表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/87

〜順応していく、農村での日々〜その9

 四人で血の痕を探しながら、猪を追跡する。

 余程混乱していたのか、木や岩にぶつかった痕も見つかった。

 森の深くに入りすぎると帰れなくなる心配もあったが、今回は再び血の痕を辿れば元の道に戻る事が出来る。

 それにユチェが先程から、木に矢印をつけている様だ、念には念をと言う事だろう。


 「近いんじゃないかな」


 アイザックが地面の血の痕を調べながら言った、特に先程までと変化はないように見えるが、猟師の仕事を手伝っているアイザックからすれば、変化があるのだろう。


 「やったな!これで一気に金が貯まるぜ!」


 「ちょっとカーズ、あんまり大声出さないで」


 ユチェの言う通り、まだそこまで深くないとは言え、この辺りまでくれば森狼だって出てくるかもしれない。

 現にアイザックは弓ではなく、既に槍に構え直して周りを警戒している、いきなり飛びかかられても対応しやすくしているのだろう。

 更に血の痕を辿り、森を進む。


 「居た」


 アイザックが指を指す方を見ると、少しひらけた場所に猪が倒れていた、まだ生きてはいる様だが、動ける程の体力はもう無いらしい。

 猪に近づいてナイフを構える、カエルの時も少し感じていたが、やはりこのサイズの哺乳類になると、トドメを刺すのに大分抵抗がある。

 いや、そんな事ではこの先やっていけないだろう、覚悟を決めて首にナイフを突き立てる。


 「うわっ!」


 突き立てた途端に猪の体が跳ねる、肉と骨を貫いた感触が手に残る。

 猪は一度跳ねたあと、暫くはピクピクと痙攣していたが、やがて動かなくなった。


 「さて、無事に見つけられたし、とりあえず川辺まで運びたいな、ここじゃ水もないし、解体もしにくい」


 アイザックの提案で、猪を川まで運ぶ事になる。

 アイザックは見張りをしなくてはならないし、ユチェに運ばせるのは酷な気がするので、カーズと二人で運ぼうかと提案したが、カーズがこの位なら一人で大丈夫だと言い、頭を下にして猪を担ぎ始めた。

 首から血が滴っていくのが見える。


 「カーズ、猪の血で服が凄い事になってるぞ」


 「洗えば一緒だろ?さっさと帰ろうぜ」


 当たり前の事かもしれないが、この三人の方が自分より遥かに、こう言う事への耐性があるみたいだ。

 ユチェもケロっとした顔をしている。


 「余った肉の加工は任せろよ、美味い干し肉を作ってやるよ」


 「皮はいつも通り、俺の家で処理をしておくよ」


 「この猪の皮で何か作る?全部売っちゃう?」


 自分達だけで大物を狩れたのだ、自然と浮き足立ってしまうのだろう、声が弾んでいる。

 実際カエルや薬草より、猪の皮の方がはるかに価値がある。

 と言うより、カエルや薬草が極端に安い、皮も毛もそこまで強度があるわけではないので、精々子供のおもちゃ程度の道具にしかならないし、肉だって基本的には美味しくはない。


 カーズが干し肉にして、みんなで行商人に売ったりもしたが、二束三文だった。

 薬草を煮詰めて、薬の原料を作って売った方がまだマシだ。

 唯一、こちらも薬の原料になるのだが、カエルのキモを煮詰めた物はまだマシな値段で買い取ってくれる。

 ただ、キモは個体によって随分大きさが変わる、始めて見たカエルのキモは、かなり大きい部類だったようだ。


 冒険者になるにはお金がいる、装備もそうだが、町へ行けばまず住む所を探さなくてはならないし、ある程度の蓄えがないと、依頼をこなせなかった場合に、すぐ立ち行かなくなってしまうからだ。

 これは依頼に失敗すると言う事だけではなく、そもそも受けられる様な依頼がない場合もあるからだ。

 そのお金を四人で協力して、稼いでいると言うわけだ。


 村にはひと月に一度、町から規模の大きな行商人が来る。

 ただの行商人と言うわけではなく、国からの依頼を受けている商会が、村で取れた農作物や、獣の素材など色々な物を、適正な価格で買い取りをしてくれるのだ。

 額は多少上下はするものの、買い叩かれたりする様な事はないし、町から持ってきてくれる物も、ぼったくり価格だと言うわけではないらしい。


 これは税金に関わってくる話なので、村長との取り引きに関しては、個人的な物以外は全て記録されるのだ。

 商人がこの村のこの月の農作物は、これだけありました、これだけのお金を払いましたと言う記録を持っていて。

 村長の方は次の月までに、これだけお金を貰いました、村人への配分はこんな感じになりました、余りはこれだけあるので、税金はこれだけお支払いします。

 と言った具合に纏める、村側と商人側の記録で、両方が税金などを誤魔化しずらくなる構図を作っているわけだ。


 癒着なんかが無ければだが、ちなみにこの取り引きはその場所に教会があれば、教会にも記録を保管しなくてはならない。

 何かがあった時の為の、第三者の目を教会が果たしていると言うわけだ。


 その行商人は、もちろん税金に関わってくる物以外も買取をしてくれる。

 ある程度の規模になると話は別だが、村人が作った小物や薬など、お小遣い稼ぎ程度のものは特に記録にも残らない。

 行商人から何か買う場合にも、特に記録はされない。

 そのお小遣い稼ぎを利用して、冒険者になるためのお金を稼いでいると言うわけだ。

 だから、今回みたいな意外な大物は、四人にとっては凄く嬉しいと言うわけだ。


 「あとどれくらい貯まれば町にいけるかな?」


 「猪を売ってもまだまだ足りないよ、それにユチェもカーズも、15になるまでは村に居なさいって言われてるだろ?」


 「面倒だよなぁ、あと2年もあるじゃん、早く町に行って冒険者になりたいぜ、なぁヒロ」


 「焦っても碌な事にならないさ、今のうちに金を稼ぎながら経験を積んで行こう」


 ユチェが木の矢印を見ながら、帰る方向を指差している、アイザックは地面の血を見ながら、帰る方向があっているか確認している。

 カーズが猪を担いで二人の後を歩いて、自分は最後尾で周りを警戒しながらついていく。

 この位の獲物が毎回取れてくれれば、楽にお金も貯まってくれるから嬉しいのだが。

 そうもいかないかな、次回も同じような展開になって欲しいものだ。


 四人で帰り道を歩いていると、後ろからザザザっと言う、草をかき分けながら何かが迫ってくる音が聞こえた、早い、聞こえるやいなやナイフを構えて叫ぶ。


 「アイザック!何か来てる!」


 アイザックが素早く槍を構えて横に立つ、その間にも音はどんどん近づいてくる。

 猪の血の痕を追われたのだろう、確認しなくても分かる、この音は、森狼だ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ