パワーレベリング
タイトル変えました。ゆるい系っぽくなかったので。
まずはとにかく私とアルーナのレベリングをすることになり、私達はスタルの街からひたすら移動していた。
────巨大蜥蜴に乗って。
「なんていうか、なんでもありって感じですね…」
「うふふ。実は私も天音さんも結構名が売れてるプレイヤーなのですよ」
「部活中いっつもダイブしてましたしね」
「家でもほとんど…ね」
天音先輩も奥村先輩も成績上位者のはずなのだが…やはり頭の構造が違うのだろうか?
「それに、ルキさんとアルーナさんも、すぐに有名になると思いますよ?」
「……そんなにお二人は有名なので?」
「天音さんも私もずっとソロで、かなり有名だったのですよ。私は時にpt組んでましたけど、天音さんはほんとにずっとソロでした。そんな私達が知り合って二人でギルドを作った時はアリネバ内ではちょっとした騒ぎになったくらいだったのですよ?そんなギルドに新規が二人も入るのですから…」
「間違いなくリアル関係だって推測されますよね、それ…」
「それはもう、ギルド名がゲーム部ですから」
「ダメだ。身バレ不可避だこれ」
誰か天音にネットリテラシーというものを教えてやってくれ。
「まあまあ、実はギルドメンバーが少ないのも天音さんの都合なんですよ。なので、本当はお二人が初めてくださってとても嬉しく思っていりはずですよ。もちろん、私も」
天音のお父さんの精一杯の努力なのだろうか。
なんというか…涙ぐましいものを感じる。私が勝手に変な解釈をしているだけかもしれないが。
「それで、この謎の蜥蜴はなんですか?テイムとか出来るんですか?」
「いえ。この子の扱いは装飾品ですね。この子を呼び出すネックレスを、装飾品枠三つ使って装備のです。使う枠数は、呼び出すパートナーに因りますね」
装飾品扱い。
この巨大蜥蜴で三つの枠って、相当ぶっ壊れてるんじゃないだろうか。
そもそも装飾品がそんな強いとも思えないし、装飾品の枠も七つあるので、なんならこの巨大蜥蜴レベルのパートナーを他にもう一匹呼び出せるということだ。
──怪獣大戦争なのか?このゲームは。
しかし、この時の私はまだ知らなかった。
こんな巨大蜥蜴を呼び出せるだけで三つも枠を使うのは論外とまで言われるほどの、頭のおかしな装飾品の数々を。
そして、ひたすらレア装飾品を求めてダンジョン攻略やユニークボスの探索をするハメになることを。
⏎
スタルの街を経ってから一時間弱。
私達は、アズラムの街にたどり着いていた。
と言っても、一瞬街中に入っただけだ。
これでこの街の転移の門が使えるようになるので、今度から部活の時はここに集合となる。
しかし、パッと見だったが歩いてるプレイヤー達が当然ならがスタルの街とはまるで違った。
それでも、まだまだ序盤の方の街らしい。
そして何故この街に来たかというと、ちょうどこの辺りのモンスターなら範囲攻撃持ちがいないということで、ここでパワーレベリングをすることになったのだ。
「今日の部活はあと一時間くらいね!それまでにアルーナとルキが今日ストーリーで躓かなくなるくらいまではやるわよ!」
モンスターを倒した際に手に入る経験値とお金は貢献度で決まるらしく、今回のレベリングはラファエルに護ってもらいつつ天音がスタンさせた敵を私達でひたすら殴るという方法だった。
殴ると言っても、その方法は『エレメントアーツ』という固定ダメージを与える道具を使うというものだった。
当然、私達のステータスではダメージは入らない。装備もレベル条件があるものがほとんどなので、譲り受けても意味が無いのだ。
素手で熊型のモンスターと殴り合う天音を見守りながら、機会を伺う。
すると、天音の蹴りが相手の顎へとヒットした。
「今よ!!」
「「エレメントアーツ!」」
熊の挙動が定まっていない間に、可能な限りエレメントアーツを撃ち込む。
これだけ言うと一見ただの作業の様に思えるが、初めてのフルダイブ型VRゲームをする私は凄い緊張を感じていたし、興奮もしていた。
それは隣でアルーナを演じている玲奈も同じようで、確かに私達はこの熊と闘っていたのだった。
それから一時間、他にも狼や蛇といったモンスターとかとも闘いながら、私達のパワーレベリングは終わりを迎えた。
一時間プレイしても、敵との戦闘に慣れることはなかった。
これだけリアルなVRゲームの弊害と言うべきか。その辺も本来はスタルの街周辺の小さなモンスターから初めて慣らしていくのだろう。
私は、やっぱり家に帰ったらスタルの街からちゃんと進めようと決意したのだった。
⏎
フルダイブ型VRゲームからログアウトした時の感想は、まさに寝起きの悪い朝といった感じだった。
「家に帰る気起きませんね…これ…」
「な、慣れ…だよ」
「そう言えば先輩達はいつもこれで平然と帰ってたんですもんね…あー、だる」
私が半グロッキー状態に陥っている横で、玲奈はいつも通りはしゃいでいた。
「VRすごー!すごかった!!すごい!」
語彙力少な。てかうるせえ。
「よく平気でいられるな、お前」
「慣れだよー、慣れ!」
先程の奥村先輩を真似する玲奈。うざい。
こんな時に話しかけた私が馬鹿だった。
自分の愚かな行為を反省していると、最後に天音先輩がログアウトして帰ってきた。
「さあみんな!早く家に帰ってSEVEN WORLDよ!」
「おー!理子ー!帰ろー!」
「へいへーい」
「みんな、また、ね…」
なんとなく、今日はいつもよりみんながいい顔をしている気がした。
実際、今までは先輩達と同じ部屋にいながら違うゲームをしていたので、私も少し壁を感じていた。でも、今はその壁を感じない。
奥村先輩の意外な一面や天音先輩の相変わらずのブレなさを知れたし、玲奈に対してでさえ新たな一面を知ることが出来た。
私はソロゲーを中心にプレイしていたのだが、こういうゲームも悪くない。
「りーこ!」
突然後ろから抱きついてくる玲奈。
「なに?」
「えへへ。久しぶりじゃない?一緒にゲームするの」
「あー、小学校以来か?」
小学生の頃は、それこそ毎日のように玲奈とゲームをしていた。
「理子、突然全然一緒にゲームしてくれなくなっちゃったんだもん」
「だってなあ…PSが違いすぎて一緒にやっても楽しくなかったじゃんか」
そう。私はアクション系のゲームが苦手なのだ。
別に運動神経悪いとかいう訳ではないが、どうにも指先が上手く回らない。
それに対して、玲奈は上手すぎた。もし私が普通くらいの実力があっても、一緒にやるのはやめてただろう。
「VRはどう?」
「さあねー。でも、スキルツリーを詰めていくのは絶対好き」
「だと思った!」
それだけ確認すると、玲奈は満足そうに頷いた。
嬉しそうな玲奈を見てなんだか私まで嬉しくなってしまったのは、私の本心なのだろうか?
⏎
家に帰ると、本当に天音先輩からゲーム機が届いていた。
お母さんには何故かお礼を言われたし、お父さんはどこか物悲しげな顔をしていた。そして、どこから嗅ぎつけたのか兄貴からは妬みのメッセージが届いていた。
(そういえば兄貴はバイト頑張って買ったんだっけ?ちょっとSEVEN WORLDやってるのか聞いてみるか)
私には四つ上の兄がいて、今は一人暮らしをしながら大学に通っている。
家を出るまではよくオンラインゲームで遊んでいたので、もしかしたらSEVEN WORLDもプレイしているかもしれない。
早速兄貴にメッセージを飛ばしておいて、何故かいつもより豪華な夕飯を食べることにした。
夕飯を食べ終わった時には、既に兄貴から返信が来ていた。
それによると兄貴もSEVEN WORLDをやっていたが、アリネバではなくルーブという世界だった。
世界が違うと滅多に会えないので、そういうイベントが来たら遊ぼうということで話は終わった。
しかし、それだけではなく有益な情報も得られた。
それは、サイキッカーについてだ。
このゲームでは情報がとても重要で、最上位勢は特に情報は同じ世界の人か、最上位勢の間で同盟を結んでいる世界の人にしか回さないように気をつけているらしい。
そのためネットでは誰もが知っている・知られているような情報しか載っておらず、兄貴は特別にということで最近入手したサイキッカーに関する情報を教えてくれた。
その話によると、今まで発見されていなかったが絶対あるだろうと言われていたサイコキネシスの取得条件が発見されたらしい。
第一ジョブという枠で見ればかなり特殊なスキルで、しかも第一ジョブらしく取得条件も簡単。そして使い道も色々面白そうだと、今最上位勢の間で少しブームになっているらしい。
やっぱりみんな好きじゃないか、超能力。
というか、さらっとその情報を持てる程やり込んでる兄貴は、ちゃんと大学に行っているのだろうか…?
ちなみに、アリネバ笑なら絶対知らないと言われた。
そんなに酷いのか…この世界…
しかし、私的には兄貴という情報網が得られたので満足だ。兄貴は私に激甘なので、お願いすればきっと色々教えてくれるだろう。それに、先輩達もいる。
あと、SNSでも情報網を確保しよう。ソロゲーで情報のやりとりをしていた人達は漏れなくコンプ厨や効率厨やらといった廃プレイヤー達なので、やっている人がいればきっとやり込んでいるはずだ。
まあ、私もそのコンプ厨の一人なのだが。
SNSに書き込みだけ済ませると、玲奈との約束の時間が迫っていたので家からの初ダイブをキメるのだった。
玲奈「ふははははー!今日からここは我々ゲーム部のものだー!」
静「え、っと…その…四人で、一人ずつ、その…」
天音「四コマみたいにやっていくわよ!」
理子「天音先輩がまとも枠なの!?」