5 今日の2‐6
「……ということで、我が2‐6の文化祭の出し物は『コスプレ喫茶』で決定しました!!」
うわー!!キャー!!と大歓声が上がる。それがあまりにもうるさいものだから、気持ち良くお昼寝をしていた優美も思わず目が覚めてしまった。
「文化祭ねぇ……みんなそんなに楽しみなのかなぁ?」
もうすぐ5月も終盤。6月には文化祭が行われる。現在、2‐6では文化祭の話し合いで大変盛り上がっている。
文化祭は三年生はクラス単位で強制的に出し物を出さないといけないが、一二年は自由参加である。
例年なら一二年がクラスで参加することは滅多にないのだが、そこは仲のよい2‐6。行事事には首を突っ込みたがるのだ。
クラスの大半はかなりノリノリなのだが、約一名、完全体育会系少女、桜井優美はあまり乗り気ではないらしい。今日も窓の外を見ながらこう思う。
(練習時間減るじゃん……)
と、優美はこんな具合で、文化祭の話し合いをするホームルームの時間はいつも昼寝をしたりぼーっとしたりと一人退屈していたのだ。
しかし、話し合いを聞いていないと、ろくなことは起こらない。
「……ってことで桜井さん!!桜井さんもオッケーだよね!?」
突然名前を呼ばれたので優美は一瞬ビクッとした。
名前を呼んだのは角田さん。クラスのまとめ役で、この企画を提案した張本人でもある。
優美はなにも聞いていなかったので、彼女が一体何にオッケーと言っているのかわからなかった。
でも聞き返すのも悪い。角田さんが一生懸命やっているのは誰が見てもわかる。
「ごめーん聞いてなかったー!!」なんて言ってみろ。角田さんに呪い殺されてしまう。
だから優美は一先ずオッケーといっておこうと思った。
「うん!オッケー!!とってもいいと思うよ!!」
優美がそういった瞬間
「えっ!?マジで!?」
「スゲー!!許可がおりた!!」
「桜井さん気合い入ってる〜!!」
「ヤバイ!!今年の文化祭最大の目玉やん!!」
突然クラス皆がお祭りのように騒ぎ出した。
「……はい?」
優美は全く状況を把握出来ないでいた。頭にはたくさんの??マーク。そのことを蓮に向かって目で訴えると、彼は苦笑いしながら一言。
「……前の黒板見ろ。これはおまえの責任だからな。」
恐る恐る前の黒板を見ると、コスチュームと書いてある箇所に『女王様…桜井優美』とでかでかと書いてあった。
・・・・・・
「……あれはない!!」
そういって優美はムチを振り下ろした。
……ムチ?
「そんなこといって、結局着替えてんじゃん。結構似合ってるし」
「そうよ、にし○かすみこの百倍似合ってるよ」
三咲と栞の総ツッコミが炸裂した。
あれから数日後、今日は衣装の確認が行われている。
結局角田さんに騙された(?)形で優美は現在ドSなお姉様を演じている。
衣装はド○キホーテに売っていた『にし○かすみこ変身セット』なのだが、そのコスチュームは彼女にしっかりはまっていた。本物よりもリアルな女王様である。
「大体なんで私がこんな格好を……」
優美はただただ愚痴る。
「いいじゃない!?私なんかこれよ!!これ!!」
そういって三咲はばっと腕を広げる。彼女の役割は『クマ』。それも着ぐるみなのだ。絶対喫茶店に向いてない、というのは誰も言えない。
「それに比べて……栞はずるいよ〜」
「それ!!栞は羨ましい!!」
三咲と優美が栞のほうを見た。栞も思わずアハハと苦笑い。
それもそのはず。栞の格好が1番マシなのだ。彼女は軽音楽部のライブもあるので、ライブできる格好がそのままコスチュームとなっている。それはまるで数字で表すと『7』って感じの某少女漫画の、クールな女性ボーカルが着るようなカッコイイジャケットを着ているのだ。
栞はそれを完璧に着こなす。二人が嫉妬しない訳がない。
「……ホント、栞が羨ましい」
そんなことを口にする優美の目には、栞の胸元にある蒼いネックレスがいつも以上に輝いて見えた。