判定機
「此方でお待ちください。
あ、その机の上にあるボタンは押さないでくださいね」
そう言い残して私を案内した受付嬢は部屋から出て行く。
椅子に腰掛けて面接官を待つ私の前にあるボタン。
押すなと言われ押すなと書かれているボタン。
気になる。
この窓も無くボタンが置かれている机と私が腰かけている椅子、それに面接官が座ると思われる机の反対側にある椅子以外何も無い部屋に案内されて10分程過ぎた。
まだ面接官は来ないのか?
何も無く殺風景な部屋にいると否応無くボタンに目が行く。
押すなと言われると押してみたくなる。
30分過ぎた。
まだ面接官は現れない。
もう面接官なんてどうでも良い。
この目の前にあるボタンを押してみたいという気持ちを押さえるのに苦労する。
50分過ぎた、面接官はまだ来ない。
ボタンに伸びる右手を左手で押さえる。
ああ…………押しては駄目だと思いながらボタンをポチと押す。
押した途端床が抜け、私は椅子と共にシュレッダーで寸断された紙の中に落ちた。
何が起きたのか分からず呆然と上を見上げた私の目に、上から見下ろす男の姿が映る。
男は私に声を掛けてきた。
「押すなと言われたボタンを1時間も我慢出来ずに押すような方は、我が社には必要ありません。
お帰りください」
開いていた床がパタンと音をたてて閉じると同時に、シュレッダーで刻まれた紙に埋まっている私の目の前の壁の一部が開き、引きずり出され身体に着いていた刻まれた紙を叩き落とされる。
私を引きずり出し紙を叩き落としてくれた男は、まだ呆然としている私を面接のため訪れていた会社の敷地から外に押し出すのだった。