32 素直
真っ暗な部屋に二人、月明かりだけが二人を照らしている。
「ねぇ、私聞いてほしいことがあるんだ」
もっと他にもいいたいことはあった。でも、今聞きたいことはこれだった。
…きっと、お母さんなら…
『わかってる、だからきたのよ』
「私ね…わからないんだ…」
優美は考えてることすべてを話した。
自分が悩んでいること。
蓮のこと。
それから、自分の想い。
誰にもいえなかったことをすべて話した。
なんだか少し落ち着いた。
『…すっきりした?』
「…え?」
お母さんはニコニコ笑っていた。
『…つらかったんでしょ?一人で抱えて。』
そういって優美の頭をなでた。
なんだか凄く懐かしい気持ちがした。
『あのね、優美。
今日はあなたに伝えたいことがあってきたのよ。』
「…うん」
優美はお母さんの目を見た。会えないと思っていた。それでも会いに来てくれた。
…きっと、私を正しい方向へ導いてくれる。
『…優美、あなたは強いって何だと思う?』
「…強い?」
『そ、強い。』
優美は考えた。前にもそんなことを聞かれた気がする。
「…心の強さ?」
『うん、それってどういうことだと思う?』
「うーん…」
どうなんだろう?
心が強いって、どういうことなんだろ?
誰にも頼らないで、1人でいきてけること?一つのことを貫くこと?
…どっちにしろ、私は凄く弱い。未熟で、脆くて…
『…私が思う、心の強さはね、』
不安そうな様子をしている優美をみて、お母さんはやさしくほほえみかけた。
『…それは、素直なことだと思うの』
「…す、なお?」
少し意外な答えが返ってきたのに戸惑った。
どういう意味なんだろう?素直って、なんなんだろう?
『いい?優美、あなたはもっと自分に素直になるべきだわ。』
「自分に、素直?」
『そ。もっと素直にならなくちゃ。』
『あなたはいっつも1人で悩みを抱え込む。自分の思いを押し殺して。
自分1人で解決することは凄いことに感じるけど、それは強いんじゃない。ただのやせ我慢。あなたが目指す強さはそんなもんじゃないはずよ。』
あぁ、そうか。
私はただ1人で悩んでいただけなんだ。それが強いことだって1人で思ってたんだ。
強くあろうって、1人で焦ってたんだ。
『ホントに強い人は、自分の思ったこと、感じたこと、悩みや苦しみも素直に受けとめて、自分の思ったとおりに行動できる人だと思うの。』
「…うん」
『…そしたら、あなたがしなきゃいけないこと、わかるでしょ。』
…うん。わかってる。
私が今なやんでること、考えてること。
それから…
優美はゆっくりと立ち上がった。
「…行かなきゃ
お母さん!!私すぐ行かなくちゃ!!」
『…うん、いってらっしゃい!!』
優美はカバンをもち、走りだした。
それから入り口前で一度とまり、振り返った。
もう誰もいない教室に、優美は大声で叫んだ。
「お母さん!!
次会う時は、もっともっと強くなるから!!
お母さんみたいに、強い女になるからね!!」
聞こえないけど、誰かが答えてくれた気がした。
・・・・・・・・・
…間に合う、まだ間に合うはず!!
優美は走った。
伝えなきゃ、今まで言えなかった私の想いを。
やっと気付いたこの想いを。
今、すぐに。
もし、彼の隣に私でない誰かいたとしても…。
伝えなきゃ!!
誰もいない校舎をでて、グラウンドの真ん中をもうダッシュで走る。
はやく、はやく。
…あれ?
正門が見えてきたところで優美は立ち止まった。
正門に誰かいた。
そこには、彼女が今一番会いたい人がいた。
「…よ。」
「……蓮」