影だった者
「君のドッペルゲンガーを見たよ」
目の前にいる知人が帽子の下から呟くように私に言ってきた。
「ドッペルゲンガーとはなんなんだい?」
「知らないのかい? 日本で言うところの影の病だよ。ドッペルゲンガーに出会うと死んでしまうんだ」
僕は首をすぼめながらグラスに口をつける。
「そんな恐ろしいものとあったなんて言うんじゃない。僕はまだ死にたくないんだ」
恐怖の色を浮かべる僕を見て、彼は快活な笑い声を飛ばしてくる。
「そりゃあそうだろうな。事業は大成功で美しい嫁さんも貰ってでこれからってところだろうしな」
「ああそうさ。やっと念願が叶ったんだ。まだ死にたくないよ」
「いや死ぬんだよ」
その一言と共に帽子をとる。そこには僕の顔、いや紛う事なき僕が座っていた。
「君は死ぬ。この場で死ぬんだ。じゃないとドッペルゲンガーじゃない」
僕は何かを言おうとしたが口からこぼれ落ちたのは苦痛に満ちたうめき声であった。体を支える力がなくなり地面に倒れる。
薄れゆく意識の中で彼がそう言うのがはっきり聞こえた。
「十年前に君が奪った人生を返して貰うよ、ドッペルゲンガー君」
割と気に入った作品です。ただ影をドッペルゲンガーに解釈したのはむりくりな気もしましたが。