〜少し外の世界へ〜その1
数日後の休日の朝、今日は予定通り教会の畑の作物を掘り起こす。
支度をして裏庭で待っていると、ユチェがやってきた、どうやら一人らしい。
「あの二人はまだみたいだね」
「もう来ると思うけどな」
ユチェは畑に生えている葉っぱを確認している、農家の娘ともなると、やはり何の植物なのかわかるのだろうか。
顎に手を当てて、難しそうな顔をしている、しばらく考えている素振りを見せたあと、こちらに向き直った。
「良くここまで育てられたね、なんでこんな物育てようと思ったの?」
「いや、それアイザックが持って来たんだ、俺は何の植物かも知らない、結局なんなんだそれ」
そうなんだと言いながら、更に畑の葉っぱを調べ始めた。
教えてくれないのかよ、と心の中で思いつつ、葉っぱを良く見てみる。
ずっと育てて来たので既に見慣れたが、やはり人参か大根辺りに近いように見える。
野菜なのだろうが、根菜か葉野菜かはわからない。
「お待たせ、お邪魔だったかな?」
アイザックとカーズが一緒に姿をみせた、邪魔だから帰れと言うと、邪魔をしに来たのさと返された。
「いつの間に三角関係になってんだよ」
「ごめんねモテちゃって」
軽口を叩き合いながら、みんなで畑の前に立つ。
さて、結局この植物が何かわからないまま、掘り起こす事になった。
とりあえず引っこ抜いてみるか。
いや、なんだこれ、めちゃくちゃ硬い、抜けそうにないぞ。
更に力を込めて、全力で抜こうとするが、それでも抜けない、どんな根してるんだこいつ。
「駄目だよヒロ、それ、地面の中で根っこが全部繋がってるんだ」
「はぁ?どんな植物だよ、じゃあ畑の中は根っこが張り巡らされてるって事か?」
この植物は、育つと地面の中で結合されていくらしい、あまり群生はしていないらしく、野生のものは近くに同じ植物がないので、割と簡単に抜けるのだそうだ。
「なんでそんなもの植えさせたんだ」
「本当はこんなに上手く育たないの、植えても殆ど枯れちゃうんだよ」
アイザックの代わりにユチェが答えた、たまたま上手く育ってしまったわけか。
「凄いよね、こんなに群生してるのは初めて見たよ、本当は探しても見つかりにくいものなんだけどね」
「クワを使って、端から順番に掘り起こしていこうぜ」
カーズが作物の周りをクワで掘り始める、あれならば地面の中で繋がっている根も切れるだろう。
少なくとも引きちぎれる程度には、バラバラになっている筈だ。
改めて葉っぱを掴み、全力で引き抜く、ブチブチと言う根が引きちぎれる感触が、手に伝わってくる。
これならいけそうだ、更に力を込め続ける、作物が地面から抜けた勢いで転びそうになるが、なんとか堪える。
「よしっ!抜け、うわぁあぁ!」
思わず手を離した、作物の根がウネウネと動いている、活きの良いタコみたいだ。
なんだこれ、どう言う植物だよ、そもそも植物なのか。
地面に落ちた植物は、自分が埋まっていた穴の方へ這いずって行った、もう一度埋まろうとしてるのかもしれない。
「ちょっと、離しちゃ駄目でしょ」
植物は穴に戻る前にユチェに捕まえられた、持ち上げられた植物の根はウネウネと動いている。
「いや、そんな事言われても、離すだろそりゃ、なんだそれ、噛んできたりしないのか?」
「植物が噛むわけないでしょ?馬鹿なの?」
植物の根はそんなふうに動かないだろ、少なくとも元世界ではそうだった。
「ヒロの世界にはなかったんだね」
アイザックが植物の名前を教えてくれたが、知らない名前だった。
なんでもこの植物は、地上に生えている葉っぱから、空気中に溶け込んでいる魔力を吸い込み、それを少しずつ根に蓄えながら成長していくらしい。
その性質上、根には多くの魔力が含まれていて、魔力を回復させる薬の原料として使われているのだそうだ。
伝承や物語に出てくるマンドラゴラがイメージに一番近いか、叫び声をあげたりはしないようだが。
危険は無いようなので、順番に抜いていく。
抜いたマンドラゴラを、ユチェがナイフで切り分ける、葉っぱと根は別々の籠に入れていっている。
葉っぱは塗り薬の材料になり、肌荒れや火傷、軽い傷や皮膚病なんかに効くらしい、有能な植物だ。
根を放り込んでいる籠の中は地獄だった、まだウネウネと動いている、なんだか見ていると不安になってくる。
「なぁアイザック、千切れた根がまだ埋まってると思うんだが、放っておいて良いのか?また生えて来たりしないのか?」
「大丈夫じゃないかな、ユチェも言ってたけど、本当は簡単に栽培出来るようなものじゃないんだ、肥料や水をあげなかったら、すぐに枯れちゃうんじゃないかな、俺は増えてくれた方が嬉しいけどね」
マンドラゴラは希少なので、良い値段が付くらしい、ユチェが、魔力回復薬を作ってみたいので少し残しておいてと言っている。
アイザックがもう一度埋めておこうかと言っていたが、断っておいた、来年の今頃には既に町に出ている筈だ。
全て採取し終えたら、次は加工だ、全員で広場へ向かい水を汲む。
鍋とカマドが必要らしいので、そのままユチェの家へ向かう。
まず根を水洗いする、洗っている最中も手に絡みついてくる、非常に洗いにくい。
鍋で水を沸かせて、洗った根を放り込んでいく、沸騰した湯の中に入れられた根は、しばらくの間はまだ動いていたが、やがて動かなくなった。
しばらくそのまま茹で続けて、しっかり茹で上がってから鍋から取り出す。
後はこれを二週間ほど陰干しして、下準備が終わるらしい。
「今日はここまでだね、随分早く終わっちゃったね」
「だな、森に行っても獲物は見つかんねぇだろうし、どうするよ?」
「久しぶりに釣りでもしてのんびり過ごすか」
「良いんじゃない?私本持って行こっと」
その後は川で釣りをしながら一日を過ごした、途中アイザックが不敵な笑みを浮かべながら、木の槍と木の剣を持ってくるまでは、と言う話だが。




