15 Tシャツは必需品
目が開けられないほどに眩しい太陽。その光を二倍にして跳ね返す青い海。そしてこの人、人、人の山。
本日まさに海水浴日和。誰もが水着をまとい、はしゃぎ周り、自分の肌をやこうと試みている。
しかし約一人、パラソルの下でブカブカのTシャツをまとって遊ぼうとしない少女がいた。
「…ねぇ、泳がないの?優美?」
そう、桜井優美であった。
今日は以前約束したように空手部の四人で海に来ているのだが、優美はさっきからこんな感じ。ビーチボールのぶつけ合いをしている男子二人とは大違いだ。
せっかく海に来たのに遊ばないものだから、三咲も少し心配している様子。
「優美〜泳ごうよ〜せっかくの海だしさ〜」
「…ごめん三咲、ちょっと体調が良くないのよね」
優美はそういった。
体調が良くないのは一応本当。でもそれよりも、他の理由のほうが優美をこのようにさせていた。
それを知ってか知らずか、三咲がこんなことを言い出す。
「え〜もったいない!
せっかくそんなにかわいい水着着てるのにさ!!」
「!?」
優美は思わず赤面。そして一言。
「うるさい!さっさと蓮たちと遊んできなさい!」
あの買い物のとき、優美は水着を買っていた。流石にショーウィンドウに飾ってあったような大胆な水着は無理だったので、もう少しティーン向けのかわいらしいものを選んだ。
それでも優美としては物凄い進歩なのだ。
今までへそが出るような水着なんて着たことがなかった。ところが今回はへそ解禁。優美には考えられないほどセクシーな水着だったのだ。(あくまで優美基準。三咲からすれば
「まだまだだね!」)
まぁそんな水着を買ったのは言いのだが、いざ着てみると物凄く恥ずかしい。三咲はかわいいと褒めてくれたのだが、優美はこの恥ずかしさに耐え切れずTシャツを着てしまったのだ。
「…なんでこんなの買ったんだろ?」
思わず呟く。なんであの時水着なんてほしくなったんだろ?それもこんなに大胆な。(彼女いわく)
それになんで…
そんなことを考えながら海を眺めていると、視界に何やら人影が。
「…おい、大丈夫か優美?」
「!?!?」
優美は思わず後ろに下がった。それにしても物凄い慌てようだ。
声をかけて来たのは蓮だった。
「…なんだよ、そのバイキンみたいな扱いは。」
「…うるさいなぁ、いきなり声かけられたからびっくりしただけよ!」
優美はそういって目を反らす。ここんところいつも優美は蓮にこんな態度をとっている。
「はぁ…なんか最近お前俺に対しての態度おかしくないか?
なんか俺やったかよ??」
蓮は不機嫌そうにいう。その様子を見て、優美はまた彼から目を反らす。
「…うぅん、別に何にも。」
優美はどうしていいかわからなかった。
別に蓮はなにも悪くない。ただ自分が勝手に悩んでいるだけ。でもそれを誰にも相談出来ないのはツライ。しかも小さい頃からそばにいた人に話せないのは、余計にツライ。
蓮は悪くない。でも、気付いてほしい。この辛さ、この寂しさ。
「…別に、何にもないから。」
沸き上がる思いを押さえて、優美は二回いうのだった。蓮に伝えるため、自分に言い聞かせるため。
・・・・・・
気付けば夜。辺りは暗くなり、明かりといえば旅館の明かりと優美達のしている花火くらいであった。
その日優美が水着を披露することはなかった。
あのあと四人でビーチバレーなどをしたりしたが、優美は相変わらず元気がなかったし、Tシャツを脱ぐこともなかった。
優美がやはり心配である三咲と蓮と匠の三人は、なんとか元気になってもらおうと花火をすることを提案した。
しかしあまり効果はないようで、優美は一人線香花火を楽しんでいた。
「…」
優美はただ火の行方をみていた。少しずつ短くなっていく導線。弱々しい炎。
おかしいなぁ。
優美は感じていた。
今日の線香花火。なんだか綺麗に見えない。凄く炎が小さく感じる。
一体、どうして……
・・・・・・
「優美…」
そんな彼女の様子をみて、蓮は少し昔のことを思い出していた。