「ごめんなさい」その一言が言えたなら
拙作です。
恋愛小説難しい…。
「すみません、隣宜しいでしょうか。」
「あ、だいじょうぶです――」
私が何時も朝食を食べるのに利用しているコーヒー店で私は初恋の人であり、幼稚園に通う前からの付き合いである幼馴染と10年ぶりに再会した。
「りょうくん…?」
まだ幼馴染だと確信していなかった私だが、10年前と変わったようで変わっていない姿を見て昔から呼んでいた彼のあだ名を口走ってしまった。
すると彼は驚いた顔をして、目を細めながら私の顔を少し見つめ。
「里奈?里奈なのか?」
と再び驚いた顔をしてそう言った。
☆★☆★☆★
私と彼との関係は4歳の頃から中学3年生まで続いた。
私の両親と彼の両親が昔から仲が良く影響で昔から私達は一緒にいたし、よく遊んでいた。
小さい頃などよく私はりょうくんのお嫁さんになるー!何て言っていたものだ。
小さい頃のお嫁さんになる発言など当てにならず、大体は成長して行く内に色々な人と出会い、恋をし、忘れて行く事だろう。
だが、私は成長して行き、様々な人と出会う事で彼への気持ちを大きくして行った。
幼稚園に入り、私は男の子達にいじめられた。子供の頃の良くある気になる子にちょっかいをかけていじめてしまうあれだろう。そんな事は幼稚園児であった私には分からない。そしてそんな私を守ってくれたのがりょうくんだ。
りょうくんは何時も里奈ちゃんは僕のお嫁さんだから僕が守るんだ!とか言って私の前で私を守るように小さい体を目いっぱい広げて立っていた。その時から幼心ながら私は彼に恋をしていた。
その恋心は年を重ねるに連れて大きくなって行った。小学校高学年になる頃には彼は少しモテて来ていて女の子と話す事が増えていた。このままではりょうくんが取られちゃう!と思った私は5年生のある時彼に告白をした。
小学校からの帰り道、夕日が沈んでいる時に夕日をバックに彼の方を向き。
「りょうくんが好きです。付き合って下さい。」
とシンプルに告白をした。
余談だが何となく夕日を背に告白するのがロマンチックな気がして行ったが、後に彼にあの時逆光で顔がまともに見れなくてロマンもクソもないと言われたのもいい思い出だ。
そして、彼からの返事を貰い私達は晴れて付き合うことになった。
その後の生活はかなり順調だった。
学校の行き帰りを一緒に歩き。
休日には彼の家に遊びに行ったり。
はたまた、彼が私の家に来たり。
彼といるだけで何気ない日常が楽しくて、こんな日々がずっと続くと思っていた。
中学校に入りお互い違う部活に入ったけれど、私達の関係は変わらなかった。それどころか前よりも良くなっていた。
部活が違うので休日に休みが合う日には近場ではあったがデートに行ったりもした。
そんな何気ない日々を繰り返し、中学3年のテスト期間でお互いに部活が無いので一緒に帰っている帰り道で彼が私に言った。
「俺、親父の転勤でもうすぐ引っ越すんだ。」
今なんて言った?引っ越す?
私は衝撃を受け立ち止まる。
会話を止めたので道路を通る車の通る音や、セミの鳴き声がやけに鮮明に聞こえる。
私は言葉を絞り出しこう言う。
「もうすぐって何時なの?」
それを聞いた彼は少し俯いて言った。
「来週。」
私はそれを聞くと思わず声を荒らげてしまった。
「来週って何よ!いきなり過ぎじゃない!何で今まで言ってくれなかったのよ!」
それを聞いた彼も顔を顰めた後に声を荒げ
「しょうがないだろ!俺だって気持ちの整理が出来てなかったんだから!」
少し前から彼は元気が無かったのだから引越しのせいであったのだろう、それを考えれば彼が辛かったと言うのも納得出来るが、この時の私はまだそこまで大人では無く、好きな人が引っ越す衝撃でそんな余裕が無かった。
「知らないわよ!りょうくんのバカ!」
そんな事を言って私は両目に涙を浮かべながら家へ向かって走り出した。
真夏の日差しが私の肌をジリジリと焼くように私の心もジリジリと焼かれている、そんな気がした。
家に着いてからの事は余り覚えていない。
疲れてそのまま寝てしまった気がするし、彼との想い出を振り返りながら涙を流していた気もする。
彼と連絡を取らないまま彼が引っ越す日になった。
2回目ではあるがこの時の私はまだ子供であった為どこか意固地になり、彼を送る際に彼に会いに行くことをしなかった。
彼が引っ越してから彼からの手紙が何通か来たが、その返信もしなかった。その手紙も半年もしない内に来なくなった、こうして私達の関係は呆気なく終わってしまった。
☆★☆★☆★
その後月日を重ね、色々な人と出会い、別れ、私はりょうくんが1番だと気がついた。
彼よりも顔がいい男の人などいくらでもいた。
彼よりも頭のいい人もいくらでもいた。
彼よりも優しい人だって何人かはいた。
しかしその誰とも一緒にいて幸せになるビジョンが見れなかった。
そして、彼と再び再会した。
☆★☆★☆★
「里奈?里奈なのか?」
「やっぱりりょうくんなの?久しぶり!」
思わず私は立ち上がって少し声を大きくしてしまったので店内の人からの視線が集まる。それにすみませんと頭を下げ再び席に座る。
「10年ぶりぐらいになるのか?久しぶりだな里奈。」
「りょうくんが引っ越して以来だね。あ、あの時はごめんね。」
私がそう言って頭を下げると。彼は顔の前で手を左右に振り。
「いいって、俺だってもっと前から伝えるべきだったし。あの時はまだお互い子供だったんだ。」
彼がそう言ってくれて私の中に昔からあったしこりが取れた気がした。
そして10分くらい朝食を食べながらお互いに近状を報告したりと喋っていると唐突に彼が話題を変えた。
「そう言えば、里奈は今もあそこの家に住んでるのか?」
「そうだけど…どうしたの?」
私がそう聞くと彼は照れくさそうに右手で頬を掻きながら。
「いや、俺今度結婚式挙げるんだけどさ里奈にも招待状を送らなきゃなと、思ってさ。」
そう言った彼の顔は照れくさそうでいながらとても幸せそうで、私は頭の内側を鈍器で殴られた様な衝撃を受け、思わず彼から顔を背けた。それは彼の顔が見たくなかった訳でなく、私の目から涙が出てきているのを見られたく無かったからだ。
私は極力バレないように涙を拭い彼の方を向き、なるべく自然になるように笑顔を作りこう言った。
「そう。結婚おめでとう。幸せにね。」
そして私はわざとらしく時計を見て
「あっ、電車が来ちゃうからもう行くね、ごめん!」
そう言ってトレーを片付けて店を出た。
普段は不快な通勤ラッシュの満員電車が今日はそんなに気にならなかった。
☆★☆★☆★
そして、彼の結婚式の当日になった。
新婦と共にいる彼の表情は私が今まで見た事の無いくらいに幸せそうで、その隣にいる新婦もとても良い表情をしていた。
もしもあの時私が彼に謝ることが出来ていたなら
彼の隣に今いるのは私だったのだろうか。
彼を幸せにしたのは私だったのだろうか。
あの時、ごめんなさいとそのたった一言が言えていれば――