6 羨ましいよ
お久しぶり、まさかこんなに忙しくなるとは……今後はもう少しこまめに書きます(>_<) 目の前のことしか見えていないのに、それに全力でぶつかるしかなかった高校時代が描けたらなぁ、と思ってます
直前まではギャーギャー文句を言っていても、本番になれば誰よりも頑張る。
それが、桜井優美という女なのだ。
「いらっしゃい、早くメニュー言いなさい、このブタ野郎!!」
バシンッ!!
角田さんから受けた演技指導通りに優美は客に振る舞う。この台詞もムチでテーブルを叩く動作も全て角田さんの命令だ。
(でも、こんなことしたら客来なくなるんじゃ……)
そんな予想は当たるはずがなく、優美は忙しい時間を過ごしていた。
今日は文化祭二日あるうちの初日。といっても一日目は学校の生徒のみの参加。演劇や吹奏楽などの類いは明日の一般客が来る日にしかないので、この日は予行練習みたいなものだ。
さて、2‐6のコスプレ喫茶なのだが、全校生徒の人気者(いい意味でも悪い意味でも)の優美が女王様の格好をしているということもあってか、予想以上に繁盛していた。
当の本人は自分にばかり指名が来るから疲れてフラフラ状態のようだが
「それにしても……」
注文されたメニューを運びながら、優美はふと思う。
「……なんで、私ばっかり指名されるんだろ?」
彼女は自分がこの文化祭の最大の目玉であることを知らなかった。
・・・・・・
「優美〜!早く早く〜!!」
「ちょっと待ってよ〜!!」
バリバリ働いて膝ガクガクの優美をよそに、合計指名2人のくまさん(三咲)は物凄いスピードで廊下を走る。
二人が目指すは体育館。
近付くに連れて、優美自身心が高鳴ってくるのがわかる。疲れ切った足も自然と軽く感じる。
ガランッ
体育館の扉を開けると、中は真っ暗で人もステージの周りに数人しかいない。一瞬優美は、あっ、遅かったか、と思った。
しかしその時、
バンッ!
突然照明がつき、その光はステージを照らし出した。「それじゃあ演奏はじめまーす!」
激しいドラム音と友に、力強い女性の声が体育館中に響き渡る。
ステージには栞がいた。
今日は体育館での催しはなく、代わりに明日の一般公開にむけてのリハーサルが行われていた。優美たちはクラスの出し物を一旦抜けて、このリハーサルを覗きにきたのだ。
「「…………」」
演奏の凄さに言葉を失う二人。
そんな状況で優美はかろうじてつぶやくのだ。
「……ホント羨ましい」
優美は彼女のすべてが羨ましかった。あんな理想的プロポーションを持っていて、可愛くて、胸もあって。そんな彼女が、こんなに凄い歌を、あんなに楽しそうに歌うのだ。
「……ズルイよ、栞」
優美の目には、彼女の胸元の青い水晶が輝いて見えた。
・・・・・・・
「……だーれもいないのかぁ」
文化祭なんて優美には関係のないもの。いつものように部活の自主練をしているのだが、練習場の特別教室には誰もいない。空手部では休みの日に練習する人も何人かいるのだが、今日は流石にいないようだ。(優美のような超人はいないのだ)
「……蓮もいないし、あいつ明日覚悟してろ!!」
蓮の死が決定した。
・・・・・・
「さ〜て、そろそろ出なきゃね〜」
完全下校時刻が迫り、優美は少し急ぎ足で特別教室を出る。窓の向こうの太陽はもうほとんど姿を見せておらず、空には丸い月も見え始めていた。
ちょうど階段の踊り場に差し掛かったときだった。
優美は人影を見つけた。しゃがみ込んで何かを探している様子。何かを落としたのだろうか?
「あの〜何を探しているんですか」
優美が声をかけるとその人は振り向いた。優美は彼女を知っていた。
栞だ。でも、彼女は優美の知ってる栞ではなかった。
目から沢山の涙が溢れていて、顔がぐじゃぐじゃ。いつものようなステキな笑顔さえみることができない。
「優美……」
栞は泣きながら優美にしがみついた。優美は突然のことに後ろに倒れ込むが、彼女は優美を掴んで離れない。
優美が心配して声をかけようとしたとき、優美は気付いた。
彼女の胸元にあった、青いペンダントが無くなっていることを。