〜少し外の世界へ〜その2
それから暫くの間は、休日全てを特訓にまわした、魔物討伐の影響で、森での獲物が見つかりにくい状況になっているからだ。
アイザックに関しては、平日の仕事がないので、ずっと教会の手伝いをしてくれていた。
そうこうしている内に、収穫期に入った。
朝からユチェの家へ向かう、既に収穫を手伝いに来ていた村人達が、ユチェの家の前に集まっていた。
アイザックとカーズの姿を見つけたので、近寄って挨拶をする。
暫くそのまま話をしていると、ユチェの父親の声が聞こえて来た、そろそろ始まるらしい。
収穫は麦を刈るグループ、それを運び一箇所にあつめていくグループ、集められた麦を加工するグループに別れる。
もしかしたら異世界なりの道具や、収穫に使える魔法なんかがあるんじゃないかと期待したが、完全手作業での収穫になるようだ。
「はいこれ、じゃあよろしくね」
ユチェに鎌を渡される、刈る方をやれと言う事か。ぞろぞろと歩き始めた村人達について畑に入る、隣で作業を始めた村人の動きを真似しながら、麦刈りを始める。
元世界では麦なんて良く見てはいなかったが、こんな形だったかなと考えながら、ひたすら刈り取り続ける。
そこそこの人数がいるとは言え、麦畑はずっと続いている、これは手強い作業になりそうだ。
その後は無心で刈り続けた、途中で何度か休憩を挟みつつ、一日中延々と麦との格闘は続いた。
夕暮れ時になり、その日の作業は終わる、まだまだ畑は続いている、明日はこの続きだ。
クタクタになりながらユチェに鎌を返す、食事が用意されているらしいので、他の村人達と一緒に食事をとる。
「わかっていたが、農作業ってのもなかなか大変なもんだな」
「当たり前でしょ、今週はずっと作業が続くよ、麦刈りだけなら明後日までかな、それから脱穀して製粉だね」
脱穀や製粉も手作業になるのだろうか、川が近くに流れているのだから、水車小屋でもあるのかもしれないが、見た覚えは無い。
「雨が降ったらどうするんだ?麦が濡れちゃうだろ」
「ん?雨が降っても作業は変わんないよ、麦が濡れてちゃ駄目なの?」
麦って乾かしてから脱穀したり、製粉したりするものじゃないのか、いや、農業の知識なんて全く無いが、稲は確か干していた気がする、同じ穀物なのだから、麦も干すものじゃないのか。
そこまで考えて思い直す、これはあくまでも麦の様に見える、別の何かなのだ。
何十年もこの穀物を育ててきた、この世界の住人が言うのだから、乾かす必要もないのだろう、今まで試した事がないなんて事はない筈だ。
「そんなもんなのか、元の世界じゃ干してた気がするんだ」
「ふーん、ヒロの世界の麦って面倒なんだね」
食事も終わり、ユチェにまた明日と告げ教会に帰る。
作業中は会わなかったが、帰りはアイザックとカーズも一緒だ、広場で少しの間雑談をしてから別れる。
翌日もまた同じように、ユチェの家へ向かう。
昨日と同じ様に、ひたすら無心で麦を刈り続けた、今日からは、並行して脱穀も行われているらしい。
そちらの作業にも興味があったが、まずは刈り入れ作業を終わらせる。
後ろを振り返ると、昨日まで麦が立っていた場所が綺麗に開けている、ちょっと誇らしくなるものだ。
更に翌日、ようやく刈り入れが終わった、最後の麦の束は、折角なので自分で持っていく事にした。
山積みに置かれている麦の横に麦の束を置く、その奥では脱穀の作業が行われていた。
しかし、脱穀作業は予想とは大きく異なっていた、千歯扱きみたいな物を使って脱穀しているのかと思っていたが、なんとナイフを使って穂を切り落としているだけだった。
いやいや、実だけにして殻を外したりとかしなくても良いものなのか。
あのまま製粉するのだろうか、綺麗に粉になる気が全くしないのだが。
アイザック達も脱穀、と呼んで良いのかわからないが、作業を手伝っていたので、そちらを手伝う事にする。
「なぁアイザック、これってこのまま製粉するのか?」
「そうだよ、製粉は明日になるかな、今日は脱穀した麦を集めるところまでだね」
アイザックが指差した方を見ると、籠がいくつも並んでいた、切り落とされた麦が入っているようだ。
流石に茎の部分は製粉しないようだが、別の利用価値があるので、こちらも大きな束にして積み上げられている。
「綺麗に粉になるものなのか?」
「変な事を聞くね、ヒロの世界だと違うやり方だったのかい?」
「ああ、俺も詳しくは知らないけど、実だけにして、殻を剥いてみたいな手順だったと思う」
「えぇ、凄く手間が掛かるじゃないか」
「ヒロの世界の麦って本当面倒くさそうだよね」
ユチェに、こっちの麦がお手軽過ぎるんだよ、と返しながら作業を進める。
脱穀にも凄く時間が掛かりそうだと思っていたが、これならば今日中に終わりそうだ。
そう言えばユチェは、今週はずっと作業が続くと言っていた。
今思うと、手伝いが多いとは言え、この規模でも一週間で作業が終わると言う事なのだ。
これは製粉も何か特別な事があるに違いない、麦をナイフで切りながら、ちょっとワクワクしていた。




