表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
大魔鏡  作者: 河出 翠子
1/4

大聖堂にて

 この間、私がクリノア王国にある大聖堂に礼拝をすべく訪れたところ、周りの人間よりも歳を重ねたと思われる男2人が、これまた妖しい女と共に備え付けの長椅子に腰を下ろした。3人とも顔は老人の様ではないが、恰好が何となく古めかしい。何、服装は今でもよく見る体系であるのだか、デザインが二昔前と言うか何と言うか・・・。まあ、何かにつけて古く感じると言うことだ。私がその3人を注視していると、彼らは互いに笑いその中の男が話し掛けた。

「近頃、昔馴染みに出会って、この世で見たり聞いたりした事やあの殿下のご様子をお互いに話し合いたいと思っていた折に、嬉しい哉、お二方にお会いすることが出来た。いやはや、思っている事を心の中だけに閉じ込めておくのは、全く腹が膨れて仕様がない。連絡手段も乏しい頃の昔の人間は地面に穴を掘って言いたい事を叫んでいたのだろうか。返す返す久しぶりにお会い出来て嬉しい限りである。ところで、お前は幾つになったのだ。」

そう尋ねると、もう一人のガタイの良い男が

「そうさな、幾つになったのだろう。だが、俺は往生した騎士団のコルン元帥が少尉であった頃に舎人をしていた。あんたはトロドール王の御代の母后の仕えで有名な魔術師であったな。私が子供の頃、あんたは100少しだったから、まあ俺はそれくらいの年だ。」

と言った。と、隣の女が

「そうそう、ところであなたのお名前は何だったかしら。」

と尋ねた。

「俺が元帥の屋敷で元服仕った時、元帥が俺に『クスエド』という名をお付けなさった。」

などと男が答えたので、私は大層驚いた。コルン元帥というのは、確か大昔に死んでいるはずだからだ。

礼拝をしに来た人で教養のある者は、この奇妙な老人達の話をもっと聴きたくて寄っていった。中でも、騎士と思しき30過ぎの若者が彼らの前席に座り

「面白い事を言う人達だ。しかしながら俄には信じ難いものだ。」

と言うと、3人は互いの顔を見合ってクスクス笑った。さらに若者は

「貴方は年を覚えていないと言うが、お隣の貴男も覚えていないのか。」

と問うと、ひょろっとした男は

「いや、覚えておる。私は300歳になった。であるから、此奴は200ちょっとという所であろうか。私は長寿の魔法使いであるから、生まれてこの方13代の国王にお目にかかっている。」

と言ったので、私はなるほどと思った。

 牧師の説教を待つ間、手持ち無沙汰である私や他の人に気を利かせたのか、妖女が

「皆さんお暇でしょう、こちらにいらっしゃい。昔話をして、貴方たちに昔の時世をお聞かせしましょう。」と言った。

「それは良き事だ。」

と魔術師も同調した。

「大層面白い事だ。時々俺も思い出しながら相槌を打とう。」

とクスエドという男も言って、話そうと思っている様子、私を含む周りの人は早く聞きたく、心が惹き付けられた。


「この世は何とも面白いものです。それにしても、長く生き存えてきた老人は少しぐらい昔のことを記憶しているでしょう。昔、賢い君主が国中の年を重ねた人間を集めて昔の統治の様子をお尋ねになって老人達の言い分を考え合わせなさって政治を行ったのですよ。ですから、年寄りという者は大変尊いものであるのです。若人よ、年老いた者を軽んじてはいけないのですよ。」

そう言って妖女は年季の入った、黄色の紙を貼った扇で口元を隠して微笑んだ。彼女も相当歳を取っているのだろうが、皺一つなく妖艶である。

「私達が申し上げようと思う事は、ウィア殿下が今までより遙かに優れていらっしゃる事であるが、そうすると沢山の国王や大臣・公卿のお身の上を語らなくてはならない。貴方方は私達の昔話を聞いてゆくうち、今までのこの王国の歴史を余す事無く知る事が出来よう。」

とは魔術師の弁。この時、私には大袈裟に聞こえたけれど予想に反して素晴らしい話を続けた。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ