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学食にて

 学食にて





 だだっ広い校舎の中央辺りに学生や教員が使用する食堂がある。本校の学生は専らこの食堂で昼食をとることが多い。私も例外ではない。少し前までは自分で弁当を作って来ていたのだが、ある日を境に食堂での昼食に切り替えた。


 理由は単純。彼が食堂派だったからだ。


 食事、それは人の素顔を垣間見ることができる貴重な機会だと、母にかつて教えてもらったことがある。その教えが本格的に役に立つ日が来るとは夢にも思っていなかった。


 私は彼の素顔を探り、その隙間を掻い潜って慌てふためく姿を目の前に晒させたいのだ。探ることに集中しすぎてあまり攻撃を仕掛けられなかったので、今日は積極的に攻めていこうと思う。


 4時間目の授業が終了した途端、私は足早に食堂への最短ルートを目指した。早めに行かないと満席になる可能性も考えられるからだ。まだそれほど混んでいないようだったので、いつもの日替わりランチを注文して席についた。昼食を食堂に変えてから若干身体が重たくなった気もするが、きっと気のせいだ。


「お待たせしてしまってすいません」


 程なくして彼がやってきた。両手にはいつもの唐揚げ定食だ。体育の後だったのか少し汗ばんでいるが、妙に爽やかなのがどこか心地よい。


色佳(しきか)先輩はまたいつものやつですね。けどそれ、美味しそうですよね」


 あんたもいつものでしょ、とは言わない。私の日替わりランチも手元に届いたところで、二人揃って手を合わせた。今日のメニューはトンカツだ。……本当に気をつけなければいけない。


 さて、そろそろ仕掛けていかないと。付き合い始めて1ヶ月も経つのに未だに彼が何を考えているのか、その片鱗すらあまり掴めていない。それは私にとって、どの角度からどのような攻撃を仕掛ければいいのか分からないことを意味する。つまり、現時点ではまだ「下手な鉄砲数打ちゃ当たる」状態なのだ。と言うのは少し間違いで、厳密には数打っても当たっていないのだが。


「美味しいなぁ」


 ほとんど毎日食べているくせに、その度に初めて食べたような反応を彼は示す。その無邪気な顔、いつまで保っていられるかな?


 この1ヶ月、何も出来ずに無駄に過ごしてきたわけじゃない。ひとつわかったことは、食事の時の彼は普段の真面目な感じから若干わんぱくになるということだ。決して食べ方が汚いというわけではないが、少しがっついてみせたり米粒を口元に付けたりしてしまうのだ。今日はそこを突いてみようと思う。


 この時間は特にお腹が空いているのか、彼はいつも茶碗を片手にガツガツと食らっている。彼の頬には1粒の白米が輝く。きた!散々シミュレーションした成果を見せるは今!!


「もう、そんなにがっつかなくてもご飯は逃げないよ?」


白星の摘み食い(テイク・ワンピース)』。注意をしながらもさりげなく頬の米粒を指で掠め取り、それを自らの口に運ぶ。比較的高難易度の技ではあるが、1度しか使えない可能性もある。自分で言うのもアレだがインパクトが強い技なので相手が気をつけてしまってそれ以降頬に何か付けることがなくなるかもしれないからだ。さて、攻撃はここで終わらない。コンボ発動だ。


「女の子にもそんな風にがっつくのかな?」


 中学時代に毎日練習したことで、今では息をするのと同じくらい自然にできるようになった小悪魔的な笑みを浮かべた。目を細めてニヤケ顔まではいかないほどに口元を緩ませる。1回の戦闘で数度使用できる通常必殺技だ。そして、彼の食べ方に絡めた挑発的な言葉。こんな頭のおかしいことを脳内で繰り広げているのだ。少しも恥ずかしくない程度には、ネジは数本飛んでいる。


 かなり直接的な表現だった。効果はあったはず!!


「女の子に……がっつく?僕、人間は食べませんよ」


 伝わってない!!?嘘でしょ!?彼は私が冗談を言っているのだと思っているようだ。「愉快な人だ」とでも言いたげに、朗らかに何も知らないまま笑っている。私は命中すると半分確信していたので、眼前の純真すぎる後輩に思わず箸を止めてしまった。正直、かなり頼りにしていたので、これ以外の攻撃をあまり練れていない……。どうする、古典的な「アーン」作戦で行くか?


 ピトッ


 ペロッ


「さっきのお返し、というか恩返しですね。ソース、付いてましたよ」


 ふいに身を乗り出した彼は人差し指で私の口元に触れて、その指を舐めた。私は頭から煙を出した。いや、実際には出てないのだが、正気を保っていないと本当に出てしまいそうだ。ソースがついていたことなどどうでもいい。そのくらい、彼の行動はごちゃごちゃ考えていた私の脳内を一瞬で沸騰させた。


 私の負けだ。今日はもう何も考えられない。不思議でたまらなかった。どうして私が勇気と愚策を振り絞ってやっと実行できることを、一瞬で、それもごく自然に彼はできるのか。こんなの……余計に好きになっちゃうじゃん。


 けど……やられっぱなしじゃいられない。どうにかして一矢報いてやる。私はキレイに食べ終わった彼の目を見ながら呟いた。


「次は……私を食べる?」


 蚊の羽音よりも小さな声になってしまった。「なんですか?」と聞き返されてしまい、私は頭からプシューと煙を出す。どうやら知らぬ間にネジが戻ってきたようだ。彼は難攻不落で、前途多難だ。

こんばんは。妄想を書き起こした駄文、2話目です。

学食というテーマだけ決めて、あとは書きながらその都度考えていきました。この作品を書く時は想像力をフル回転させないとダメなようです。

たくさんの方に見て頂いたみたいでありがとうございます。本作は気分転換のような感じで書いているので、良かったら他の2作も見ていってください。それでは。

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