしかすると恐竜の方の可能性もあるが。


 改めて朝から食事を取ると、実行するかはさておき、やはり朝もちゃんと食べるべきなのだなと思わせられる。

 食事もおわり、カノンの母親に見送られて四人で家を出る、カノンはミアの家に向かい、ユチェ達を呼んでくるつもりのようだ。

 しばらく家の前で待っていると、三人揃って姿を現した。


 「おはよう、ユチェ、ミアちゃん」


 「おはよう、それじゃ行こっか」


 ユチェはいつも通りの元気さだが、ミアのほうは随分と眠そうだ、あくびをしながら目をこすっている。


 「ミアは凄く朝が弱い、ちゃんと起きるまで時間がかかる」


 そう言ってカノンはミアの手を引いていった、個人的なものなのか、猫のような特性が働いているのか、ちょっと興味深い気がする。

 そのまま全員で村長の家に向かう、村長の家の前では、他の自警団員であろう人達に紛れて、アイザック達が出迎えをしてくれた。

 全員は家の中に入れないので、家の外で村長からの説明があるらしい、こちらが全員揃ったのを確認して

から、村長に話を聞くことにした。

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