少女は快活に笑う
ピピッ!
鳴り響く電子音でやけに現実感が増す。部屋の真ん中で1人胡座をかいていた少女は目を見開き硬直する。
事の発端は今日の朝。いつも通りの寝坊でいつも通り少女が生活している、通称『駒鳥の園』の院長に怒られ、お国の為の奉仕活動を増やされた訳なのだが何故か少女、凛音の電子端末に一通の身に覚えのないメールがきたのだ。凛音は軽い気持ちで受け取ったメールを開いた。
『オメデトウゴザイマス!貴方ハ政府公認育成教育施設「ヤドリギ学園」ヘノ入学候補者トシテ選バレマシタ!至急転入スルヨウニ』
そこには孤児の凛音にはまったく無縁のようなヤドリギ学園への編入願いに凛音は今まだに対応出来ずにいた。
ヤドリギ学園というのは政府公認育成教育施設なだけであって1部の貴族などの上流階級等の身分が高い人々が行く学校である。
それに戦争が激化している今、完全シェルター化が完了してある施設が少ない中での1つな為、我先にと編入しようとする学校。そんな学校から直々に編入依頼が来たのだ。目を疑うしかないだろう。
凛音が目を凝らしながら端末をじーっと眺めていると、後ろからクスクスと笑い声が聞こえる。
「地蔵の様に座っててどーしたの?寝坊助。」
そいつは嘲笑うかの様に凛音を見下ろす赤髪の少年。凛音はにらみ返して悪態をつく。
「うっさい!八尋、あんたには関係ないでしょ!」
凛音の幼馴染である八尋は睨む凛音を意に介さず凛音へと届いたメールへと目を移す。
「……それ、どーすんの?胡散臭くないか。しかももし本当だとしてもヤドリギ学園は完全閉鎖型の学校だからここに…たぶん戻れないと思う。俺のところにもそのメールは届いたからお前の意見を聞いておきたいなって…」
少し悲しそうに目を伏せて八尋は答える。凛音は八尋を見てやっぱり、と思った。昔から八尋はそうだった。何だかんだで他人を気遣い、面倒見がよかった。今だってきっと凛音を心配した上での行動だろう。八尋を横目に少し幼い頃の記憶に耽った凛音は徐に立ち上がり電子端末を仕舞う。
「……拒否権なんてないでしょ。きっとどっちにせよお国の為にやらなくちゃいけないし。」
「やっぱりそうだよな……結局国家反逆罪で捕まる。でもなんで…俺らなんかに……」
深読みを始めた八尋を焦れったくて凛音は腕を引っ張る。八尋は驚いた様に凛音をを凝視している。凛音は今自分が出来る精一杯の笑顔で笑い、
「いいじゃん!折角の機会だよ。私達ずっと、ちゃんとした所で勉強してみたいなって話してたじゃん!」
前向きに考えよう、と八尋に声をかける。八尋も少し笑って
「……そうだな。分かった、邪推はやめとく。俺も入学する事にする。なんせお前もいるし問題起こした時の避雷針に出来るしな。」
八尋は嘲笑を浮かべる。凛音はムッとして言い返す。
「はぁ!?あんたいっつもそうやって私を利用してたの!?だから怒られてたわけ!?」
「はいはい。ほら入学承諾のメール送るぞ。院長が早く用意しろってさ。」
こうして2人でヤドリギ学園の門をくぐる事になる。その時まだ2人は知らなかった。何故この学校に招かれたのか。この学校がどんな所なのかを。
そして……己の犯した罪を。
兎束凛音と英八尋の入学承諾メールが送られてきた。画面を見て糸目の少女が小さく笑う。
「いらっしゃい。ゼンマイ仕掛けの駒鳥さん」