〜少し外の世界へ〜その3
翌日ユチェの家に行くと、籠に入れられた麦を、リアカーに積んでいる最中だった。
製粉は違う場所でするのだろう、村人に混じって積み込み作業を手伝う。
やはり水車小屋でもあるのだろうか、積み込みが終わったリアカーの後ろを押しながら着いていく。
暫く進むと大きな小屋が見えてきた、小屋の前にズラリと籠が並べてある所を見ると、あの小屋が製粉所なのだろう。
リアカーに積み上げられた籠を下ろして、再び農場に戻る、何度か繰り返して、全ての籠を小屋の前まで運んできた。
さて製粉はどんな感じになっているのだろう、小屋の中に入り様子をみる。
中には丸く平たい石が積み上げられた、巨大な石臼があった、粉を受ける溝みたいな物なんかも取り付けられているが、そこまでごちゃごちゃとはしていない、シンプルなものに見える。
しかし、取手なんかも着いていない、自動で動く様には見えなかったので、人力かと思ったが、どうやって動かすのだろう。
石臼は今は動いておらず、石臼の側ではユチェの父親が麻袋の中をチェックしている、中には白い粉が入っている様だ。
「あ、ヒロ、丁度良い所に、ちょっとこっちに来て手伝って」
ユチェに呼ばれて石臼の裏に行くと、ユチェの兄やアイザック達が地面に座り込んでいた、随分と疲れている様だ。
「じゃあヒロ、これに魔力を込めて」
地面に魔石であろう物が半分埋まっていた、なるほど、ここまで来れば察する事が出来る、この石臼は魔力で動かす事が出来るように、細工がされているのだろう。
井戸の底にあった魔法陣みたいなものが、石臼の中か下にでも仕込まれているに違いない。
「どれくらい込めれば良い?」
「全力でありったけ」
しれっと言われた、ユチェの方を見ると、何よといった顔をしている。
ため息をしながら地面に膝をついて、魔石の上に手を置き、深呼吸して集中する。
魔石がぼんやりと光り、巨大な石臼がゴリゴリ音を立てて動き出した。
「そのまま込め続けて、お母さん!良いよ!」
ユチェの母親が石臼の上から返事を返して来た、麦を石臼に入れているのだろう。
延々と魔力を込め続ける、地味過ぎる作業だが、魔力的な意味ならば重労働だ、更に集中して強く魔力を込めるが、石臼の速度は変わったりしないようだ、魔石の輝きは増した気がする。
「ほら、もっと頑張って」
コイツ、魔力の操作なら自分の方が得意だろうに。
全力で魔力を込め続ける、体内の魔力がぐんぐん減っていくのを感じる。
ちょっと粘ってみたが、もう駄目だ、これ以上は魔力の使い過ぎで気を失いそうだ。
魔力の操作もちゃんと練習しておかないといけない、改めて思い知らされた。
魔力を込めるのをやめて、魔石から手を離す、どうやら込め続けなくても、魔石に魔力が溜まっている状態なら、勝手に動き続けるようだ。
ユチェが魔石の輝きを確認して、満足そうに頷いている。
「この光り方なら、暫くは動き続けるね」
「そりゃ良かった、麦粉はこれで完成なのか?」
「後は出来た粉をふるいに掛けるだけだよ」
他の村人達が、製粉所の裏でふるいを振っているらしい、見に行こうかと思ったが、魔力切れで足元がふらつく、大人しく休んでおこう、アイザック達の隣に座り込む。
「お疲れ様ヒロ、今の内に休憩しておきなよ、もう一度位は魔力を込めないとだからね」
休憩している間に他の村人達も魔力を込めに来ていた、作業は順調に進み、麦粉が入った麻袋はどんどん増えていく。
ユチェも魔石に魔力を込めに来た、やはりユチェは他の村人達に比べても、魔石の光り方が強い、魔法が得意なだけはある。
全ての麦を麦粉にするのに二日掛かった、麦粉は全て広場の倉庫に運び込まれ、その内の一部を村で使い、残りを行商人に引き取ってもらうようだ。
村長とユチェの父親が、今年は量が多いと話していた。
「みんなお疲れ様、手伝ってくれてありがとね」
作業も終えたので、解散前にいつもの四人でゆっくり雑談をする。
ユチェがお礼にと、ルコアの実をいくつか持ってきてくれたので、食べながら話を聞く。
「これで後は収穫祭だな、今年はこの村でやるんだよな?」
「収穫祭?」
そんなもの去年はやっていただろうか、いくら教会にいてひたすら勉強していたとは言え、全く外に出ていないわけではない。
収穫祭なんてしていたら、気が付いていたと思うのだが、そんな記憶はない。
「去年は隣村でやっていたからね、ヒロも誘おうかと思ってたんだけどさ、言葉を覚えるのに凄く忙しそうだったから、邪魔しちゃ悪いかと思ってね」
どうやら収穫祭は近くの村と三村合同で行うらしい、去年は違う村でやっていたそうだ。
隣村と言っても、それなりに時間はかかる、わざわざ合同でやるようなものなのだろうか。
「なんで三村合同なんだ?別に集まらなくても良いんじゃないのか?」
「うーん、多分結婚相手を探したりするのも兼ねてるんじゃないかな?うちの姉さんもそうだったし、ユチェの兄さんも同じだよね?」
なるほど、一つの村の中で探すより合理的と言うわけか、他の血を入れて、村の中で血が濃くなりすぎるのを防ぐ面もあるのかもしれない、あまり近くで結婚し過ぎない方が良いと、なんとなく理解しているのだろう。
「まぁ、俺達には関係ねぇな、結局町に出ちまうし」
「運命的な出会いがあるかもしれないぞ?」
「ヒロは結婚相手を探したいのかい?」
「いや、あんまり興味わかないな、まだ自分が14歳だって思い切れてないんだよ」
そもそも14歳で相手探しは、こちらの感覚で言えば早すぎる、彼女を作るみたいな感覚ならわからなくもないが。
収穫祭は村長達が相談して決めるらしい、おそらくは来週か再来週になるのではないか、と言う話だ。
いつの間にか日も沈みかけている、良い時間になったので解散する事にした。
手を振ってそれぞれ帰路につく、なんだかんだ収穫祭を楽しみに思いながら、教会のドアを開いた。




