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3 勝っても



「うん、いいよ!!


じゃあ準備してこい!!」




「「「「……え〜っ!?」」」」




本来ならこのようなときには少し悩んでから返事するものだろう。しかし、優美はこの返事を一瞬でしたのだ。

部員全員がさっきの一年生の発言の何十倍も驚いた。


2‐6の空手部メンバーは特にだ。


「おい待てよ!!いいのかよ優美??あんな知らないやつといきなり勝負するだなんて」


蓮は必死である。


「そうよ!優美、あんた状況わかってるの??」


三咲も説得しようとてしている。



「わかってるって、勝てばいいんでしょ??」


二人の心配をよそにニコニコしながら防具をつける優美、かなり上機嫌だ。


「蓮以外の男子と()り合えるなんて滅多にないからね〜!!」



「「……だめだ、こりゃ」」


二人共がっくり肩を落とす。


それを慰めるのもやはり丸山匠の役目だった。






・・・・・・・


「よし、早速はじめましょ!

……ところで、名前何て言うんだっけ??」

「あ、新庄隼人(しんじょうはやと)です。」


「オッケー新庄ね、じゃあはじめよ!」




空手は有効打のポイントの合計で試合の勝敗が決まる。有効な打撃を相手に与えると、それ相当のポイントが1〜3ポイントがはいる。このポイントを制限時間内に8ポイント差以上差をつけたほう、もしくは時間終了時間にポイントが多いほうが勝ちである。

ただし、倒れて10秒以内に立てなかった場合はその人は試合続行不可と見なされる。



優美は今までの公式戦で相手に5ポイント以上差をつけられたことがない。いかに強いかがわかる。


だからといって男子とやり合いたいと思えるなんて……。




「じゃあ審判は俺がします。」


蓮が名乗りをあげる。


「ヒイキしないでくださいよ、先輩」


「……しねぇよ、」

なんて生意気な、と蓮は心の中で毒づくのだった。


「……ったく、じゃあ始め!!」



蓮がコールした瞬間だった。


新庄が一瞬で優美の目の前に現れ、彼女の脇に拳を打ち込んだのだ。



「なっ!?」


はっ、速い!!

優美を含んだここにいる全員がそう思っていた。

しかもはやいだけではない、打撃も的確なのだ。



「……ヤバイかも」

三咲も思わずつぶやいた。

確かに、どんな素人から見ても優美が不利なのがわかるくらい一方的な展開になっていた。


最初の一発以降も優美はずっと押されていた。隅の方に追いやられることが多くなり、優美がガードする時間も増えていった。




ポイントの差が6になった。


残り時間も少ない。




優美のガードがほんの一瞬緩んだ。



……いけるっ!



新庄はそう思い、自身の拳を振り下ろした。


「……あまいっ!」


「!?」



そこに優美はいなかった。


彼の打ち込んだ拳は空振りし、大振りだったために新庄の体勢は前のめりになる。その隙を優美が見逃すわけがない。


「うぉらっ!!」


拳をかわした彼女は思いきり自分の右足を振り上げ、新庄の頭を的確に蹴りこんだ。

体勢を崩した新庄がこの衝撃に堪えれるわけがなく、蹴られた方向へ文字通りぶっ飛んだのだ。

何とか顔を起こそうとする新庄、しかしそんなことは出来るはずもなく、意識を保つので精一杯だった。



遠のく意識の中に見える優美の姿。


それは、新庄が初めて彼女にあったときと全く同じビジョンだった。




「……やっぱ好きです、優美先輩」



ぽつりとつぶやくと同時に意識が途切れた。


新庄の異変に気付いたのか、優美が慌てて彼の元へかけつけた。



「……やばっ気絶してる!やりすぎちゃった!

どうしよう!?蓮!?」


「……知るか」



試合を見ながらヒヤヒヤしていた蓮は、優美のいい加減な言動にむかつく半面、勝ってくれたことにホッとしていた。






・・・・・・・


「よかった〜すぐ気がついて!それにしても、新庄君って強いね!私一瞬優美が負けちゃうかと思ったよ」


特別教室の隅で仰向けに寝かされた新庄を中心に優美、蓮、三咲、匠の2‐6四人が輪になり看病していた。


「いや、優美先輩に比べたら全然でしたよ。」

ハハハ、と情けなく笑う新庄。


「いや、強かった、ただ今回は相手がまずかった。なぁ蓮??」


「おぅ、俺は毎日相手をしてるんだ、毎日が命懸けだ。」

頼りない男子勢のフォローである。


「うん、ホントに新庄は強かったよ!蓮くらい…もしかしたら蓮より強いかも!」


優美も新庄の強さには驚いたようだ。



仲良く会話する五人。


しかし、その会話は優美の一言で一瞬にして崩れ落ちたのだ。




「ホントに強かった……


だからね、考えていいよ?付き合うの。」




「「「「……えっ!!」」」」



驚きのあまり言葉を失う残り四人。


それを見て、優美は思い出したようにいう。



「……あっ、でも部活中は蓮と相手するから、放課後でいい??」



「「「「……はい!?」」」」


皆の頭にハテナマークがいっぱい乗っかってきた。

その様子を優美は、あれみんな?どうしたの?って感じで見ている。



「あのさ優美、私話が掴めないんだけど……」


たまらず三咲は質問した。

すると優美がこう答えた。


「だから〜、新庄の練習相手にってことでしょ??放課後ならいくらでも相手してあげるからさ!!」




「「「「……あぁ、そーいうことね。」」」」


がっくりとうなだれる四人。

「何よみんなして!そんなリアクションしなくてもいいじゃない!?

……もういい、私外走(がいそう)してくるから、看病よろしく」


そういって優美はその場を後にした。



「……僕、勝っても練習相手にしかされなかったんですか」


「……相手が悪かったんだ、なぁ、蓮。」


「あぁ、おまえの気持ち、ホントによくわかるぞ、俺は。」


「優美って……ホント罪だよね」




四人して優美の鈍感さに呆れることしか出来なかった。

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