〜順応していく、農村での日々〜その4
シスターの名前はメアリーと言うらしい、どうもこの世界、少なくともこの国の言語は、日本語よりも大分英語に近いようだ、アルファベットの組み合わせで、発音が少し変わったりする、文法も英語に近かったりするのだろうか。
アルファベット表を見ながら、自分の名前やフロイド神父、アイザック、カーズ、ユチェの名前を書いてみたりする。
シスターに見せて、間違っている所を直して貰い、何度か書き直したりしながら、アルファベットを覚えていく。
そうこうしている内に、いつの間にか、かなり時間が経っていたらしい、ユチェが籠を持って迎えに来てくれたのだ。
もう洗濯物を取りに行っても良い時間らしい、シスターに黒板とアルファベット表を返そうとすると、黒板だけ受け取られた。
アルファベット表は貰っておいても良いようだ、有り難く頂戴して、自分の部屋になおしておく。
正面口に置いておいた籠を取り、ユチェと教会をでた。
洗濯場で自分の壺の中から洗濯物を取っていく、水から上げては絞り、籠の中に入れていく。
生活排水ではあるのだから、ここで絞っても良いものかと考えたが、ユチェが同じ様にしていたので、それを真似した。
ここにも何か便利な道具があるのかと期待したが、特に何もなく、手作業になるみたいだ。
流石にあれもこれもと言うわけにはいかないらしい。
洗濯物を取り出す作業は、ユチェの方が早く終わっていて、こちらの作業を手伝ってくれた。
全て取り出し終えた後、壺の中の水はどうやって出せば良いのかと思っていると、ユチェが壺の底の方の側面に差し込んであった木の棒を抜いた。
なるほど、排水穴がちゃんと作られているみたいだ。
ちゃんと絞ったとは言え、水分を含んだ布は少し重い、籠を両手で抱えるように持つ、水の張ったバケツ程ではない。
二人で来た道を戻る、教会の前に着くと、ユチェがルコアの実をくれた、洗濯を手伝ったお礼のつもりなのだろう、お互い手を振りあって別れる。
洗濯物を干そうと裏庭に持ってきたのは良いものの、干す場所が無い、流石に地面に並べる訳にもいかない、まずは物干し台がいる。
物置の中にそれらしき物が入っていないかと探したが、特になさそうだ、代わりに長い木の棒とロープを引っ張り出す。
棒を組み合わせてロープで縛り、三脚をいくつか作っていく、出来たものを地面に並べて、その上に長めの棒を置く。
あまり上手く出来なかった、不恰好ではあるが、まぁ、干す事が出来れば問題はないだろう。
洗濯物も干し終えたので、ルコアの実を食べながら少し休憩する事にした。
畑も使えるようにしたのだ、ルコアを植えてみるのも良いかもしれない、そう言えば、種なんかの事を全く考えていなかった。
ユチェに何かの種を貰ったり出来ないだろうか、畑を見せて、種を蒔く仕草でもすれば解って貰えるかもしれない。
なんて考えていると、教会の裏口からアイザックが現れた、手には小さな袋を持っている。
袋をこちらに見せながら、畑を指差している、種を持ってきてくれたのだろうか。
中を見せて貰うと、何かの根っこの様な物が入っていた。
根っこだけ植えてちゃんと育つものなのか、いや、元世界にも球根から育てる花とかあった筈だ、これは球根ではなく、完全に根っこみたいだが、そう言う植物もあるのかも知れない。
この世界の場合、それが本当に植物なのかどうか怪しい所ではあるが、魚とか生えてきたりしないだろうな。
とは言え、他に植える物も無い、適当な間隔を空けつつ、根っこを地面に埋めていく、どちらが上とか無いのだろうか、とりあえず細い方を下にしておく。
水を撒こうかと思ったが、水が無い、汲みに行くかと考えたが、根っこを植えている間にアイザックが汲みに行ってくれていたらしい。
直接その水を撒くわけではなく、トイレの横にある手洗い用の水を撒いて、新しい水を入れ替えるようだ。
水を撒き終えたらアイザックは帰って行ってしまった、何かと面倒を見てくれる良い奴だ、ちゃんと恩返しをしよう。
次は何をしようかと考えながら、一先ず教会の中に戻る、勉強会はもう終わっているようで、メアリーが本棚の整理をしていた。
地図でももう一度見せて貰おうかと思いながらそちらに近くと、こちらに気付いたメアリーが薄い本を2冊渡してくれた。
中をめくってみると、どうやら絵本の様だ、流石にまだ文字は読めないが、神話であろう絵本が一冊、動物が沢山出てくる絵本が一冊。
単語を覚えていけば、読めるようになるだろう。
貰った本を部屋で読んで見ることにする、動物の方は、いくらか見た覚えのある動物がいた、モコモコのカエル、ロブスター、恐竜、ウサギ、ダチョウ。
当然だが、見た事のない動物もかなりの数描かれている、バッファローの様な角の生えた狼、かなり大きいのであろう蠍、鳥の様な羽の生えた魚、こいつは泳いでいるのか、飛んでいるのか。
やはり危険そうな動物もちらほら居るみたいだ、異世界らしく、冒険者ギルドなんかがあって、討伐依頼みたいな物もあるのだろうか。
動物絵本の最後には、この本を書いたのであろう著者らしきサインがあった。
ーフロイド・ラルフレンー
同名の可能性もあるが、この本はフロイド神父が書いたのだろうか、直筆ではなく、何かしらの方法で印刷したような質感だ。
神話の方は、どうやら神と邪神の戦いの様に見える、最後は相打ちになって、二人とも居なくなった様な描写がある、こちらの絵本の方が随分文字が多い。
読むのは苦労しそうだが、この教会目線の宗教観や、世界観なんかもちょっとはわかるかもしれない。
こちらの本の著者には聞き覚えがない、フロイド神父なら知っているかもしれないが、特に気にする事でもないか。
動物の絵本をパラパラとめくっていると、ドアをノックしている音が聞こえた。
ドアを開けるとメアリーがいた、手には食事を持っている、いつの間にか随分時間が経っていたようだ。
食事を受け取りお礼をする、いつかこの恩はきちんと返そうと思う。