〜少し外の世界へ〜その7
「勝負あったな」
広場で歓声が湧く、ジークに背を向けて歩きながら、カッコ付けに剣を振る。
すっぽ抜けて飛んでいってしまった、思った以上に手が痺れていたようだ。
恥ずかしい、早歩きで剣を拾いに行く、ユチェも呆れ顔だ。
素早く剣を拾い上げ、アイザック達の元へ戻る。
「勝てるとは思ってなかったよ、凄いじゃないか」
「俺も勝てるとは思ってなかったよ、たまたまだ」
アイザックと拳を合わせながら言う。
「カッコ良かったよヒロ、最後以外は、なんでカッコ付けようとしたの?」
「決闘に勝ったんだから、調子に乗りたくもなるだろ、失敗したよ」
「やるじゃねぇかヒロ、パーティメンバーとして鼻が高いぜ」
「凄いですヒロさん!凄い凄い!」
カノンに振り返り、ドヤ顔を見せつけながら拳を突き出す。
「勝ったぞ、これで冒険者になれるな」
「うん、ありがとヒロさん、あっ」
カノンの視線が自分の後ろにある事に気付く、振り返るとジークが立っていた。
先程までとは打って変わり、良い笑顔を見せている、逆に怖い。
「ふはは、軟弱な奴かと思っていたが、誠な戦士の気質の持ち主よ、気に入ったぞ!」
「そりゃあどうも」
なんだか一気に好感度が上がったようだ、亜人は好感度の上がり下がりが激しかったりするんじゃないだろうか。
「約束通り、もうカノンちゃんが冒険者になる事に反対しないでね」
「戦士は約束を違えたりはしない、誇りに誓おう」
ユチェに自信満々の笑みを見せつけられる、まぁ、結果的には良かったので特に言うことも無い。
その後ろから体格の良いトカゲ系の亜人が現れた、決闘前に見た、カノンの親かも知れない男だ。
「決闘を見た」
それだけしか言わなかったので、何が言いたいのか良く分からない。
「主人は、ヒロさん達の決闘を、素晴らしかったと褒めているようです。初めまして皆さん、私はジーク達の母です。主人は少し口下手なもので」
カノンの母親が通訳をしてくれた、口下手と言うレベルでは無い様な気がするが、この人には理解出来るようだ。
「カノンは良い娘だ」
急に娘を褒め出した、親馬鹿なのだろうか。
「父さま、我もヒロを気に入った、我が一族に迎える事に異論はない」
「お父さん!お兄ちゃん!」
どうやらこの兄弟にも理解出来るらしい。
「主人は、勇敢に戦って見せたヒロさんに、是非うちの一族に婿入りして欲しいと申しています」
「なるほど、婿入りですか、婿入り?」
おい、なんだか話の流れがおかしい事になって来たぞ、とユチェの方へ冷たい視線をおくる。
ユチェは一向に視線を合わせようとしない。
そう言えば、この収穫祭にはそう言う側面もあるのだった、町に出る自分には関係の無いだろうとたかを括っていた。
「あの、俺はまだ結婚は考えてなくて」
「カノンは冒険者になる」
解読しようかと思ったが、全くわからない、母親の方を見て話を聞く。
「主人は、カノンも町に出て冒険者になるのだから、一緒に行動する事も多いだろう、考える時間はあるので、前向きに考えて欲しいと申しています」
あの一言に、それだけの意味が込められていたのか。
まぁ、子供の頃にした、将来この人と結婚するの、なんて話は結局無かった事になるものだ、あまり深く考えても仕方ないのかもしれない。
町に出て冒険者になれば、他にも色々な人に会い、色々な経験をする事になる。
その中でカノンにも本当に添い遂げたい相手が見つかることだろう。
「もう、みんな早くどこか行って!ヒロさん困ってるから!」
カノンが父親と兄の背中を押して、なんとか離れさせようとしている、母親もこちらに一礼すると、カノン達に着いて行った。
「良かったねヒロ、可愛いお嫁さんじゃないか」
「まだまだ結婚する気はないって、誰かさんのおかげでこの歳で嫁が出来る所だった」
ユチェの方を見る、ユチェは視線を合わせようとしないまま、良かったねと小声で言った。
全員でテーブルに戻り、収穫祭の続きだ、一息つけたので、先に回復魔法をかけ直しておく。
「やっぱり回復出来て無かったんだ」
「殆ど効果無かったみたいだ、もうちょっと訓練しないと、無詠唱だと使い物にならないな。ユチェの方はどんな感じだ?」
「うーん、ヒロよりはマシって位かな、でも実践じゃまだまだ使えないよ」
戦術の幅を広げる為に練習を始めた無詠唱魔法だが、使えるレベルになるまではまだまだ時間が掛かりそうだ。
コツコツやっていかないと仕方ないか、なんて考えていると、家族を引き離し終わったカノンが戻ってきた。
収穫祭が終わった後は、蠍退治が待っている、村の外に出るのは初めての事だ、少しワクワクしながら収穫祭を楽しんだ。




