〜今日から異世界生活、日常から非日常へ〜その3
異世界に来てしまったのか、異世界って事は元世界の自分はどうなってしまったのだろう。
まさか、ゲームをして寝た後、何かがおきて死んでしまったりしたのか。
それとも、誰かに召喚でもされて、この世界に連れて来られでもしたのだろうか。
いや、そんな事はこの際どうでも良くて、元世界の俺はどうなってるのだろう。
父や母はなんて思うのだろう、彼女はどう思うのだろう。
帰る事は出来るのか、元世界の体はどうなっている。
クリアしてないゲームが、まだハードの中に山盛りされている、来月のクレカの支払いはどうすれば良い、預金には余裕があったから大丈夫か。
違うそうじゃない、そんな事はどうでもいい、父と母は兄がなんとかしてくれるだろうか。
ダメだ、頭の中の整理が全く追いつかない、まず帰る方法か。
言葉も通じない世界でどうやって探す、現実的に不可能ではないか。
しかし、こちらとあちらの世界の時間が進む早さが同じとは限らない、時間をかけて、なんとか元世界に戻る方法を見つけて、いざ戻れば今日の朝なんて事はないだろうか。
どれだけ考えても、分かる事と言えば、すぐには戻れないであろう事と、考えてもどうしようも無い事だけだ。
一先ずは自分を誤魔化してでも切り替えていこう。
「******」
どうやら黙って考え込んでいた事を、心配した神父様が声をかけてくれたらしい。
「大丈夫、大丈夫です」
から元気ではあるが、ひとまず神父様には大丈夫だということを、身振り手振りで伝えてみる、伝わっているのかはわからないが。
とにかくまずは状況整理だ、ここはどうやら異世界で、人は普通に生活している、言語は全く不明、魔法がある世界で、文化レベルはごく普通の中世辺りなのか。
中世の暮らしなんてほとんど知らないけど、おそらくはこんな感じなのだろう、アニメやライトノベルで見た事がある、俺は詳しいんだ。
しかし異世界転生なら、それなりにセオリーを踏んで欲しかった。
呼び出した神様や召喚士に、おぉ勇者様、あなたこそが世界を救うものだとか言われたり。
目が覚めたら領主の息子で、恵まれた親と恵まれた才能を持つ、超天才児だったりだとか。
そもそも、チート的な何かがあって然るべきではないのだろうか。
いや、ある意味では恵まれていたのだ、居るかは分からないが、いきなり魔物に襲われて、即ゲームオーバーなんて事もありえたし、街の衛兵にいきなり捕まって、そのまま処刑なんて事も充分考えられる。
言葉くらいは分かるようにして欲しかったが、一発ぶん殴られた程度で、教会に拾って貰えてラッキーなのだろう。
まて、本当に拾って貰えたのか、神父様は凄く人が良さそうだが、いきなり売り飛ばされたりしないだろうな。
そもそも、拾って貰えたって認識で良いのだろうか、こちらの世界の宗教の寛容さ加減に期待しておく。
「*****」
奥の部屋からシスターが戻ってきた、手には布と、革に紐を通した物を持っていた、服と靴だろうか。
どうやら頂けるらしいそれを受け取る、服は先程の少年達が来ていた物と似ている、シャツは脱がずに上から着る事にする。
ズボンは紐をベルト代わりに結ぶ、靴が一番履き方に迷ったが、四苦八苦しているとシスターが結んでくれた。
革を折り畳みながら、組み立てる様に履くらしい。
神父様がこちらをみて、ウンウンと頷いている、隣ではシスターが軽く拍手をしている。
似合っている的な事を言いたいのだろうか、お辞儀をして感謝を伝えておく。
この辺りのボディランゲージは元の世界と同じだと思いたい。
「*****」
教会のドアが開かれ、先程すれ違った少年達が入ってきて、イケメンの少年が、神父様と何やら話をし始めた。
どうやらもう睨みつけられはしないようだが、赤髪の君がこちらに近付きながら、ジロジロと見てくる。
黒髪の少年も特に何もしては来ないが、こちらに興味津々と言った具合だ。
イケメンと神父がいくらか話をしたあと、神父は少しの間考える仕草を見せ、頷いた。
少年達は入り口の方へ向かい、こちらを手招きした、これは付いて来いと言っているのだろうか。
神父様も、彼等の方へ手を差し出して、背中を押してきた。
おそらく、あの少年達が村の案内でもしてくれると言うのだろう。
これから生きていかなければならない世界だ、帰る方法を探すにしろ、生活をしていくにしろ、まずは村の様子を見て周るのも悪くない。
「******」
「だから、分からないっての」
イケメンが早く来いよとでも言っているのだろうか、こっちは分からない事だらけなのだ、純粋無垢に異世界転生を楽しめるような気分でもない。
とは言っても、どれだけ悩んだって、考えたって、今の状況では何も進展したりしない。
それならまずは、余り悩まずに、自分のできる事を、前向きにやって行こうじゃないか。
これから暫くは顔を合わせる事もあるだろう、なんだか楽しそうにしている少年達の後ろに付いて、教会をあとにした。
ようやくプロローグ的な所まで進みました