私が学校に行けない理由
ノンフィクション
前提として自分は人一倍他人からの目を気にする人間で、更に自己評価も低いのです。クラスで大声で先生方や中学生の頃のクラスメイトの悪口を言うあの人たちは、私のいないところでまた、大声で私の悪口を言ってるんじゃないかと。毎朝挨拶してくれる彼女は、実は内心私のことを酷く嫌っているのではないかと。
考え出したら止められるものではなくて、毎日考えてはクラスメイトと距離を測り、近付きすぎたら遠のいて、しかし他人行儀にはならないようにと繰り返すうちに、クラスに友達は一人でした。
中学一年生から仲良くしてくれていた、一人の女の子。仮にSちゃんとしましょうか。他のクラスに友達はいたものの、クラスにはSちゃんしか友達はいなく、依存しているのかと言うほどに、移動教室や昼の時間を共にしました。しかしSちゃんは明るい子で、友達は沢山。色んな子に毎日囲まれて、輪の中に入れない私というものはいつも、惨めな気持ちで。
いや、常日頃から私は惨めな気持ちでした。将来を見据えるクラスメイトたちが真剣に夢について語り合うと、どうにも負い目しか感じられなく、逃げ出したいような気持ちになる。
将来の夢 が嫌いだったのです。何か崇高なものを目指さなければいけないような気がして、他人の役に立つか、好きなもの、得意なことを活かさなきゃいけないような気がしたから。私は目立ちたくもなければ、得意なことも無い平凡な人間ですから。稼げればいいやと。それをつまらないと言われる筋合いも無いと思っていたのです。なぜ皆は、高校一年生からしっかりとした夢があるのだろうか?学生というのに、いつ遊ぶのか?勉強や部活に打ち込むクラスメイトを見ると、自分がどれだけ小さく、普通でつまらない人間かを実感させられるようで嫌になるのです。
そんなでも、どうにか学校は行かなければ単位は得られないもので。奨学生になったのだから。振る舞いは気をつける必要がありました。しかし、どうにも、Sちゃんが冷たいように感じてきた。考えすぎかもしれないけれど、自分は言った通り、他人の目というものが人一倍気になる。嫌われたのか、面倒なやつだと思われたのかと考え出すと、独りで本を読む方が楽しく思えてくるのです。きっとSちゃんにそんなつもりはなかった。と、思いたい。
でも、私だけが彼女のもとへ行き、全て私から話しかけるというのは不安になるし、Sちゃんが自分から他のクラスメイトに話しかけるのを見ると、どうも、しんどさを感じました。朝や夕方、家にいる時は、学校は楽しいものだと思うものです。しかし学校では、早く終われ、とばかり考えてしまう。休み時間が苦痛で、昼にSちゃんとご飯を食べる時が救いで。
Sちゃんしかいないのだろうな、一年生の間は不満はあれどSちゃんと過ごそうと、過ごしたいと、そう思っていました。
話は変わりますが、Twitterには連絡先からフォローする人を見つけるという項目があるのです。そこで見つけたアカウント。誰のアカウントなのだろうと好奇心で覗くと、Sちゃんでした。ああ、これが彼女の言っていた、もう一つのアカウントか、と。彼女の一つのアカウントは私もフォローしていましたが、その見つけたアカウントは初めて見ました。後悔先に立たずとはこのこと。私はそのアカウントを開き、ほんの少しと、ツイートを遡ってしまいました。
ほとんどは何気ないツイート。ゲームのこととか、食べたご飯のこと。このゲームやってるって言ってたなぁなんて、呑気にツイートを眺めていました。
そうしたら、目に付いた、愚痴のようなもの。何気ない感じに書かれたツイート。
それは私のことを指していると瞬時に理解しました。
三度目になりますが、私は他人の目というものを人一倍気にする。更に、それによって傷つきやすい、脆い心を持っている。
あぁ、Sちゃんにも不満があったんだと。当たり前のことでした。でも、何故か酷く傷付いたのです。
私だってSちゃんに不満はありました。私がSちゃんのツイートを勝手に見て勝手に傷付くなんて、可笑しな話なのです。そう言い聞かせました。そして忘れろと。次の日の学校では、Sちゃんと、話しづらさを感じました。何か変なことを言ったらツイートされるんじゃないかと。
何が1番怖いのかというと、第三者に、私への不満を書いたツイートを見られるということでした。その第三者が共感し、顔も名前も知らない私のことを最低の人間だと言ったら、もう立ち直れない。そんな程度の心なのです。SNSに向かない、心なのです。それでも、息のしづらさを感じても、学校は好きでした。悪口さえ耳を塞げば良いクラスでしたから。心の奥底を考えなければ、良いクラスメイトでしたから。
しかしそれでも限界は来ました。
誤魔化し誤魔化しできた心が遂に、悲鳴をあげたのです。もう行きたくない。人間が怖い。それは紛れもない本音でした。一歩も踏み出すことが出来ない。視界も涙で歪んで、完全に立ち止まりました。家にいる母に学校に行きたくないとLINEをして、いやしかし、そんなことを言ってどうするのだと送信を取り消しました。通知音。母からいいよとLINEが返ってきました。そのまま家に帰ったあとは辛くて、何に対してかわからない涙が出ました。優しくしてくれたと思った母に、なんで泣いてんのと強く言われ、また、涙が溢れていきました。
こっちが知りたい。
何が悲しいのだろう。
なんで息ができないほど泣いているのだろう。
昨日まで楽しいと思っていた学校にもう行きたくない。なんで行きたくないのだろう。何がこんなに辛いのだろう。色々なことを思い出す度に涙は溢れて、兄にも、なんで泣いてんのと呆れたふうに言われました。部屋で一人、声を殺して泣きました。また、惨めな気持ちになりました。この世界で、何よりも孤独なのかと。いっそ今すぐ飛び降りてやろうかと。
すると、机の上にお茶が置かれました。そんなに泣き続けていると脱水になる、と姉が置いたのです。背中をさすられると、涙がまた、止まらなくなりました。暑いでしょ、ベスト脱ぎなよ、だとか、濡れタオルを差し出して、顔拭きなよ、だとか。姉は中学のときに不登校の時期があったので、わかってくれたのだと思いました。この出来事は人生で、1番忘れられない出来事になると思います。
その夜、私は思い立って、ルーズリーフに文章を書きました。内容は、今日休んだのは体調不良ではないこと、学校がしんどいこと、今朝の対応は結構しんどかった、ということで、母に宛てて書きました。それを渡しておいてくれと姉に託し、私は布団に入りました。
0時を過ぎた時、兄に声をかけられました。おい、と。起きてるなら来い、と。私は嬉しかった。あの紙を読んで、どうにかしてくれる気になったのだと。
言われた言葉は、口で言え、という、あとは、思い出したくもない、責められるような言葉。
いやきっと責められてはいない。けれどあの時の自分にはそうにしか聞こえなくて、それは未だに耳に染み付いて、脳裏に焼き付いて、ふとした時に思い出しては自己嫌悪と後悔に襲われる。たしかに少し、嫌味のようなことは書いた。今朝、貴方達は冷たい対応をしたけれど、姉だけはそうはしなかったと。そして正直に、貴方達に向ける感情は恐怖であるとも書いた。
昔から、私は兄が苦手だ。表面上はなんともないように接しているつもりだが、高圧的で偉そうな態度が、どうにも接しづらいというのが本音であった。
そんな兄に真正面から責められては、また、出し切ったと思っていた涙が溢れてきた。どうしてほしいわけ?なんて聞かれれば、私ももうヤケクソで、二度とこの話はしないでと、そのようなことを吐き捨て寝室に戻ろうとしました。しかし腕を掴まれ、座れと。
その後はもう記憶すらあやふやで、とにかく泣いて、もう行きたくないと伝え、辛い時は責めないでと言ったような気もします。その後は兄と母に責められたのがずっと頭の中でぐるぐると回って、寝られませんでした。そうして、次の日から、学校に行くのをやめました。Sちゃんのアカウントもブロ解しました。
これが恐らく一番の間違いだったと思います。
Sちゃんの、教えられてない方のアカウントで、また私に対しての愚痴のようなものが吐き出されたのです。なんか友達にブロ解された、休んでるから病んでると思ったがアレで病むのか、心配してた自分が馬鹿みたいだ、という、ツイートたち。
アレというのは、私が自分のアカウントでぼそぼそと呟いていた、しょうもない愚痴のような嘆きのことで、今回のこととはもちろん、全く無関係でした。
しかしそれを勘違いされたまま第三者の目に晒されたのです。そのSちゃんのアカウントは、少なくともクラスの男子1人がフォローしていたはずです。
もし、もしも彼女が勘違いしたまま彼に愚痴と称して、頓珍漢なストーリーを伝えたら?それがクラスメイトに伝わったら?
震えが止まりませんでした。
同時に怒りも湧きました。何が友達だ、心配だ、と。
友達だと思っていたのは結局のところ私一人じゃないかと。心配してたなんて、心からの言葉なのかと。心から心配してた人の言葉が、あーあ、心配して損した、なのかと。極めつけは、病んでる、という言葉。
私がずっと悩んできたこと全てを、そんな軽い一言で片付けないでほしかった。そして、もう、クラスには行けないなと悟りました。
Sちゃんすら話しかけてくれないクラスで、頓珍漢なストーリーが伝わってるかもしれないクラスで、楽しくやれるわけがないと思いました。いっそのこと、転校してしまおうと。
しかし今、思うのです。あの日家に帰らず、学校に行っていればと。そうしたら、こんな悩むことないのにと。辛いけどまあ楽しいと思えれば。毎晩悔しくて泣くことは無いんじゃないかと。
夜、ヘッドホンを外すのがどうしようもなく怖いのだ。静かな空間にいると、クラスを思い出すのです。本当であれば、あの中にいたのにと。
楽しみにしていた学校行事を思い出すのです。あれらを全て楽しむ権利を私は持っているのに、と。全て全て私は失ったのです。
心の弱さ故に。
他人の目が気にする性分故に。
もっと強い人間に生まれていればと心から思う。
夜が怖くて仕方ないのです。ふとした時に泣きそうになるのです。生きていることが辛くて、仕方ないのです。
Sちゃんに届けばいいのにと、心から思う。