18 先に病院へ
「ねぇまだ?おばあちゃん?」
優美はいてもたってもいられなかった。
もし許されるなら今すぐに飛び出したい気持ちなのだが、今は我慢。後少し。
そんなじれったそうな優美を見ておばあちゃんはクスッと笑う。それから一通り確認。そして
「……よしっ、完璧。いいわよ優美、見てみなさい」
優美は振り返り、目の前にある三面鏡に写る自分を見た。そして呟く。
「…うそみたい」
言葉を失い呆然と立っている優美に、おばあちゃんは優しく微笑んだ。
「似合ってるよわ、優美」
夏休みも残りわずか。
今日はこの町で夏祭りがある。
規模は小さいが昔からある行事で、この町に住む人間なら誰もが楽しみにしている行事の一つである。
優美も毎年参加している人間の一人なのだが、今年は優美の気合いの入れ方が違った。
・・・・・・・・・
「おばあちゃん、私今年の夏祭りは浴衣を着て行く」
一週間前のこと。
この言葉を聞いたとき、おばあちゃんはありえないほど驚いた。
優美は毎年夏祭りは私服で行っていたし、おばあちゃんが浴衣をつくろうかと尋ねてもいつも
「いいよ、そんなの」といっていたのだ、驚かないほうがおかしい。
しかし反面、少し喜ばしいことでもあった。
どんなに男らしい一面があっても、やはり優美は年頃の女の子なのだ。こーいうことをしたがる気持ちはわかるのだ。
だからおばあちゃんはすぐに浴衣を作った。それは優美の母親が好きな、白地に水色の水玉柄の浴衣であった。
・・・・・・・
「おばあちゃん、ありがとう!!」
優美は振り返り、満面の笑みでお礼をいった。
その姿は、とても美しい女性の姿だった。
それを見て、おばあちゃんはまた微笑む。
「ホントに…似合ってるわよ」
おばあちゃんは自分の孫に、思わず自分の娘の姿を重ねるのであった。
・・・・・・・・
浴衣を身につけた優美の気分は最高潮だった。おばあちゃんが部屋を出ていった後も、何回も何回も鏡の前でポーズをとっていた。
「すごい…この浴衣、物凄くかわいいじゃない」
優美は考えた。こんなステキな浴衣をきていれば…蓮はどう思うだろう?かわいいとか思ってくれるかな?もしかしたら、私のこと好きになっちゃったり…
そんなことを思うと、もうニヤリと笑うことしか出来なかった。
「うふふ、楽しみだなぁ」
「…ふ〜ん、何が?」
「!?!?」
突然の声に優美は思わず跳びはねた。文字通り。そして恐る恐る後ろを振り返る。
そこには、これまた面白いことがあったかのようにニヤニヤしている三咲がいた。
「あ、やっ、やぁ三咲、いつの間に…」
「何いってるの、さっきから何回もノックしてたのに返事しないから入っちゃったわよ」
三咲が呆れたように答えた。彼女も浴衣をきていた。赤色の、いかにも最近の子が着ています〜って感じの柄だ。
「それにしても優美、あんたホントに浴衣似合うよね〜!鏡の前でポージングする気持ちもわからなくはないよ」
思わず赤面。
「ちょ、そこまで見てたなんて…」
そんな恥ずかしがる優美を見て、三咲は更に追い撃ちをかける。
「確かにそうよね〜、
優美は、『胸』がないから浴衣がと〜っても似合うわよね〜!!!」
そのとき、一瞬にして部屋の空気が変わった。優美の手がグーになっていた。
「…ふーん、三咲、あんた今なんて…」
「だ〜か〜ら〜、『胸』がぁ…」
そして、水色水玉がついにキレた。
「三咲、夏祭りの前に病院に連れてってあげる〜!!!!」
「優美〜、お菓子持ってきたわよ」
おばあちゃんは優美の部屋の前に立っていた。そしてゆっくり扉をあけると…
「!?!?」
そこには、浴衣がはだけ、物凄く乱れた恰好をした三咲がいた。
その様子を見てア然とするおばあちゃんに、優美はニッコリ微笑んでいった。
「あぁ、気にしないでおばあちゃん、三咲がぜ〜っんぶ悪いから」
おばあちゃんは、まだまだ優美は男の子みたいな女の子だと再確認した。
・・・・・・・
太陽もだいぶん傾いて来た頃。
三咲と優美は蓮の家に向かっていた。
今日は空手部四人組と夏祭りをまわる予定である。集合場所は会場に1番近い蓮の家になっていた。
優美は少しワクワクしていた。蓮には浴衣のことを言っていない。つまり一種のサプライズである。果たして蓮はどのようなリアクションをしてくれるだろう??なんていってくれるだろう??
そんな期待を胸に抱いて歩いていた。
蓮の家に着いたとき、事件は起こった。
「おじゃましま〜す…あれ?」
優美と三咲はある異変に気付いた。
玄関に女物の下駄があるのだ。
蓮には兄弟がいるが、姉も妹もいないはずである。ではなぜ…
「……まさか!?」
嫌な予感がした。
優美は慌てて蓮の部屋へ向かった。それから文字通り、部屋の扉をぶっ飛ばした。すると…
「蓮〜〜、私の浴衣どう〜!?」
「だから何で朝倉さんがうちに…
……って、優美!?!?」
そこには派手なピンク色の浴衣を着た生徒会長、朝倉絵里がいた。