〜町から来た冒険者達〜その7
森の中を光が打ち上げられた方へ走っていく、もちろん周囲の警戒は怠らない、しかし、妙だ。
そろそろ魔熊を見つけたのであろう場所に着くと言うのに、ここまで森熊ところか森狼にすら出くわしていない。
森を走っている間は随分と音を立てていた筈だ、気付いた魔獣達が襲ってきてもおかしくない、たまたまだろうか。
「無事か!?今助ける!」
前を走っていたエリックさんが声を上げた、その先には剣を構えた冒険者がいる、あの後ろ姿はマルクスだ、その足元には誰かが倒れている、ビッツやリリィではないようだ。
森狼に囲まれている、確認できる限りでは4匹居るようだ、倒れている冒険者は怪我をしている様だが、意識ははっきりしている、足を怪我して動けなくなっているのか。
「前に出る!行くぞアイザック!ユチェ雷だ!威力は要らない!カーズ!ユチェと怪我人を!」
剣を抜きながら、迫り来る森狼と怪我人を守るマルクスの間に割り入る。
森狼の突進に合わせて身体を捻り、剣を叩き込む、何度も練習した、森狼を倒すには突進にカウンターを合わせるのが一番だ。
上手く決まったかと思ったが、残念ながら一撃で倒し切るには至らなかった、とは言え追撃を入れる訳にもいかない、別の森狼がこちらに向かって来ている。
構えを直している暇はない、ギリギリで避けながら腕を角にぶつけて軌道を逸らす。
アームガード越しに衝撃が伝わってくる、森狼はそのまま後ろへ抜けてしまった。
「カーズ!1匹通した!」
「おぅ!心配すんな!」
後ろに通った森狼はユチェや怪我人の方へ突っ込んで行く、カーズが盾を使って森狼を弾き返す、シールドバッシュだ。
カーズはあれで力が強く、足腰も安定している、仲間を守る為に防御を重点的に鍛えた結果、盾の扱いに随分と慣れてきていた。
弾き飛ばされた森狼に槍が突き刺さる、エリックさんだ、既に1匹片付けていたエリックさんが、援護に来てくれた様だ。
アイザックも森狼に槍を振り下ろしているのが見える、あれは決まっただろう。
「ライトニング・ボルト!」
先程一撃を入れた森狼に雷が突き刺さった、威力ではなく、早さを重視した魔法だが、森狼の動きを止めて怯ませるには十分な効果がある。
素早く走り込み、剣を胴体に突き立てる、確かな手応えがあった、森狼は暫くもがいていたが、次第に力を無くし動かなくなった。
「すまん、助かった」
「お礼は後で聞くよマルクス、状況は?」
倒れている冒険者に近づいて回復魔法を掛ける、傷はそこまで深くはない、これならばすぐに動けるようになるだろう。
「魔熊、取り囲んだ、討伐始まった、敵が増えた、戦っている内、バラバラになった。」
なんとなくだが理解が出来た、魔熊を倒そうと取り囲んだは良いものの、森狼や森熊が集まってきて、戦っている内にバラけてしまったのだろう。
こちらに礼を言いながら、立ち上がろうとする冒険者に手を貸す、全快とは言わないが、動き回れる程度には治った筈だ。
「ビッツ達は?」
「分からない、心配だ、探さないと」
爆発音が聞こえた、今のはおそらくフレア・バーストだろう、そんなに遠くはない。
「ビッツ!リリィ!」
「待て!マルクス!くそっ、アイザック!追ってくれ!すぐに追い付く」
「了解した!」
「私も行こう!アイザック!無理はするな!」
マルクスの後をアイザックとエリックさんが追う、冒険者を引き起こして、傷の確認をする、大丈夫そうだ。
「動けますね?すぐに追いたい、走れますか?」
「あ、あぁ、すまない、まだ子供なのに」
「カーズ、ユチェ、行こう」
三人が走って行った方へ向かう、すぐに森狼や森熊が吠えている声や、冒険者達の声が聞こえてくる、乱戦になっているような雰囲気だ。
森が切れて小さな広場になっている、森の中では乱戦は戦い辛いと思ったのか、ここまで誘き寄せて来たのだろう。
森を抜けたすぐ前でアイザック達が戦っている、マルクスも一緒だ、そのすぐ側でリリィが他の冒険者に回復魔法を掛けていた。
素早く見渡して戦況を見ながらビッツを探す、居た、少し離れた位置にうつ伏せに倒れていた。
森狼が少しと森熊が多数、成人男性より二回り程大きいか、更にその奥、三人の冒険者と向かいあっている一際大きい森熊、その瞳は真っ赤に輝いている、魔熊だ。
「カーズ!アイザックをフォローしろ!ユチェ!リリィを守れ!」
「ヒロは!?」
「ビッツを助けに行く!おいアンタ、まだ名前は聞いて無いが、冒険者なら戦えるんだろ?悪いが暫く守ってくれ」
「あぁ、任せろ!借りは返すさ!ヤーセンだ!」
ユチェにそう答えて、ヤーセンと一緒にビッツに駆け寄る、ヤーセンは剣を構えて壁になるように敵側に立ってくれた。
ビッツに声を掛けてみるが反応がない、傷を見ようとひっくり返す、胸元の革鎧が引き裂かれている、森熊にやられたのだろう、酷い傷だが、まだ生きている。
深く集中して、詠唱を始める、もっと深く、大丈夫だ、周りはみんながなんとかしてくれる。
焦るな、でも早く、強く。
"祝福よ 我が身に集い 力となれ"
魔力の光球が辺りに漂い始める、こちらに走ってくる森狼の足音、それに向かって行くヤーセンの声。
離れた場所から聞こえてくる仲間達の声、風の吹き抜ける音、森の木々の葉が擦れる音。
もっと集中を、この世界に、漂う魔力に。
"癒せ 慈愛の 暖光"
「ヒールライト!」
光球が一気に手元に集まっていく、指先から魔力の流れが伝わってくる、これ程までの魔力の強さを感じた事は今まで無かった。
ビッツの傷も見る見るうちに治っていく。
「うっ、うぅ、なんだ?ヒロ?ヒロか?」
「ビッツ、待ってろすぐに治してやる」
「助かった、もう駄目かと、リリィ、リリィは?マルクスは?」
「まだ戦闘中だ、だからまだだ、まだ何も終わってない、喜ぶのは全部終わってからだ」
「あぁ、そうだ、そうだな!悪りぃヒロ、もう大丈夫だ」
立ち上がれる程に回復出来たようだ、意識もはっきりしている。
こちらも立ちあがろうとしたが、強い立ち眩みで膝をついてしまった、魔力切れだ、視界がぼんやりとする。
「大丈夫か坊主!凄い魔力だったからな、魔力切れだろう」
「悪りぃヒロ、俺のせいで」
「言ってる場合じゃない、ヤーセンさん、ビッツ、あっちに合流する、いけるな?」
指先ではアイザック達が3匹の森熊相手に苦戦していた、すぐに加勢に行かなくてはならない。
魔力切れでガクガクと震える足を殴って、なんとか走り出した。




