〜町から来た冒険者達〜その10
回復魔法を掛けて貰ったおかげで、なんとか立ち上がれる程度までは、身体を動かす事が出来る様になった。
とは言え、傷が治っただけで、体力が回復した訳ではないので身体が重い、これ以上の戦闘はむしろ他の人達の邪魔になるだろう。
アイザックもカーズも疲労困憊と言った感じだ、ユチェもありったけの魔力を込めたのだろう、酷い顔をしている。
ビッツ達も含めて、まだ多少の余裕がありそうなのはマルクスだけだ、これ以上は戦えない。
「ありがとうリリィ、助かった。ユチェ、周りはどうなってる?」
「状況より自分の心配をしなさいよ、もう魔熊以外は終わったみたいね」
身体を起こして辺りを見渡す、なるほど魔熊以外の敵は見当たらない、改めて見ると酷い事になっていた、そこら中に森熊と森狼の死体が転がり、地面が赤く染まっている。
そのまま立ち上がり、アイザック達に声を掛ける。
「良かったよヒロ、無事みたいだね」
「なんとかな、でもここまでだな、もう魔熊と戦える程の体力は無い」
「勘弁してくれよ、アレとやる気だったかよ」
「ほんと呆れた、言っとくけど、私ももう魔法は撃てないからね」
「ヒロ、無事か」
「大した奴だよお前は、リリィ魔力はどうだ?」
「ごめんなさい、もう殆ど残ってません」
未だ戦っている魔熊も冒険者達も、既にボロボロだ。
マルクスだけでも加勢に行かせた方が良いだろうか、こちらも回復は出来ないまでも、倒れている冒険者の様子を見に行くべきだろう。
ビッツにそう提案しようかと思った矢先、魔熊が大きく吠えた。
なんだ、まさか仲間を呼んでいたりするのか、冗談じゃないぞ。
冒険者達だってなんとか戦ってる状況なんだ、増えた敵の対処に手を回すと、魔熊にやられる人も出てしまうかもしれない。
みんなギリギリで戦ってる、そうなればこちらも、崩れるのは一瞬だ。
魔熊の叫び声が森に木霊する、悲痛な叫び声だ。
あぁ、そうか、魔熊も生きたいんだな、たったそれだけの話なのだ。
ここにあるのは、ただの生存競争だ、生きたい人間と生きたい魔物の、死力を尽くした生の奪い合いなのだ。
叫び声を聞きつけた魔獣が姿を現す、森熊が1匹、森狼が2匹。
魔熊の加勢に行かせる訳にはいかない、生き残る為に、持っているものを全てぶつけ合う。
「おいおい、冗談だろ」
「どうすんだヒロ!」
ビッツとカーズが慌てふためく、もう魔法は撃てない、力押しで森熊を仕留める力も残っていない。
「逃げるわけにはいかない、俺達は冒険者なんだ、仲間は見捨てられない」
「そうだね、騎士道精神にも反するよ、あいつらは俺達でやろう」
「アイザック、槍に魔力を、カーズ、一撃だけ受け止めてくれ」
「魔力付加?出来んのか!?」
ビッツが驚きの声を上げる、武器へ魔力を込める方法は割と一般的だが、だからと言って簡単ではない。
散々練習をしてきたが、ことごとく失敗を繰り返して来た。
「滅多に成功はしないけどね」
「あぁくそっ!ヒロ!俺達はどうすりゃ良い!?」
ビッツ達も作戦に乗ってくれるようだ、有り難い。
「よし、マルクス、敵の注意をこっちに引き付けてくれ!アイザックとカーズは集中して魔力を!ユチェ、リリィ、ビッツ、森狼を頼む!総力戦だ!行くぞ!」
マルクスが森熊達の方へ走り出す、ある程度近づいた場所で立ち止まり、雄叫びを上げた。
新たな敵に気付いていた冒険者達も、驚きの表情を見せたが、意図を理解したのか、魔熊の方へ向き直した。
森熊達がマルクスの方へ走り出す、マルクスもそれを確認してすぐにこちらに戻ってくる。
ユチェ達が左右に散開して森狼の気を引く、森狼達がそちらに誘われ軌道を変えた、後は勝ってくれる事を祈る事だけしか出来ない。
さぁ、これで残りは森熊だけだ、お互いの命を賭けて、勝負だ。
マルクスがこちらに走り寄り、振り返って剣で防御体勢を取る。
こちらに突っ込んで来ている森熊に向かって、カーズが盾を構えて思い切り突進した。
「おらぁああああぁ!!」
その盾は微かにだが淡く光輝いている、凄まじい衝突音が聞こえて来た、森熊の勢いは一気に弱まった。
「うおおおおおぉぉぉ!!」
更にマルクスが剣を盾の様に使い突っ込む、勢いを殺されていた森熊の足が完全に止まった、すかさず懐に飛び込み切り上げる。
「おおおおぉぉ!!」
ガシュンと言う鈍い音がする、浅かった、しくじった、魔力が足りなすぎたのだ、斬撃は鱗に弾かれてしまった。
だがまだだ、後ろから力強く地面を蹴る音が聞こえる。
「大丈夫だよ、ヒロ、後は任せてよ」
鋭い突きが森熊の胸に放たれる、ボシュンと言う音が聞こえた、アイザックの槍が森熊の体を完全に貫通している。
森熊は声を出す事もなく、そのまま後ろに倒れた。
息を荒くしながら全員で顔を見合わせる、勝ったのか、あぁ、勝ったのだ。
ユチェ達の方も無事なようだ、足元に倒れている森狼がみえる。
それと同時に魔熊が地面に倒れる音が聞こえる、もう敵は居ない、誰からでもなく雄叫びが上がった。
終わった、そう思うと一気に力が抜けた、地面に座り込む。
「助かったよアイザック、お前のおかげだ」
「みんなの力だよ、なんとかなったね」
「もう駄目だ、もう動けねぇぞ」
ユチェやビッツ達も駆け寄ってきた、身体は疲れ切っているが、その表情は明るい。
これで全員無事に村に帰る事が出来る、今はとにかく安全な場所でゆっくり休みたい。
アイザックと再び拳を合わせながら、そんな事を考えていた。




