〜順応していく、農村での日々〜その10
短めですが、二本目です
草むらをかき分けて森狼が飛びかかって来る、咄嗟に身を躱しナイフで斬りつけようとするが、ナイフは空を斬っただけで当たらない。
鋭い牙に緑色をした毛、頭には狼らしからぬ、2本の角がこちらを向いている、本に描いてあった通りの風貌だ。
「ヒロ!」
素早く身を返し、森狼は再びこちらに飛び掛かろうと走りだしたが、アイザックが槍で牽制してくれたお陰で、森狼は距離をとる事にしたようだ。
「ヒロ!アイザック!」
カーズか猪をその場に落とし、ナイフを抜き駆けつける、ユチェもナイフを構えてそれに続く。
と言っても、ユチェのナイフは採取用の小さい物だ、あれではむしろ危険かもしれない。
距離を取った森狼の元に、更にもう1匹森狼が姿を表す、2匹はこちらを唸りつけている。
「くそっ、もう1匹増えやがったか」
「どうするヒロ、逃してくれそうでも無いけど」
森狼は2匹、アイザックの腕なら、1匹相手ならば一人でも対応出来る筈だ。
アイザック自身も、危険ではあるが、そこまでの脅威ではないと言っていた。
問題はもう1匹の方だ、こっちで相手をするしかない。
だが、やれるのか、いや、1人で相手をする必要は無いのだ。
「アイザック、1匹頼む、ユチェ!魔法の準備を!カーズ!ユチェを守ってくれ、時間を稼ぐ!」
「わかった、無理はしないでくれよ」
森狼は作戦会議など待ってはくれない、指示を出してる間にもこちらに向かい走り出していた。
「俺も戦うって!」
「駄目だ!ユチェを守ってくれ!お前にしか出来ない!」
言いながら身を躱す、牙だけでなく、角にも気を付けなくてはならない。
何度も何度も飛びかかってくる、牙を避け、角をナイフでいなす。
斬りつけようとするも、動きが早すぎて当たらない、体力だけが徐々に奪われていく。
模擬戦ではない、実戦なのだ、肉体面もそうだが、精神面での疲労が重い。
「大丈夫かいヒロ!」
「問題ない、大丈夫だ」
アイザックに応えつつ、自分に言い聞かせる。
更に攻撃を弾き、避ける、躱しきれなかった角が何度か腕を掠って、血がじんわりと服に滲む。
"祝福よ"
ユチェの詠唱だ、しかし、発動までは粘る必要がある。
森狼の体力だって無限じゃない、明らかに初撃より遅くなってきている。
こちらが疲れていくなら、相手も同じなのだ、とは言え、ナイフを持つ腕にも疲労が貯まる、軽い筈のナイフが重く感じる。
"我が身に集い 力となれ"
ユチェの周りに光の粒が現れて、ユチェの体の中に入りこんでいく。
"穿て 猛火の 鉄槌"
ユチェの胸元に火の玉が現れる。
「ヒロ!早すぎて狙えないよ!」
「動きを止める!」
次に飛びかかって来た時に、ナイフで受けるしかない、そう考えたが、そう上手くいくものでもなかった。
火球に反応した森狼が、狙いをユチェに変えたのだ。
こちらではなく、その後ろ、ユチェに向かって走り出している。
走り出した森狼の向こうでは、アイザックが森狼の横腹に槍を突き刺しているのが見える。
カーズに任せるか、いや駄目だ、万が一がある、2匹で終わりとは限らない、カーズが森狼の相手をしている間に更にもう1匹現れるかも知れない、そうなったら、魔法を準備していて防御出来ないユチェには致命的だ。
アイザックが素早くトドメを刺し、こちらに振り返っているが、あそこからでは間に合わないだろう。
自分がなんとかするしかない。
森狼が横を過ぎるより早く、その前に飛び出す、ナイフを思いっきり振るが、姿勢を低くして躱される。
そのままこちらの喉元に向かって飛びかかってきた。
左手で防御をする、森狼の牙が左腕に食い込み、飛び掛かりの衝撃で倒れ込んでしまう。
みんながヒロと叫んでる声が聞こえる、だが今それに応えている余裕はない。
「これなら避けられないだろ!ユチェ!」
「ヒロも巻き込んじゃうよ!」
「撃て!」
ユチェは手を前に出し、魔法を放った。
「フレア・バースト!」
火球は真っ直ぐ飛んで森狼に当たり弾けた、森狼はギャウンと吠えてのたうち回っている、直撃したわけではないし、防御はしたもののこちらも魔法の被害がある、噛まれた左腕程ではないが、両腕ともやけどをしてしまった。
燃えながらのたうっている森狼よりはマシか、なんて少し間の抜けた事を考えつつ、森狼に近づく、ナイフを構えて、その頭に振り下ろした。




