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〜順応していく、農村での日々〜その14

 剣と戦杖を持ってアイザックの家まで戻って来た、アイザックは家の裏で皮の処理をしていたようだ。

 近づいて声をかける、アイザックはこちらに振り返り手を振ってきた。


 「アイザック、手伝おうか?」


 「助かるよ、毛を剃っていってくれないかい?」


 剣と戦杖を立て掛けて、アイザックからナイフを受け取る、毛刈り用の特殊な形をしているナイフだ。

 皮を作業台の上に敷いて、毛刈りの作業を始める、バリカンがあればもっと早く出来るだろうが、バリカンを作れる程の知識も技術もない。

 相変わらず、中途半端な現代知識が活躍する状況は、今のところ訪れていなかった。


 「その剣と杖はどうしたんだい?」


 「メアリーに貰ったんだ、みんな揃ったら詳しく話すよ」


 作業をしながら雑談をする、どうでも良いような話だ。

 牧場の姉妹は可愛いだとか、アイザックの姉妹も負けてないだとか、村の中では誰が好みだとか、最近食べた料理の話だとか、次の休みの予定だとかだ。


 「あはは、ヒロは年上好みなんだね」


 「俺からしたら20歳でも年下なんだよ、実年齢30歳超えてるんだから」


 「そうだったね、でも今のヒロは13歳だろ?だったら13歳らしく生きていくべきだよ」


 「13歳の頃なんて、そんな恋だの結婚だの意識した事殆どなかったって」


 「そんなものなのかな?」


 仕上がった皮をアイザックに渡す、アイザックは皮を確認してから、液体の入った壺の中に沈めた。

 この中に1日漬け込んで、翌日に干した後、また別の液体に1日漬け込むのだと説明してくれた。

 液体は、油と何種類かの薬品を混ぜたものらしいが、聞いても良く理解出来なかった。

 ようは皮の強度を上げる薬品と、加工しやすいように柔らかくする薬品のようだ。


 今日の所はこれ以上作業を進める事が出来ないので、片付けをしながら、再び雑談を交わす。

 異世界と言っても、雑談の内容なんて、そう変わらないものなのだなと思う。

 最近読んだ本の話や、村で聞いた噂話、手伝いで得た猟師特有の知識なんかを聞かせてくれた。

 そうこうしている内に、ユチェが姿を見せた、ひらひらと手を振りながら近づいて来る。


 「お待たせ、カーズはまだなんだ」


 「すぐ近くだから、迎えに行っても良いんだけどね」


 「まぁすぐに来るでしょ、待っときましょう」


 「そうだユチェ、これメアリーから、餞別だってさ」


 戦杖を渡すと、ユチェは凄く喜んで杖を調べ始めた。

 ポーズを取って、こちらに似合っているか、強そうかなど聞いてきている。

 アイザックは冒険者みたいだよと褒めているので、これで得意の棒術で敵を殴り殺せるなと笑顔をみせておいた。


 「うん!一人目はヒロだね!」


 満面の笑みを返された。


 それから暫くは、再び三人で雑談をくり広げた。

 ユチェが加わったので、話題は先程より女の子が好みそうなものに変わっていた。

 流行りの服の柄だとか、小物の作り方だとか、最近食べたお菓子の話を聞かされた。

 そろそろ夕食時だろうかと言う時間になって、ようやくカーズが現れた。

 肉の加工の準備をしてから、今までずっと家の手伝いをしていたらしい。


 「全員揃ったか、それじゃ夕食前に、一つ話を聞いてくれないか」


 そう切り出し、先程メアリーに聞いた話を、みんなに聞かせる事にした。

 剣を見せたり、ユチェの戦杖を指差したりしながら語っていく。

 ユチェは戦杖をギュッと握りしめて、アイザックとカーズはなるほどねと頷いている。

 みんなそれぞれ思う事があるのだろう、先達からの注意と激励を噛み締めているようだ。


 「と言うわけでカーズ、この剣を腰に差せるようにしたいんだ」


 「うーん、皮の端材でベルトでも作ってやるよ、次の休みには間に合わせるから、剣を借りといて良いか?」


 頼むと言いながら、カーズに剣を渡す。

 もうそろそろ良い時間じゃないだろうか、四人でアイザックの家に入っていく。

 アイザックの母親と姉に歓迎されて、テーブルに案内された。

 どうやら、丁度料理を運び始めていたようだ、エリックさんはすでにテーブルに着いていて、妹が食器を並べるのを手伝っている。


 「うむ、みな良く来たね、席に着きなさい、直に準備も終わるだろう」


 エリックさんに言われて席に着く、母親が大きな鍋をテーブルの上に置いて、何に入っているものを全員分の食器に注いでいく。

 使っているのは狩ってきた猪肉なのだろうが、ビーフシチューに良く似ている料理が出てきた。

 入っている野菜の類は違うが、まさにビーフシチューだ、ただし、匂いはカレーに近い香ばしさがする。

 最後に姉がテーブルの真ん中に、餅パンが積まれた浅い籠を置き、テーブルに着いた。


 「ではみな、いただくとしよう」


 食事の前にみんなで祈りを捧げて、食事が始まる。

 さて、果たしてどんな味がするのやら、まずは食べてみる事にする。

 匂いからカレーに近い味かと思っていたのだが、予想は外れた。

 辛いと言う意味では近いのかもしれないが、この辛さは中華料理、麻婆豆腐なんかに近い辛さだ。

 と、言うか、辛い、舌がピリピリする。

 辛い、が、美味い、中に入っている野菜が、まろやかな甘さを含んでいるようで、辛いスープと絶妙に合う。

 また、肉の油の甘さとも相性が良い、これは具材とスープを一緒に食べる料理なのだろう。


 餅パンも、いつも食べている餅パンと違って、後を引かない控えめな甘さがある。

 凄く薄く味付けされているが、この味は知っている、ルコアの実だ。

 潰して生地に練り込んだのだろうか。


 食事を続けながら、アイザックとユチェがエリックさんに、今日の出来事を話している。

 エリックさんは興味深そうに頷きながら、話に聞き入っていた。

 カーズは夕食を食べるのに必死なようなので、こちらは母親と姉妹と話をしておく。

 狩りの話も少ししたが、どちらかと言うと料理の感想や、近くで採取されている野草や、不思議な植物の話が中心になった。


 夕食も終わったので、エリックさんに招待して貰ったお礼をして、教会に帰る。

 広場まではユチェと話しながら歩く、戦杖を構えたりしながら、これでみんなを守ってあげるね、なんて言っている、ご機嫌そうでなによりだ。

 井戸の前でユチェと別れ、一人教会まで歩いて行く。

 こちらの世界にも随分慣れて来たと思う、まだまだ出来る事は少ないが、明日からもまた頑張っていこう。

 そう思いながら、教会の扉をあけた。

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