〜町から来た冒険者たち〜その4
いつもの様に朝から教会で掃除をしていると、リリィがやって来た、他の二人は居ないようだ。
フロイド神父やメアリーと話をした後、祈りを捧げている、熱心な神官さんだ。
そう言えば、フロイド神父とメアリー以外の教会関係者に会うのは初めてだ。
ちょっと話を聞いてみるのも面白いかも知れない。
掃除をしながら、祈り終わるのを待って話しかけた。
「リリィ、時間に余裕があるなら、教会の事を教えて欲しいんだ、少し話をしていかないか?」
「はい、構いませんよ、私も村の事など聞いてみたいですし」
「でしたら、私も参加して良いでしょうか?」
メアリーも話を聞いてみたいようだ、三人で暫くの間雑談をする事にした。
リリィ達三人は、こことは別の村で育った幼馴染らしい、教会の神父の娘として産まれたリリィは、村のシスターとしての責務を果たすため、経験を積み見聞を広げる目的で冒険者になったそうだ。
メアリーとフロイド神父はそのリリィの父親に会った事があるらしい、若い頃この村にも来た事があると言っていた。
メアリーはまだ幼く、フロイド神父もまだ若かった頃の話らしい。
「では町でも神官をしながら冒険者を?」
「はい、神に仕える者として、教会での責務も果たさなくてはなりませんから」
「凄くご立派な考えをお持ちですね」
「まだまだ未熟ですので、ステラ教の教えの元、精進を重ねる日々です」
「魔法は誰に教わったんだ?やはりお父様に?」
「はい、回復魔法はお父様に教わりました、今は攻撃魔法も少しずつ練習を」
「それでしたら、私が少しお教えしましょうか?」
メアリーの提案にリリィは少し悩み、お願いしてよろしいでしょうかと返した。
冒険者としての仕事があるので、それを済ませてからまた戻って来ると言い、教会を出て行った。
こちらも教会の仕事の続きをするとしよう。
いつも通りのルーティンをこなしていく、体調の優れない人に回復魔法を掛けていると、カーズが妹を連れて教会に入ってきた。
どうやら熱があるらしい、妹を椅子に座らせ、薬箱から飲み薬を取り出し、妹に飲ませ、そのまま回復魔法を掛けていく。
回復魔法は外傷だけでなく、病気や体の内側の異変に対しても効果を発揮する。
どれだけ考えても仕組みが一切わからない、体そのものの傷を治す速度や、病気に対する抵抗をあげてたりするのか、それとももっと他の要因で回復しているのか。
もっと練度が上がれば、切り飛ばされた腕を付け直したり、抉られた腹を復元させたりも出来るそうだ。
そこまで高度な回復魔法を使えるのは、世界でも一握りだと言っていたが。
「カーズ、夕方前に、冒険者の一人が魔法を教わりに教会に来るんだ、挨拶でもしとけばどうだ?」
「おー、時間があったら来てみるかな、サンキューヒロ、助かったぜ」
カーズはそう言って教会を出て行った、教会に来ていた村人も、そろそろ人数を減らし始めた、若干手持ち無沙汰になってきたので、教会の備品を調べて回っておく、特に異常もないようだ。
その後は裏庭で剣を振ったり、水を汲みに行ったり、畑仕事をしているうちに、いつの間にか夕方前になっていた。
教会でメアリーと共にリリィを待っていると、教会の扉が開かれてアイザック達が入ってきた。
どうやらカーズに話を聞いたようだ、挨拶しておこうと言う心算なのだろう。
ユチェは挨拶と言うわけではなく、自分と同年代の娘の魔法がどんなものか見たいらしい、折角なので一緒に訓練しようと言う事なのだろう。
その少し後にリリィ達もやって来た、あちらも三人揃っているようだ。
「大人数になりましたね、では魔法の訓練もありますし、少し場所を変えましょう」
メアリーに着いて教会を出る、少し歩いた所に開けた草むらがあるのだ、魔法の訓練は毎回そこで行っている。
後ろではアイザックとカーズが、ビッツやマルクスと話をしている、自己紹介をしあっているのだろう。
ユチェもリリィと何やら話をしているみたいだ、同じ女の子の魔法の使い手同士、気が合ったりするのだろうか。
「さて、ではリリィ、リリィの魔法の練度がどの位であるのか、見せて頂けますか?」
「分かりました」
リリィは胸元で手を組み、静かに深呼吸した。
"祝福よ 我が身につどい 力となれ"
早い、集中から詠唱までの速度は大したものだ、集まる魔力もぼんやりとではあるが、可視化される程度に多い。
隣でユチェも感心している。
"穿て 業火の 鉄槌"
現れた火球も、少なくとも自分のものよりは大きい。
あの早さで、この威力なら実戦でも十分に使えるだろう。
「フレア・バースト!」
火球は真っ直ぐ飛んでいって爆発した、回復魔法の方が得意と言っていたが、攻撃魔法でこの練度ならば、回復魔法の方は相当なものなのではないか。
メアリーも集中の早さを褒めながら、体内の魔力の流れをもう少しスムーズにすれば、集められる魔力も増えて威力が上がると説明している。
ユチェが前に出るのを制止して、先に前に出る、自分が一番練度が低い、最後は勘弁したい。
静かに精神を集中させる、ぼんやりと身体が熱い。
呪文を詠唱し、魔法を繰り出す、火球の大きさはリリィのものより少しだけ小さい程度だが、時間は倍程掛かっている。
「フレア・バースト!」
同じように真っ直ぐ飛んで爆発した、威力はまぁ、使えない事もないだろうが、やはりネックなのは時間か。
まだ実戦ではわざわざ使おうとは思えないレベルだ。
メアリーにも、もう少し早く発動出来る様に練習しなさいと言われた、ごもっともだ。
「全く情け無いわね、手本を見せてあげるわ」
ユチェの番だ、戦杖を片手で前に構え、スッと息を吸い込む。
"祝福よ 我が身に集い 力となれ"
早い、リリィと殆ど同速だ、ユチェの方が若干早いくらいかも知れない。
戦闘中ではない、平時のユチェの魔法技術はいつ見ても大したものだと思う。
ユチェの周りを魔力の淡い光が包み込む。
"穿て 業火の 鉄槌"
威力も自分のものより随分強い、森狼ならば一撃で葬り去れそうだ、リリィの物より更に大きな火球がその強さを物語っている。
「フレア・バースト!」
迫力のある爆発が巻き起こる、普段は居ない人の目があるからか、いつもより気合いが入っているようだ。
メアリーは拍手を送り、リリィやビッツは驚きの顔を見せている。
「素晴らしいですねユチェ、その若さでそこまで魔力を使いこなせる者は、多くないでしょう。あとは実戦での経験を積めば、貴方はもう立派な魔法使いを名乗れますよ」
ユチェはメアリーの褒め言葉に照れ笑いを見せていたが、こちらに振り返ると柔らかな表情で微笑んだ。
「でも、これだけじゃ駄目なんだよね、ヒロ、アイザック、カーズ、私を守ってくれる三人の為にも、私ももっと役に立ちたいの」
ユチェは再び前を振り返って、戦杖を地面に突き刺した。
両手を杖にかざして、深く深呼吸をし、目を閉じる。
"祝福よ 我が身に集い 力となれ"
先程より強く集中しているのだろう、魔力が光の球となってユチェの周りに浮かび出す。
何度かメアリーに見せて貰った、手本の時のようだ。
"響け 裁きの 雷鳴"
「ライトニング・ボルト!」
轟音と衝撃と共に、一筋の雷が地面に突き刺さった。
いつの間にかユチェは、新しい魔法を練習していたらしい。
自信満々にこちらを振り返って、前々から練習はしてたんだけどねと告げる。
「これなら、相手が早くても狙えるでしょ?」
そう言ってユチェはピースサインを見せつけてきた。




