17 大野蓮
この作品のテーマは『二人』。
どんなときだって誰かが側にいてくれる。側にいてあげられる。
それを誰かに伝えられたら…と思います。
※優美の母親の話は[強すぎっ!!短編]をご覧になっていただくとわかりやすいです(>_<)
八月頭、夏本番。
朝早くなのに物凄く暑い。蝉もうるさい。
でも、なぜか心地よく感じる風。
不思議な、夏のかおり。
少年は片手に赤い花を持っていた。
彼はその花をある墓石の前に備える。
それから丁寧にお辞儀をし、黙祷。
そして一言。
「お久しぶりです、おばさん。」
彼の名は大野蓮。彼は今、幼なじみである桜井優美の母親の墓参りに来ている。
蓮は一人優美の母親に向かって囁く。
「おばさん、最近優美、凄く女の子らしくなったんですよ。以前とは別人みたいで…」
「この前も、海にいったんですけど…」
そんなこと話し掛ける。時々笑いながら。
そして一段落話終えたとき、蓮はぽつりと呟いた。
「……もう、八年たつのかぁ」
広い広い空を見上げ、蓮は昔のことを思い出す。
・・・・・・・
八年前。
蓮はサッカー少年だった。
空手もやっていたのだが、その頃サッカーが流行っていて、蓮はよく空手をすっぽかして友達とサッカーをしていたものだ。
しかし実際のところ、空手をやっているのが蓮の父親の強制であるのもすっぽかしていた理由でもあったのだが。(しかも空手の師範は鬼のように怖いのだ、当然行きたくなくなる)
「空手なんてやりたくないよ!」
少年はボールを追い掛けながら、よくそういっていた。
・・・・・・・
それは今日のように青空の日。
いつものように朝からサッカーをして、それからご飯を食べに家に帰っていた時のことだった。蓮は向こうから走ってくる少女を見つけた。
彼は少女を知っていた。
「よぅ優美!!」
彼女は桜井優美。蓮の幼なじみである。
当時彼女とはよく遊んでいたが、それは幼なじみであるからであり、この頃は恋愛感情など持ち合わせてもいなかった。
「どうした?そんなに急いで」
蓮は幼なじみに声をかけた。いつものように。
ところが、優美は蓮の声に返事をせず、猛ダッシュで蓮の横を通り過ぎた。
「……何だよあいつ、無視すんなよ」
蓮は少しムカッとした。そしてムカムカしながら家に帰るのだった。
何も知らずに。
そのあと昼ご飯を食べた蓮は自分の部屋のベットで横になっていた。
窓の向こうでやかましくなく蝉、風鈴の音。風鈴の音に合わせて揺れるカーテン。柔らかい風。騒がしいようで、どこか心地よい夏のにおい。
気付いたら蓮は眠っていた。
・・・・・・・
「真っ白」というのはこのことをいうのだろう。
蓮が最初に思ったことだった。
蓮は白い世界にいた。
辺りは一面白。一体どこが端でどこが天井なのかすらわからない。そんな空間にいた。
そして突然、蓮の目の前に何かが現れた。
蓮は一瞬びくっとしたが、その姿を見て直ぐにこういった。
「…おばさん!?」
そこには優美の母親がいた。
蓮は混乱していた。あれ?ここは何処??何で優美のおばさんがいるの?
そんな蓮の様子を見て、優美の母親は申し訳なさそうに話し出す。
「ごめんね、蓮君。少し驚いているかもしれないけど、時間があまりないから…話を聞いてくれる??」
蓮は首を小さく縦にふる。
「そう、ありがとう」
彼女は優しく微笑んだ。
蓮はその笑顔が大好きだった。そしてそれは優美も。
しかし最近は彼女が病気で入院してしまい、あまり見ることが出来なかった。
「あのね、私はいろいろあって、これから蓮君や優美と会えなくなっちゃうの。」
その時蓮は嫌な予感がした。それって、まさか…
そう思うと急に怖くなり、思わず下を向いてしまった。
それでも彼女は話を続ける。
「そしたらね、優美が寂しい思いをしてしまうかもしれないの。
だから、蓮君にお願いがあるの。」
蓮は顔をあげた。そして優美の母親の顔を見る。
彼女はまた微笑んでくれた。
「蓮君、優美の側にいてあげて。
少しだけでいい。
ただ、優美の側にいてあげて…」
「おばさん…」
微笑んでいる優美の母親に手をのばそうとした。
しかし、届くことはなかった。
白の世界は蓮に有無もいわせずに突然消えてしまった。
・・・・・・
夢から目覚めると、風に揺れるカーテンが蓮を出迎えてくれた。
蓮はしばらく横になったままでいた。
相変わらず蝉は煩く、風鈴は揺れている。
だけど、どこか違う、この感覚。
不思議な、夏のかおり。
優美の母親と再会したとき、彼女は蓮に何も話しかけてくれなかった。
ただ、その時に側にいた優美の涙が印象に残っていた。
・・・・・・
「空手をやらせて」
葬式が終わって数日。
最初優美がそういいだした時、蓮は物凄く驚いた。
確かに、優美は女の子にしては活発だが、所詮女の子。空手だなんてできるわけない。
しかも蓮の通う空手道場の師範は鬼。男女関係なく厳しく指導するのだ。(だから女子なんていない。入ってもすぐやめるのがオチである)
そのことを優美に何度も説明した。それでも優美はいう。私はやる、と。
だから仕方なく優美を道場に招待した。
優美は毎日のように道場に通った。そして毎日師範にボコボコにされていた。
そんな優美が心配なのか、サッカーばかりしてサボっていた蓮も毎日来るようになっていた。
蓮は考えていた。
あの夢、優美の母親の言葉。もしかしたらただの夢なのかも知れない。
でも……
「側にいてあげて」
蓮はこの言葉が忘れられなかった。
・・・・・・・
ある日のこと。
練習が終わり、蓮が着替えて帰ろうとしていると、電気の消えた道場から音が聞こえた。
「…何だ??」
蓮が不思議に思い道場に向かうと、そこにはいつも側にいる人がいた。
優美だ。
優美は暗い部屋の中、一人基本の練習をしていた。
蓮は驚いた。男の自分でさえヘトヘトになってしまうほど練習をしていたのに、彼女はさらに練習しているのだ。
しかも時々泣きじゃくる声が聞こえる。暗くてよくわからないが、優美は泣きながらも練習をしているのだ。
蓮はしばらく声をかけられないでいた。ただ見ていることしか出来なかった。
すると、優美の足ががくりと崩れ、彼女は床に座り込んでしまった。
蓮は慌てて駆け寄った。
やはり彼女は泣いていた。
「おいっ大丈夫か!?
そんなに無理するなよ!」
蓮は優美の肩に手をかけた。
小刻みに震える彼女。
どうして、どうしてそんなに無理をしてんだよ…
そんなことを考えていた。
そのとき、蓮は優美が小さな声で何かを言っているのに気付いた。
「……約束したの
強く…なるって…」
それは、小さいけれど、強い強い決意の込められた言葉だった。
「…お母さんと約束したんだ、
強く…強くなるって…
だから…」
蓮は言葉を失った。
そうか、優美はおばさんとの約束を守るために一生懸命頑張っていたんだ。寂しさを我慢して、一生懸命頑張っていたんだ。
そして思う。
俺は…
俺にできることは……
震える優美の小さな体を、まだ大きくない蓮の腕で包み込んだ。
優美の震えは自然と無くなった。
そして、優しく優美の頭を撫でて蓮はこういう。
「大丈夫。急がなくても、優美は強くなれるよ。
ゆっくりでいいから…
俺が側にいてあげる。
優美の側に、いてあげる。」
蓮は誓った。
俺が彼女の力になろう。おばさんとの約束を叶えてあげよう。
優美の側に、いてあげよう。
気付いたら、蓮は優美を好きになっていた。
おばさんとの約束なんて関係ない。
ただ優美の側にいたい。
ずっと側にいたい。
そう、思い始めたのだ。
・・・・・・・
蝉がやかましく、太陽が塗しすぎる。でもどこか心地よい風。
不思議な、夏のかおり。
優美が母親のお墓についた時、あることに気付いた。
「あ、まただ。」
そこには毎年この日になると置かれている真っ赤な花があった。
優美はその花が何と言う名前なのかも、誰か置いたかも知らない。
ただ、優美はこう思う。
きっとこの花を置いた人は、とても優しい人なんだろう、と。
物語はついに後半へ。
次回もお楽しみに!!
愛子
「な、何ですか!この手抜きな次回予告は!?」
新城
「なんか真面目な話が続いて作者が疲れたらしい」
愛子
「ふざけないでください!!予告担当の私たちの苦労を考えてください!!
…もぅっ!次回は夏祭りのお話ですよ!!」
新城
「(認めたよ、ついに予告担当って認めたよ(-.-;))」