1歩
明は思考が停止していた。
天才と言われ続けた彼らしくもなく。
全く脳が機能していない。
明は焦っていた。
島根とタイの2チームへの返事まで時間が無くなるだけの毎日に…
時間が経てばオファーも来ると思っていた。
しかし、次の年が始まろうとしているクリスマスイブの日に明の携帯電話が突然鳴った。
相手はブライアンだった。
ブライアン
「調子はどうだ?この前の話は検討してくれたか?俺の方からは申し訳ないが、今以上にのオファーはない。」
明
「…。」
ブライアン
「仕方がない。返事は明日までだ。選択肢は今のところ三つだ。タイか島根かそれ以外だ。今日一日しっかり考えてくれ。」
明
「わかった。明日返事する。」
思考停止している脳でも、元々地頭の良い明は理解できた。
サッカーを続けるなら選択肢が二つしかないことを…。
三つ目の選択肢を理解した明は開き直った。
明
「俺は、天才だ。必ず復活できる。」
明は決意した。
翌日午前十一時、明はブライアンに電話した。
明
「ブライアン俺だよ。決めたよ。俺は島根に行く。」
ブライアンは少し驚いた様子だった。
おそらく、行くとしてもそこそこ待遇の良いタイに行くと予想していたのだろう。
ブライアン
「島根でいいのか?プロサッカー選手ではないぞ?」
明
「ヨーロッパで活躍するには、タイでは遠回りだろう?俺は今から最短ルートで駆け上がる。すぐにでもトップリーグが必要とする活躍をしてやる!」
ブライアン
「わかった。では、今から島根には連絡する。島根に行く準備をしておいてくれ。」
明
「わかった。」
こうして、明の新天地は決定した。
新天地は、中国社会人リーグ一部島根オーシャンFCだ。
島根オーシャンFCは、チーム設立六年目、島根県浜田市を活動拠点とする。NPO法人が母体となる普通の社会人チームだ。
小学生や中学生の年代チームを持ち、どちらも全国大会出場経験のあるチームだが、社会人としての認識は世間的に薄い。
そんな、島根オーシャンFCはこの度、五年後のトップリーグ入りを目指すことを発表。
日本トップリーグまでの道のりは、長く険しい。
島根オーシャンが所属する、中国リーグの次に全国社会人サッカーリーグがある。その次は、日本セミトップリーグがある。その上が、トップリーグ二部さらに一部となっている。
二部に五年で上がるには、一度昇格を逃せば後が無くなる。また、チームの株式会社化や専用施設の準備など様々な課題が与えられる。
その為、まずチームは目玉として二人の男を連れてきた。
その内の一人が寺田明だった。
寺田には、セミプロ契約として高待遇ではないが、アパートの一室と、生活できるかどうかギリギリの給与を条件として与えられた。また、チームスポンサー企業でのアルバイトも紹介された。
天才的な才能と、若くチームを長期的に導いてくれる選手として島根は目をつけたのだ。
明からすると異例の事態ではあるが、すぐに契約書にサインをした。
島根オーシャンFC 寺田明選手の誕生である。
二十日後の一月十五日にある。
新入団選手記者会見が島根での初仕事となる。