〜順応していく、農村での日々〜その3
本日2本目です
結論から言うと、馬鹿な考えだった、何のためにトイレを汲み取り式にしているんだと言う話だ。
堆肥なんてあるに決まっている、アイザックとカーズが物置から、長い柄杓を持ち出し、トイレに向かうまで気が付かなかった。
トイレの裏側の地面には、木の板が張られていた、どうやら蓋になっているようで、そこから汲み取れるようになっているようだ。
しかし、当然気持ちの良いものではない、酷い匂いもするだろう、覚悟を決めて蓋を開ける。
匂いは全くしなかった、そう言えば、フロイド神父に案内された時も、匂いがしないなと思っていた、芳香剤かと思ったが、トイレにはそれらしき物がなかったのだ。
カーズが柄杓を中に入れ、中の物を掬い出す、掬い出された物は、想像とは全く違った。
なんだか、青緑色をしたゲル状の物で溢れていた、カーズがそれを、少し離れた砂地の上に敷き詰めていく。
そのゲルは、なんだか薄く発光している様な気がする、大きく動いたりはしないが、ほんの少し蠢いている様に見える、生物なのだろうか。
太陽の光に晒されたゲルは、シューと言う音と少しの煙を上げ、見る見る内に深い茶色に変色していった。
ある程度汲み取れたのか、カーズは汲み取り場の中を少し確認して蓋をした。
もしかして、このゲル状の生物が匂いや排泄物を分解でもしているのだろうか、そうすると、かなり酸性の強い生物だと思うのだが、危険ではないのだろうか。
茶色に変色したゲルはもうピクリとも動かなかった、見た目はなんだか色の濃い土の様になっている。
凄く興味があるが、触るのはなんだか気が引ける。
なんて考えていると、アイザックが手掴みで、それをバケツの中に入れ始めた。
どうやらこの二人は全く抵抗が無いらしい、こちらも覚悟を決めて触ってみる。
凄くサラサラになっている、やはり、匂いは一切しないようだ。
アイザックはバケツがいっぱいになると、それを畑に蒔きに行った。
人任せにする訳にはいかないので、手伝う事にする。
もしかしなくても、これが肥料になるのだろう、そうだとしたら、この生物は本当に凄い、まず、トイレの悪臭を消す効果があり、排泄物を分解する効果があり、外に出すと特別な事を何もしなくても、ほんの短い時間で肥料に変わってしまう。
こんなもの、現代社会であっても使いたいと思う人は、世界に大勢いるのではないだろうか。
一通り運び終わったので、畑の土と肥料を混ぜ合わせる。
畑には山の部分と谷の部分があったような気がするので、何の為に作るのかは知らないが、ひとまず真似しておく。
アイザックとカーズが畑を確認している、どうやらこれで大丈夫な様だ。
三人で喜びを分かち合っていると、教会の裏口が開かれて、フロイド神父が出てきた、手には籠を持っている。
アイザックとカーズが太陽を見て、何やら話した後、こちらに手を振り帰って行った。
フロイド神父が籠をこちらに渡してきた、籠には何かを挟んだ餅パンがいくつかと、赤い瓜ボトルが入っていた。
どうやらいつの間にか昼食の時間になっていた様だ、アイザックとカーズは昼食を摂りに帰ったのか。
ありがたく頂戴しておく。
餅パンに挟まれていたのは、何かを揚げたものらしかった、葉野菜の様な物も挟まれていて、ソースがかけられている。
見た目はハンバーガーみたいだ、食べてみることにする。
これは、昨日食べたロブスターなのではないだろうか、じんわり揚がったそれは、昨日の様な泥くささは感じられず、葉野菜のシャキシャキ感と甘辛いソースに凄くマッチしている。
瓜ボトルの中には水が入っていた、水筒のかわりと言うわけか。
この世界は料理が口にあって助かった、もしかしたら、全く味覚の違う世界だった可能性もあるのだ。
入っていたパンを平らげて、空になった籠を持ち、教会の中に戻る。
教会の中では、シスターと小さな子供達が集まり何かをしていた。
みんな紙を見ながら、何かをしている、興味があったので近づいてみると、こちらに気付いたシスターが、1枚の紙を渡して来てくれた。
ずらっと等間隔にあけて、文字が書いてあった、これはまさか、アルファベット表なのだろうか。
シスターが文字を指差しながら、順番に発音してくれている。
やはりこれはアルファベット表らしい。
と言うことは、この子達は今文字の勉強中と言うわけか、もしかすると、この世界の習字率はかなり高いのではないだろうか。
そう言えば、村の広場には掲示板もあった筈だ、ある程度みんなが文字を読めないと、掲示板文化などは生まれないだろう。
アルファベット表を貰えたお陰で、ひとまず文字の勉強は出来る。
迷惑をかけてしまうだろうが、わからない所はフロイド神父かシスターに聞こう。
ひとまず先に、フロイド神父に籠を返しに行く、フロイド神父の部屋をノックして待つ。
すぐに出てきてくれたので、籠を渡してお礼を伝える。
フロイド神父はウンウンと頷くと、籠を持って部屋の中に戻って行った。
シスターの元に戻り、もう一度始めから文字の発音を聞いていく、小さな子供に混じって勉強会だ。
ア、ブ、ク、ド、エ、フ、グ、ハ...
ア、ブ、ク、ド、エ、フ、グ、ハ...
何度も空中に書きながら頭の中で発音していく、それを見ていたシスターが、小さな黒板の様な物が貼られた木の板と、白い小さな石をくれた。
今度はそれを使い、ひたすら書いては消してを繰り返す。
暫く続けていると、シスターが黒板に文字を書いて、自分を指差し始めた。
どうやらこれは、シスターの名前らしい、アルファベット表と黒板を交互に見ながら考える。
「む...ま...マリー」
シスターは首を横に振って答えた
「メアリー」