16 線香花火
「…うるさい」
優美は苦しんでいた。
それは蓮のことを思うと胸が苦しく…というものでは全くなく、ただうるさくて眠れないのだ。三咲のいびきが。
「夜はガールズトークしようね〜!!」なんて昼間はいってたくせに、夜になってみればこれだ。まぁ無理もない、海であんなにはしゃいだら疲れきってしまうのも当然。
しかし、いびきはどうにかしてほしい。
「…仕方ない、散歩でもしよ」
優美は布団から起き、海岸にでた。
・・・・・・
「……」
それは言葉を失うほど静かな夜だった。聞こえるのは、目の前にある波の音。それから、限りなく黒に近い青をした海。空。そこに散らばる星星。
優美はまた妙な感情に襲われた。なんて静かなんだろう。こんなに暗い世界。そこに私一人。ずっと、一人。
寂しくなった。
それは母親を無くしたときに抱いた感情、いやもしかしたらそれ以上。
そんなに辛いのに、彼女にはなんの術も知らなかった。
優美があまりに強すぎたのだ。この辛さを誰かに伝えようとせず、一人でどうにかしようとしていたのだ。
「……どうしたら、いいんだろう?」
優美は海に呟く。そして力無く座り込んでしまう。
限界だった。
このよくわからない寂しさは、彼女を追い込んでいた。
寂しいよ。私、一人は嫌だよ。ねぇ、蓮。絵里のところに行かないでよ。
…私を、一人にしないでよ。
「…なぁ」
そんなとき、彼女の後ろから声が聞こえた。
優美は振り向いた。
そこには、彼女がよく知っている人間がいた。
「……線香花火、余ってたんだ」
・・・・・・
暗闇に浮かぶ淡い二つの光。消えまい消えまいとそれぞれが精一杯火花を散らす。
優美にとって、それはものすごく明るかった。どんな炎やライトも敵わない。その光は暗い世界ですら光に満ち溢れさせる。そんな気がした。
優美は火の行方を気にしつつ、隣の少年をみた。
蓮は線香花火の炎を見つめていた。じーっと。目を反らす事なく。
そんな蓮を見ていると
「あっ!?」
優美の線香花火の火が落ちてしまった。
その様子を蓮がみて
「早過ぎだろ…って俺も落ちちゃったよ。」
蓮も終わってしまった。
蓮は手元にある袋からまたもう二本線香花火を取り出す。
「ほら、まだあるからさ」
「うん…ありがとう。」
優美はなんだか恥ずかしくなった。なんか蓮とこんなことしてると…恥ずかし。それにめちゃめちゃ近いし…。なんかこれって、カカカカカ、カップルみたいじゃない??
そんな動揺を悟られないようにと一生懸命な優美。冷静を装い線香花火を始めた。
そんな感じでしばらく花火をしていた。
・・・・・・
線香花火が残り少なくなったときだった。
「なぁ優美」
線香花火の火を見つめながら蓮が話し出した。
「…なぁに?」
答える優美。
「ずっと昔、優美とおばさんと三人でこーやって線香花火したの、覚えてる?」
優美はびくっとした。そーいえば…
「…うん、そんなこともあったね。」
優美は思い出していた。あの時もこんな静かな夜だったっけ??あの時は、お母さんもいて、蓮もいて…
「…それでさ、その時におばさんがいったこと、覚えてるか?」
「えっ?」
優美は困った。あれ?なんか話したっけ?なんのことだろう…??
優美があれこれ考えていると、彼女の花火の炎が落ちてしまった。
そんな彼女の様子をみて、蓮はまた袋から線香花火を取り出す。
「あの時さ、優美のおばさんがこんなことを教えてくれたんだ。」
そういって彼女に花火を渡す。
「線香花火って一人でやるもののように見えるけど、実は違うんだ。
その炎は、誰かがそばにいてあげて風を防ぐことで、より長く、より綺麗に輝き続けることが出来るんだ。って。
俺思うんだ。それは線香花火だけじゃない。どんなときだって、誰かがそばにいることが大切なんだって。
だから…」
優美ははっとした。そして蓮の目を見る。とても、とても、優しい目を。
「だからさ、悩みがあったら俺に相談してくれよ。
おまえは一人じゃない。俺がそばにいるから。」
「…バカ。」
優美がやっとのことで言えた一言だった。
優美は泣きそうだった。そしてうずくまる。
なによ、もっと早くいってよ。でも…よかった。
「……優美??大丈夫か?」
彼女の様子が不安そうな蓮。
すると突然、優美ががばっと立ち上がった。そして笑顔。
それは何かふっ切れた様子だった。
「ありがとう、蓮。もう大丈夫!
もう悩みなんて忘れちゃった!!!」
それは皆を幸せにするかのような笑顔だった。
「…そっか、よかった」
蓮も思わず笑った。
・・・・・・
「……ねぇ、蓮。」
「ん?」
二人くっついて線香花火をしながら優美は言う。
「ここ、ホントにいい場所だね。
来年も再来年も、もっと先も、四人でここにこよう。
だから…」
優美は蓮を見る。
そして笑う。
天使のような笑顔で。
「それまで、何処にもいっちゃダメだから!!!」
そうだ、明日は泳ごう。新しい水着を着て。
そしたら蓮、喜んでくれるかなぁ…
この時優美は気付いていなかった。
彼女に生まれた、蓮に対する新たな感情に…。
優美
「蓮〜!!どう!?この水着!?」
蓮
「なんだ優美…ぶはっ!」
優美
「ちょっ、蓮!?すごい鼻血!!大丈夫!?」
その後蓮は救急車に運ばれた…。
・・・・・・
次回予告
蓮
「…お久しぶりです、おばさん」
次回の主役は蓮!!
蓮の過去、蓮が優美を好きな理由がわかります!!
愛子
「なんで次回も出れないんですか〜!!
私にも大野先輩といちゃいちゃさせてください!!」
新城
「…諦めろ、俺らは後書きキャラで定着してしまったんだ」
愛子
「そんなぁ…(T_T)」