〜少し外の世界へ〜その6
「ヒロ、頑張ってね」
アイザックが木の剣をこちらに投げながら言った、どこから持って来たのかわからないが、用意周到な奴だ。
ジークも部下であろう男から木の槍を受け取っている、武器は槍か、アイザックやエリックさんのお陰で、槍を相手にするのは慣れている方だ、まだ気持ち的に楽かもしれない。
「ジーク・スズベルだ、戦士の誇りに賭けて決闘を受ける」
「ヒロ、あー、ヒロ・ラルフレンだ、お手柔らかに」
フロイド神父のお世話になっているので、折角だしラルフレンを名乗っておいた、こちらの世界に合わせた方が、馴染みやすいかと考えたからだ。
構える前に辺りを見渡す、見物客は殆どが普通の人間だが、所々亜人の姿も見える、他の村からやってきた亜人達だろう。
こうして見ると、やはり種族によって多少反応が纏まっている、ミアの様な獣系の亜人は見せ物を楽しんでいる雰囲気の人が多い、どっちも頑張れだとか、やれやれーと野次を飛ばしている。
逆にカノンのようなトカゲ系の亜人は、静かにしているが、その眼光は鋭い、しかと見届けようと言う意思を感じる、武人気質な人が多いのだろう。
一際体格の良いトカゲの亜人と目が合う、隣には亜人ではない女性が寄り添って立っている。
なんとなくカノンに似ている気がする、カノンの親だろうか、そう言われてみると、ジークには父親であろう男の面影があるように見える。
「決闘前に余所見とはな、戦士の矜持も分からぬと見える、何故妹はお前の様な者に憧れているのか、我には理解出来ぬな」
「戦士じゃなくて、冒険者なんでね、しかもまだ冒険者にすらなってない、ただの冒険者志望者だよ」
だから、周りの状況も相手も良く観察する、見ただけで相手の強さがわかる程の達人ではないし、自分自身が強いとも思っていない。
他の人に比べて少し長い人生で得た経験、それだけが自分に与えられた武器なのだ。
どんな経験が生かせるか分からない以上、まずは良く観察して、良く考える。
ジークの方に向き直し、少し近づいて深く深呼吸をする、そのまま剣を構えてジークを見据える。
さぁ、心の準備は出来た、後はぶつかってみるだけだ。
「ほう、そんな顔も出来るのだな」
ジークが槍を構える、アイザックやエリックさんとは少し構えが違うようだ。
「それじゃジークさん、いざ尋常に」
「来るが良い!」
ジークの方へ向かい走る、それに反応したジークが槍を伸ばしてくる。
そうだ、今までの経験上、槍使いは突っ込んでくる相手に対して、牽制の突きを出す場合が多い。
牽制の突きを剣で受け止めて逸らす、そのまま更に一歩踏み込み、剣を振り抜く、誘い受けのカウンターだ。
槍を突き出したまま、身体を捻り避けられる、まぁこれで終わるとは思っていない、素早く避けた方へ斬り返す。
木のぶつかりあう音が響く、槍の柄で防がれた、このまま力任せに押し切れるだろうか、腕に力を入れ一気に押し込む。
「ぬうぅん!」
逆に押し飛ばされてしまった、とんでもない馬鹿力だ、まずい、剣のリーチ外だ。
突きが迫ってくる、それを避けたら、また次の突きが。
斬り返したくはあるが、剣が届く距離ではない、突きを躱しながら距離を取る。
一息入れて剣を構え直す、アイザックよりは遅いかもしれない、だが、アイザックより遥かに力が強い。
「うおおぉぉお!」
ジークが突っ込んで来た、考えている暇もくれない様だ。
突進突きかと思ったが、槍を頭の上で一回転させ、大きく横薙いできた、これは避けにくいだろう、受けるしかない。
一際大きい音がなり、剣と槍がぶつかった、受け切る事が出来ずに吹き飛ばされてしまう。
右手が痺れるが、気にしている場合ではない、再び同じ様に突進してくる。
このままじゃジリ貧になる、横薙ぎを受けながら懐に飛び込めるか、やってみるしかない。
咆哮を上げながら突っ込んでくるジークに、こちらからも突っ込んで行く。
横薙ぎを受けながら一気に懐に入ろうとしたが、そのままの勢いで体当たりを仕掛けられた。
車にでも跳ねられたんじゃないかと言う衝撃を受け、弾き飛ばされた。
更に追撃の突きが迫ってくる、これは避けられない、剣で受けるが、力押しで防御を突き破られた。
大きく後ろに突き飛ばされる、剣で受け止めていたとは言え、思い切り胸に食らってしまった、息が詰まる、膝をついて咳き込む。
「ふん、勝負あったな」
見物人がザワついたり、ジークに拍手を送ったりしている。
アイザック達が見える、アイザックは真剣な眼差しでこちらを見ている、そうだよな、まだ負けてない、まだ戦える。
泣きそうな顔をしているカノンに、まだ戦えるのだと、握りしめた拳をみせる。
なんとなくの流れで始まった決闘だ、負けるわけにはいかないなんて、そんな大層な思いじゃない、ただ、負けたくはない、それだけだ。
集中力を高めろ、出来る事を考えろ、ついていけない速さじゃない、決して勝てない強さじゃない筈だ。
「そう急ぐなよ、まだ終わっちゃいない」
「貴様、それは」
身体を包む光、無詠唱のヒールライトだ、正直効果があるかは怪しい、ちょっとは回復している気もする、だが、ハッタリを効かせるには十分だ。
「ほう、戦士の面構えだな、少しは認めてやる、行くぞ」
ジークが槍を構えて、再びこちらへ走り出した、次の一撃で決める気なのだろう。
息を吸い込み、吐き出す、ギリギリまで集中力を上げて、魔力を溜める。
「終わりだ!」
横薙ぎが迫る、剣を構えながらしゃがみ込む、もちろんそれで回避出来るわけではない、全身の力を使い、全力で下から槍を狙い切り上げる。
木の槍と木の剣がぶつかり、凄い音が広場に響く、いくら力に差があるとは言え、これならば槍を逸らす程度は出来る。
「やるな!だがしかし!」
ジークは弾かれた槍を両手で持ち、全力で振り下ろして来た、ここしかない。
「フレア・バースト!」
勿論火力なんて殆どない、火の球も手のひらサイズでしかない、だが、一緒だけ相手を怯ませる程度ならこれで良い。
相手と自分の間、すぐ目の前で爆発させ、その爆発に向かっていくように素早く身体を滑り込ませる。
一緒遅れた振り下ろしは地面に当たり大きな音を鳴らした。
構え直した剣の切先は、確かにジークの首を捉えている。




