〜順応していく、農村での日々〜その11
「大丈夫かい?すまないね、もう少し早く片付けられてれば良かったんだけど」
「気にするな、1匹仕留めてくれたんだ、十分だよ」
「ヒロ、ちょっと大丈夫?」
「うわっ、手痛くやられたな」
みんなが駆けつけてくる、しかし、悠長に休んでいる訳にはいかない、他の森狼が寄ってくるかも知れないのだ。
「傷の手当てだけさせてくれ、出来るだけ早く動いた方が良い。ユチェ、水薬は持って来てるよな?」
「持ってきてはいるけど」
あまり効き目は無いよ、と言いながら、こちらに水薬の入った小さな瓜ボトルを渡してくる。
ユチェがメアリーに教わって作った回復薬だ、効き目は薄いが、作れるだけでも大したものだと思う。
「アイザック、カーズ、獲物の方と警戒を頼む」
そう言いながら回復薬を両腕に掛けていく。
ユチェも言っていた通り、これだけでは余り意味はない、やけどがちょっとマシになったかな程度だ。
そのまま目を瞑って意識を集中させる、まずは体内、胸の奥辺りに何かが灯ったような、暖かさを感じる。
"祝福よ 我が身に集い 力となれ"
結果から言えば自分にも魔法が使えた、どう言う要因かは全くわからないが、祝福と言う名の、空気中の謎エネルギー、つまりは魔力が影響しているのだろう。
魔法は神聖語と言う、古代語を使って唱える。
この言葉に体内にある魔力を込めて唱える事で、祝福を空気中から体内に取り込む事が出来るらしい。
暖かいものが自分を包んでいく感覚がする。
"癒せ 慈愛の 暖光"
体内に取り込まれた魔力と、元々体内にある魔力を練り合わせ、それを使い更に詠唱する。
明確なイメージ、体内にある魔力をコントロールして詠唱に込める、こうする事で魔力が魔法になり発動する。
フロイド神父程になれば、詠唱がなくともある程度の効果が出るらしいが、そこまでの練度になるには、相当な時間がかかるようだ。
「ヒールライト」
両腕がぼんやり光る、回復薬もそうだが、回復中は傷の治りが凄まじく早くなっているのか、ちょっと痒い、ムズムズする。
血は止まり、やけどは治った様だが、咬み傷はまだ目に見える程度に残っている。
まだまだ未熟なので、まぁこの程度のものだ。
「こんなもんだろ、後は獲物を運んでからにしよう」
立ち上がろうとしたが、体勢を崩して前に手をついてしまう、足がガクガクと震えている。
「ちょっとヒロ大丈夫?」
付き添ってくれていたユチェが、手を差し伸べてくれた。
その手を取ってなんとか立ち上げる、思った以上に応えていた様だ、膝に手をつきながら深呼吸する。
「大丈夫、大丈夫だよ」
心配そうにするユチェに応えつつ、辺りを見廻す。
アイザックとカーズは既に森狼の首を切って、猪と一緒に、近くに落ちていたのであろう木の棒に、両手両足を縛り付けていた。
流石に運び辛いと考えたのだろう、あれを使って2人で運ぶつもりなのだろう。
「傷はもう大丈夫なのかい?」
「やっぱ俺も一緒に戦っときゃ良かったんだって」
二人に近すぎながら、腕を見せる、とりあえず安全な場所に移動しなくてはならない。
「防御役は必要だよ、とりあえず移動しよう、カーズと俺で獲物を運ぶ、ユチェが先導して、アイザックは後ろを警戒してくれ」
二人で棒を担ぐ、この数になると二人で持っていても重い、カーズはよく一人で持って行こうとしたものだ。
「へへへ、大漁だな!行商人が来るのが待ち遠しいぜ」
「元気だなカーズ、俺はもう疲れたよ」
「なんでだよ、凄え冒険者っぽかっただろ?やっぱりこれだよこれ」
まぁ、充実感が無いと言えば嘘になる、戦いの高揚感、勝利感、獲物を仕留めた満足感。
色々と入り混じった嬉しさはある、もちろんその分の恐怖や疲労感も感じてはいるが。
たしかに今日の自分達は冒険者だったのかもしれない。
その後は特に問題もなく遺跡まで帰ってくる事が出来た、遺跡のキャンプは少し用意しておいたものの、今日は使いそうにない。
カーズと二人で休憩している間に、アイザックとユチェがパパッと片付けを済ませてくれた。
再び川に向かって歩き出す、まずは森を抜けなくては。
「ここまでくればもう安心だね、ヒロ、カーズ代わろうか?」
「俺はまだまだ平気だぞ!」
「お前ほんと元気だな、でも、こっちもまだ大丈夫だ、川までこのまま行けるよ」
「情けないなぁヒロは、そんなんじゃ冒険者になれないよ」
既に森は抜けた、ここまで来ればもう危険は無いだろう、森沿いを川へ向かう。
緊張の糸が解ける、一気に疲労感が出てくる、ああ、帰って来たのか。
短いし、大した事だってやっては居ないが、無事に冒険から返ってこられたんだな。
なるほど、これは悪くない、達成感と言うやつだろうか。
川に向かう途中の森沿いで、何人かの村人が油や野草の採取をしている。
返り血で濡れた服や、木に括られている獲物をみて、何事かと近づいてくる人達。
アイザックやユチェが説明をしているようだ、こちらは話をする余裕があまりないが、カーズは獲物を運びながら、子供相手に鼻を高くしている。
アイザックの姉妹も居たのか、アイザックが姉に少し怒られたりもしていた。
おいカーズ、俺が倒した森狼じゃない、子供相手に嘘をつくんじゃない。
言ってやりたかったが、そこまでの元気は無かった。
子供達が親に頼んで、川まで着いてくる事になった。
猪や森狼の解体が見たい、冒険譚を聴きたいみたいな理由だ。
アイザックとユチェが、子供に話をしながら歩いて行く。
その様子を見ながら、やっぱり冒険者も悪くないなんて思ってしまうのだった。




