〜順応していく、農村での日々〜その8
本日二本目です
「やっぱり冒険者になったら、一攫千金を狙いたいよなぁ」
「えぇー、危ない依頼になるじゃん、それより、調査の進んでない遺跡とかの依頼が受けたいって」
「俺は冒険者で何かしたいって言うよりは、ギルドの評価を上げて軍に入るのが目的だからね、ヒロは?」
良くある話題の会話だ、冒険者になれば何がしたいか。
もうすでに10回は聞いた気がする。
三人とも、近い将来冒険者になりたいと常々語っている、もう既に親の許可も取り付けているらしい。
理由はそれぞれ違う、カーズは家が裕福ではないので、稼ぎの大きい冒険者になりたいらしい。
と言っても、冒険者の報酬はその依頼の難易度で大きく変わる、報酬の大きな依頼ほど危険もまた大きい。
ユチェは、色々なものを見て周りたい、知らない事をもっと知りたいと言っていた。
冒険者なんて危険の伴う職業なのに、良く親の許可が得られたものだと思ったが、かなり長い期間説得したそうだ。
アイザックは冒険者になりたいと言うか、軍に入りたい、正確に言えば騎士になりたいのだそうだ。
冒険者ギルドで結果を残して、そこから軍に入るのが近道らしい。
この世界の冒険者ギルドは国営の施設なのだ、町の市民権を持っていない者でも所属する事が出来て、そのギルド員証は身分証として使える。
ギルドには地域中から様々な依頼が入ってきて、危険度、必要な信用度、期間の長さなどで報酬が変わる。
依頼によっては、ギルドの定めた階級を指定している物や、人数を指定している物もあるようだ。
ギルドの階級はその力のみを示す物ではなく、ギルドからの信頼を示す物でもある。
ギルドへの依頼は多種多様に渡り、魔物の討伐から植物の採取まで、果ては商店の手伝いや町の掃除なんてのもあるらしい。
ようは大きな派遣会社みたいなものらしい。
仕事を紹介して、報酬から紹介料と税金を取る事が出来る、国営の派遣会社だ。
余所者やごろつきからも税金を取る事が出来るし、情報も簡単に手に入れる事が出来て、一石二鳥と言うわけだろう。
「やっぱり、自分がこの世界に来た理由を知りたい、それが無いなら、探したい」
「もう既に人生の冒険者ってわけだね」
いやアイザック、その表現は分かりそうで分からない。
基本的に自分が異世界人だと言う事は、この村の人にはわざわざ隠してはいない。
フロイド神父やメアリーにこの三人がいるのだから、今更な気がする。
とは言え、初対面で話せば、ただの危ない人でしかない。
隠しては無いが、言う機会もないといった感じだ。
冒険者談話に花を咲かせている内に遺跡に到着した。
もう何度も来ているので、簡易のキャンプはすでに作られている。
簡易カマドに鍋を乗せて、全員で瓜ボトルの水を半分鍋の中に入れて蓋をしておく。
とりあえずここまで準備しておいて、次は採取作業だ。
別れて行動する事も考えたが、危険が無いわけではないので、四人で行動する事にしている。
四人で薬草や獲物を探しながら歩いていく。
見つけたと報告すれば、採取作業はユチェとカーズがやってくれる。
その間こちらとアイザックは周りの警戒を怠らない。
カーズは面倒な事だとボヤいているが、何かあってからでは遅いのだ。
「おい、アイザック、カエルがいるぞ」
カーズがカエルを見つけたらしい、アイザックが弓を構えて集中する。
放たれた矢はカエルを射抜いた。
「相変わらず、良い腕だな」
「そうでもないよ」
カーズがカエルを取りに行っている間も、こちらは周りを警戒しておく。
狩りも採取も順調だ、昼時までに籠の半分は薬草で埋まっているし、カエルは4匹狩れた。
そろそろ一度キャンプに戻って昼食がてら休憩をすべきだと思う。
「アイザック、カーズ、ユチェ、一度戻ろう」
三人の同意を得てキャンプに戻り始める、昼食の後もう少し採取をしてから、村に帰ろうかと考えていると、少し離れた場所からガサッと言う、草をかき分けた音が聞こえてきた。
カエルのものではない、明らかにもっと大きな動物が草をかき分けた音だ。
アイザックと目が合う、アイザックにも聞こえたらしい。
カーズとユチェを小声で呼び止め、手で制止するよう伝える。
アイザックがナイフを抜き、こちらに渡してくる、アイザックは弓を構えて集中している。
再びガサッと言う音が聞こえてくる、近い、音がした方を警戒して注視する。
低木の向こう側、何かいる、ゆっくり音を立てずに木に近づく。
木の向こうに長い牙を持つ猪がいた。
アイザックと二人で安堵する。
アイザックの父の話によると、この猪は見た目こそ獰猛そうであるものの、実は臆病で人を襲うような事は滅多にない。
それどころか、内臓に価値は無いものの、肉は美味しく、牙や皮も丈夫で高く売れる。
猟師にとっては特に危険もない、嬉しい獲物なのだそうだ。
ここは是非狩っておきたい。
カーズとユチェにハンドサインでこちらに来てもらう様に伝える、二人がゆっくりこちらに近づいてくる。
猪を確認すると、驚きと嬉しさが入り混じった顔を見せてくる。
アイザックに矢を撃ってもらって、弱るまで血の痕を辿るのが正攻法だろうか。
アイザックの肩を叩き頷く、アイザックは弓を構えて集中する。
アイザックの放った矢は風を切り、猪の首に突き刺さる、猪はプギャという悲鳴を上げて逃げていった。
「流石だな、後は血の痕を辿っていこう」
「やったなアイザック!早くいこうぜ」
「凄いねアイザック、大物だよ」
みんなでアイザックを褒める、アイザックはフーと息を吐くと、嬉しそうに照れ笑いしていた。