〜今日から異世界生活、日常から非日常へ〜その5
その後、ユチェの家まで戻ってきた俺達は、次に村から近い森の方へ向かった。
村の様子も見物しながら歩いていく、同年代であろう少年達は、この三人以外にも居るみたいだ、親の仕事を手伝っていたり、数人で集まって遊んでいたりしていた。
アイザックは割と人気者らしく、その内何人かに話しかけられている。
アイザックがこちらを指差し、何か言っている、おそらくは俺を紹介して、今は案内中なんだ的な説明でもしているのだろう。
森は村から少し外れた位置にある、とは言っても、そこまで遠くはないが、森へ続く道が伸びていて、森のすぐ手前に、大きめの建物が見える。
村から続く道のすぐ手前の家が、どうやらアイザックとカーズの家らしい。
2人は自分と家を交互に指差し、何かを言って家の中に入って行った。
しばらく待っていると、先にアイザックが戻ってきた、手には小型の弓と何本かの矢が入った筒を持っている。
肩掛けの袋もつけており、何かの道具が中に入っているように見える。
腰には刃渡り40センチ程のナイフが、革の鞘に収められていた。
アイザックがこちらを見て、軽くポーズを取っている、もしかすると、猟師か何かなのかもしれない。
アイザックに対して頷いていると、カーズも戻って来た。
こちらもアイザック同様、似たようなナイフを腰に付けていたが、弓は持っていなかった。
肩掛けの袋の代わりに、大きめの籠を背負っており、手には布で蓋をしてある壺を持っていた。
アイザックとユチェに壺を見せながら、何かボヤいているようだ、アイザックが苦笑している。
建物を目指して森へ続く道を進む、どうやら建物には扉が付いていないらしく、ちょっと大きめの倉庫の様なものらしい事に気付く。
中には薪や丸太が積み上げられており、大きい鋸や斧なんかが壁に立てかけられていた、ここはどうやら木こりの倉庫らしい。
倉庫から出て森沿いを歩いて行くと、少し年上だろう、何人かの集まりに出会った。
何やら、木に巻き付いた蔦のようなものを切っていたり、野草を取っていたりしていた。
アイザックがその内にいた、女性に声をかけている、どことなく似た雰囲気をしているので、もしかしたら姉なのかもしれない。
カーズが蔦を指差して、ユチェに何かを言ったあと、ナイフで蔦を切り始めた。
面白そうなので見学させてもらう事にする。
蔦を切ると、中から液体がしみ出して来ていた、蔦は中が少し筒のようになっているようで、その中に液体が詰まっているらしい。
その液体を持って来ていた壺の中に集めている、どうやら蔦の中にはかなりの量の液体が入っているらしく、しばらくは水滴が止まらなかった。
カーズは続いて3本の蔦を切り、更に液体を採取している、樹液か何かか、一体何に使うのだろう、気になったので、もう少し近づいて見る事にした。
ユチェがこちらに気付いたらしく、蔦を指差して手招きしている。
見せてもらうと、少し黄色味のかかった透明な液体だった、ユチェが数滴自分の指にたらし、こちらに見せてきた。
なんだか、テカテカしている、それだけではよくわからない。
ユチェは手に付いた液体を少し舐めて、カーズに何かを言いながら頷いている。
どうやら口に入れても大丈夫らしい、シロップか何かだったりするんじゃないだろうか。
自分の指にも数滴たらしてもらう、指を擦り合わせると、かなりサラサラした液体であるとわかる、においを嗅いでみるが、よくわからない、少なくとも甘いにおいはしない、少し舐めてみる。
これは油だ、蔦の中を油が通っているらしい、凄い植物だな。
元世界にも植物由来の油はいくつかあった、まぁ作り方なんて知らないが、こちらの油は蔦から取れるらしい、他にも油が取れる植物があったりするのだろうか。
そこでふと気付く、異世界で油と言えば、知識チートの定番である、石鹸やマヨネーズが作れるのではないか。
そうだ、チートな能力を貰えなかったと言っても、こちらには現代知識の数々がある。
石鹸は確か油と灰から作るんじゃなかったか、マヨネーズはどうだっけか、卵黄と塩と酢だったか。
塩はおそらくあるにしても、卵はどうだ、そりゃ探せば何かしらの卵はあるか。
酢はどうだ、酢の作り方なんて知らないぞ。
いや、そもそも、こっちの油と向こうの油は同じものなのか、似てるだけで実は全然違うものだったりしないだろうか。
ゆくゆくは検証していくとして、良く考えたら、今はそんな事より、もっと優先すべき事がいくらでもあった。
先にもっとこの世界の事を知るべきだし、言葉だって覚えていかなくてはならない、出来るなら、文字も読めるようになっておきたい。
知識チートを披露するのは、一先ず余裕が出来てからになる、その頃には使えそうな知識もある程度思いつくだろう。
カーズは満足がいく量の油を集められたらしく、壺に蓋をしている。
アイザックも姉との話が終わったようで、こちらに歩いて来ているのが見える。
次は何を見せてくれるのだろうか、森沿いの道をまた4人で歩いて行くのだった。