〜順応していく、農村での日々〜その2
ユチェも洗濯に来たのだろう、手に持った小さめの籠には、洗濯物であろう布が盛られていた。
軽く手を振ると手を振り返して来て、フロイド神父に挨拶をしている。
挨拶が終わったのか、歩き出すフロイド神父の後を着いて行こうとすると、ユチェに腕を引かれた。
壺を指差しながら、何かを言っている、どうやら手伝って欲しいと言われている気がする。
フロイド神父に助けを求めようとしたが、ホッホッホと笑いながら頷いて、歩いて行ってしまった。
仕方がないので、水運びを手伝う事にする、再びバケツを取り、井戸と壺の往復作業を始める。
ユチェが何やら言っているのが聞こえる、応援してくれているのか、遅い遅いと言われているのかは分からないが、その体力を分けて欲しい。
とは言え、やはり身体が若いせいか、疲れはするものの痛くなったりなんかはしない、改めて若さと言うものは素晴らしいなと思わせてくれる。
ユチェが瓜ボトルから洗剤を注いでいる、瓜ボトルはこちらでは割と一般的なのだろうか、ユチェの瓜ボトルは青い色をしていた、結構カラフルな実を付ける植物の様だ。
後2、3往復だろう、ユチェが布を入れ始めているのを背に、続けて水を運ぶ。
こうしていると、現代文明の素晴らしさが良くわかる、洗濯なんてボタン一つで終わるのだ、しかしそれでも、元世界の同じ時代、おそらくは中世くらいだと思うのだが、その時代と比べると、こちらの方が遥かに進んでいる気がする。
街並みはゲームや漫画なんかで良くある、中世ヨーロッパに近い雰囲気があるが、魔法や変わった動物や植物が多いせいか、元世界とは違った独自の便利道具がある。
中世ヨーロッパは思ったより、色々酷いみたいな話を聞いた事がある、衛生概念などは特に酷かったとかなんとか。
ユチェを見ると、服や髪、肌なんかも小綺麗にしているし、村の中も特に汚いような感じはしなかった。
ユチェの方の洗濯作業も終わった、軽く伸びをして、置いてあった籠を拾う。
お礼を言っているのだろう、ユチェが拍手しながら何かを言っている。
お互い洗濯以外の用事はないだろうし、一緒に帰る事にした。
牧場の横を歩いていると、柵のすぐ側まで恐竜が来ていた、近くで見るとかなり大きい、2メートルちょっとはあるだろう、ちょっと触ってみたいが、触っても大丈夫なのだろうか、噛まれでもしたら、痛いで済むとは思えない。
なんて思っていたが、ユチェは普通に触り始めた、実は温厚な性格なのかもしれない、少し怖いが触ってみる。
皮膚は硬くザラザラしている、こうして触ると、やっぱりトカゲのご先祖さまらしい手触りだ、サイズ感はまったく違うが。
教会の前まで帰ってきた、シスターが正面口前をホウキで掃いているのが見える、ユチェに手を振り教会へ近づく。
シスターの手伝いをしよう、正面口に置いていたホウキを手に取り、籠を置いておく。
教会入り口の掃き掃除をしていると、村人が訪ねて来た、シスターが中へ案内していく。
暫く掃き掃除をしていたが、教会を訪ねて来る村人はそこそこの人数いるみたいだが、ミサが開かれている様な雰囲気ではない。
椅子に座って祈りを捧げている様な人もいるが、大体の人は神父やシスターと話をして帰ってゆく、気になったのは、2人が時々村人に対して魔法を使っている事だ。
転んでしまったのか、足を怪我している子や、明らかに具合の悪そうな人に対して、魔法で治療している様に見える。
この世界の教会は、もしかすると病院に近い施設も兼ねているのかもしれない、この村だけと言う可能性もあるが。
さて、掃き掃除もこんなもので良いだろう、ホウキを裏庭の物置に片付けておく。
まだ洗濯物を取りに行くまでは、随分と時間がありそうだが、他に手伝えそうな事が余り思い浮かばない。
この使っていない畑を使って、食べられるものでも育ててみようか。
物置からクワを出して畑に向かう、暫く使っていなかった畑は雑草なんかも生えていて、土質は硬そうだ。
クワを畑に振り下ろす、少しは土に入ったようだが、凄まじく硬い、これは苦労しそうだ。
ひたすらクワを畑に振り下ろし続ける、魔法が使えれば、土魔法か何かで耕す事も出来るのだろうか。
簡単に使えるなら、クワなんて道具は作られていないか。
耕し続けていると、教会の裏口が開く音がした、フロイド神父かシスターが来たのかと思い振り返ると、アイザックとカーズがこちらに向かい手を上げていた。
クワを持って息を切らしている姿を見て、察してくれたらしく、畑の様子を見てくれている。
二人で土に木の棒を刺したり、手を入れたりしながら何かを話している。
一通り調べた後、アイザックはこちらを振り返ると、畑を指差し、両手の間を広げたり狭めたりしてきた。
サイズが足りないと言っているのだろうか、いや違うな、深さが足りないと言っているのだろう。
またクワを振り上げては下ろす作業を繰り返す、アイザックとカーズは何処から持って来たのか、先の尖った木の棒を何度も地面に突き刺している。
お陰で先程よりは楽に、クワが深く刺さる様になった、自分の仕事もあるだろうに、良い奴等だ。
三人で暫くの間ザクザクしていると、アイザックが手を止めて再び土を調べ始めた。
こちらに向かい頷いて作業を止める、もう十分だと言っているのだろう。
随分時間は掛かったが、畑を耕す作業は終わった、次はどうするんだったか。
肥料と土を混ぜれば良いんだったか、そうだ、肥料だ。
知識チートの基本なのに、すっかり抜け落ちていた、堆肥や腐葉土ならなんとなくだが、作り方がわかる。
畑を指差しながら、何やら話をしている二人を後目に、ちょっとニヤニヤしてしまっていた。