通学路にて
「ずっと前から気になってました!あの……付き合ってください!!」
1ヶ月前、生徒会の一年後輩である真直純に私はそうストレートに告白された。好意を伝えることさえ手の平でササッと済ましてしまうこの時代に、悪い言い方をすれば使い古されたステレオタイプな告白に少し驚いた。
自慢ではないが、異性とこういった交友関係を持つのはこれが初めてではない。数えるのはいろいろと思い出してしまうので控えるが、それなりに健全なお付き合いをしてきた。
そのどれもが私の人生において良い経験となったが、殊更楽しいわけではなかった。そんな関係の中、私が見つけたひとつの悦びがある。
思春期の男子の桃色の心をこの手の内で弄ぶことだ。
こんな言い方だととんでもなくヤバい女に思われるかもしれないが、要はちょっとからかってその反応を楽しんでいるだけだ。その慌てふためいた表情を見ることやどんな反応をしてくるのかがとても楽しみなのだ。
プライドが高いことは自覚しており、人より1つ上に立てるように常に努力してきた。だから、彼氏に対しても支配していたいのかもしれない。そんな人生を歩んできた中で彼と出会ったのだが……。
効かない。
効かないのだ。
全く。
あちらから私にアタックしてきた以上、私に興味がないということはないはずだ。なのに、まっっったく効果がない。言葉だとまず伝わる事はなく、安っぽい色仕掛けもあまり通じていないみたいだ。
付き合い始めて1ヶ月。散々弄ぶつもりが、彼に一泡吹かせるために奔走している私がいる。
これは、そんな私と純真の極みに達している彼との物語である。
通学路にて
午前8時14分。気持ちの良い日差しを全身に浴びながら、私は彼と学校へ歩いていた。意外と私と彼の家が近いことが最近になってわかり、それ以降毎日待ち合わせをしてともに登校するようになった。この何気ない朝の風景も、私にとっては既に戦場なのだ。
「今日は何だか暖かいね。これじゃ上着はいらないかも」
『初夏の訪れ』。気温の上昇を確認しながらさりげなくブレザーを脱ぐ。通常攻撃だ。もちろんこれが彼に何かアクションを起こさせたことはない。これはいわば肩慣らし、ルーティンのようなものだ。
「そうですか?僕はまだまだ寒いように感じますけど」
そもそも彼はまだ暑いとすら思っていないのだ。これじゃ通じるものも通じない。私は小綺麗にブレザーを畳んで左手に持った。
歩道を歩く時はいつも彼を左側にしつつ歩道の左寄りを歩くように心がけている。チャンスは少ないのだが、この戦略は狭い道であるほど効力を発する。
大通りを抜けて細めの路地に入った時だ。イメージトレーニング時とほぼ同じタイミングで自転車がこちらに向かってくる。
『左寄りの接触』。自転車とすれ違うタイミングでそれを避けるようにして左へ寄りながらボディタッチをする、強攻撃だ。使用頻度や機会は少ないが、さりげなく身体に触れることができる絶好のチャンスだ。
自転車はちょうどいい感じに少しこちら側に寄っている。向こうが大きく避けない限り、成功の可能性は極めて高いだろう。いよいよすれ違う瞬間が近づく。さあ、食らいなさい!
「危ないですよ」
私が今にも彼に身体を預けようとしていたその時、彼は私の手をとって自分の背後に私を引っ張った。白線の内側で縦一列となった私たちの横を自転車は颯爽と通り過ぎていき、それを追う風が優しく頬を撫でた。
「左側通行、守って欲しいですね」
今この目に映る景色の何よりも温かな表情で微笑む彼の手は、どうやらとっくの前に私の手から離れていたようだ。触ろうと思ったのに、触られた……。横じゃなくて縦を行かれたか。でもまだ改良の余地はありそうだ。
そんなどうでもいいことを脳内で忙しく展開しているくらい、私は自分に素直じゃない。一瞬触れた彼の手の感触が糊を触ってしまった時と同じくらいしつこく鮮明に残っており、心臓はベタにバクバクさせていた。
自分の思い通りにしたいのに、そうはさせてくれない。そのもどかしさを抱えながら彼と過ごすうちに、彼が無意識に私を翻弄するうちに、気づいたら私は彼のことを好きになっていた。
CRYSTAL RISERと大学転生だけで手一杯なのに、書きたくて仕方なくなってしまいなぜか新連載を始めてしまいました。天日干しです。
僕の虚しい妄想をつらつらと書き綴っていくだけです。正直、完全に見切り発車でまだ深く練れていないです。タイトルすら、変更する可能性があります。
前述の2作品と比べて随分緩く書いていくつもりです。更新も気が向いた時にって感じです。文量もかなり短めにするつもりなので、気軽に見ていただけると嬉しいです。文章力はまだまだですが……。
長くなりましたが、読んでいただきありがとうございました!それでは。